DNAR患者の急変。本当に、何もしなくていいの?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はDNAR患者の急変対応について解説します。
神田直樹
北海道医療大学 看護福祉学部看護学科成人看護学講座/急性・重症患者看護専門看護師
DNAR患者の急変。本当に、何もしなくていいの?
DNARで行わない処置は「病状悪化による心停止時の心肺蘇生」のみです。その他の処置やケアは、行うことになります。
DNARの正しい認識
DNAR(蘇生適応除外)の同意がある場合は、「急変時、心肺蘇生処置は試みない」のが基本です。つまり、DNARの同意がある患者が急変して心停止に陥った場合、心肺蘇生は行いません。
DNARは、患者もしくは家族などの代理者が意思決定したことであり、その意思を尊重することは、倫理的側面から考えてもきわめて重要なことです。
しかし、勘違いされがちなのが「DNAR=何も治療しない」という誤った認識をもつスタッフがいることです。この認識の違いが、しばしば現場の混乱を招き、倫理的ジレンマを助長します。
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DNAR ≠ 延命治療の中止
DNARは、あくまでも「心停止時に蘇生処置を試みない」ということであり、それ以外の処置やケアは行います。DNARは、延命治療の中止や縮小とは異なるということを認識することが重要です。
例えば、DNARの同意が得られている患者に「血圧低下時はカテコールアミンを増量」という指示が出ている場合があります。その場合は、DNARであっても、指示の範囲内でカテコールアミンを増量する必要があります。DNARであってもまったく何もしないわけではないのです。
「DNARだから何もしない」という誤った認識は、安易な延命治療の縮小や中止につながる恐れがあるため、慎重な対応が必要です。DNARと、終末期医療の議論や合意形成は、別々に行われるべきです。
心肺蘇生を中止せざるを得ないとき
急変(心停止)患者を発見し、すみやかに心肺蘇生を開始したとしても、残念ながら、すべての患者を救命できるとは限りません。いくら心肺蘇生を継続しても、呼吸と循環が回復しない場合には、心肺蘇生の中止を検討することになります。
心肺蘇生の継続と中止について、明確に定められたガイドラインはありません。そのため医療現場では、その患者の背景や病状などを含め、個々のシチュエーションに沿って、医師が検討しているのが実情です。
私たち医療者は、決して「◯分経ったから…」などと時間で区切るような安易な考えに陥らず、患者の尊厳をおろそかにすることのないように配慮すべきです。したがって、医師だけでなく、かかわるすべての医療者、そして、患者家族などキーパーソンとの十分な合意のもとに、どのようにすべきかを決定することが不可欠となります。
(道又元裕)
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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社