DNARの正しい知識
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はDNARについて解説します。
道又元裕
Critical Care Research Institute(CCRI)代表
DNARとは「患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定を受けて心肺蘇生法を行わないこと」1)と定義されています。DNRやNo‐CPR、ナチュラルコースなどという用語も、似たような意味合いで使われています。
DNARは、心肺停止に陥ったとき、心肺蘇生を行っても蘇生する可能性が低いと考えられる場合には、心肺蘇生を試みないでほしい、という患者本人や患者の代理者の意思表示です。
言い換えれば、病状悪化によって心肺停止になった場合は心肺蘇生を行いませんが、想定外の事象(食事による窒息など)によって突発的に心肺停止となった場合は「蘇生の可能性が高い」と考え、原則として心肺蘇生を行います(表1)。
DNARの現状
本来、DNARは、あくまで心肺蘇生に関する患者の意思ですから、その他の治療(人工呼吸器、薬剤投与、輸液、経管栄養など)は無関係です。しかし、臨床では、すべての積極的治療を行わないことがDNARだと誤って理解している医療者もまだまだみられます。
また、DNAR指示は、①医師・看護師を含む多職種の間で妥当性が確認されていること、②患者またはその代理者が正しくその概念を理解して希望していること、の2つを満たしていなければなりません。欧米と異なり、わが国では、自らDNARの希望を口に出す患者は多くないため、医療者側の考えを押しつけてしまわないよう、細心の注意を払う必要があるでしょう。
なお、DNAR指示は、患者や代理者の要望があれば、いつでも変更可能です。「入院時に DNARだったから」と機械的に判断するのは避けましょう(表2)。
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DNARの患者に対する急変対応
急変した場合(または急変の前ぶれサインがみられた場合)には、患者または家族に「現在でもDNARの意思があるか」を確認しましょう。「やっぱり心肺蘇生をしてほしい」と希望されたら、すみやかにDNAR指示を取り消します。
ドクターコールのタイミングにも、注意が必要です。バイタルサイン(特に心拍数)が低下してきたら、医師に状況を報告し、「今後、どのような状況になったらドクターコールすべきか」を確認しておきましょう。
家族への連絡にも、注意が必要です。事前に家族の意向を確認し、臨終以前に患者のそばについていたいという希望がある場合は、間に合うように家族に連絡します。
看護師サイドでは判断がつかない場合には、医師に状況を報告する際、「家族に連絡したほうがよいか」もあわせて確認しておくとよいでしょう。
●本来、DNAR指示で差し控えが考慮されるのは「心静止の際の胸骨圧迫」「心室細動の際の胸骨圧迫」「心室細動への電気ショック」の3つです。
●しかし、実際には、気管挿管や、人工呼吸器・補助循環の装着、血液浄化療法など、侵襲的な医療行為を中心とした「治療開始の差し控え」が行われている場合も少なくありません。
●患者にとって最善の医療を提供できるよう、現状を冷静に分析し、チームで話し合ってみてはいかがでしょうか。
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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社