気管挿管後の換気補助。「30:2」でなく「非同期」で行うのはなぜ?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は気管挿管後の換気補助について解説します。
田中 浩
東京都立広尾病院 救命救急センター主任/救急看護認定看護師
気管挿管後の換気補助。「30:2」でなく「非同期」で行うのはなぜ?
気管挿管後は、吐物による誤嚥の危険が少ないためです。
CPR(心肺蘇生)実施時に、バッグバルブマスクを用いて人工呼吸を行う際は、施行者が1人でも2人以上でも、同期CPR(胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を交互に行うこと)で行います。
一方、高度な気道確保(気管挿管など)が実施された場合は、非同期CPR(胸骨圧迫を中断せず、同時に人工呼吸を行うこと)が可能です。この場合、1人が胸骨圧迫を連続的に行う一方で、もう1人がバッグバルブマスクで人工呼吸を行います。
気管挿管前は「30:2」
気管挿管前に、人工呼吸と胸骨圧迫を同時に実施すると、口や鼻から入る空気と、肺から押し出される空気がぶつかることになります(図1)。その結果、何が起こるでしょうか?
マスクの隙間から空気が漏れるだけではなく、逃げ場を失った空気が食道に押し出され、胃に流れ込みます。その結果、膨張した胃が限界を超え、口腔へ胃内容物とともに空気が逆流し、嘔吐が生じてしまうのです。
気管挿管前の胸骨圧迫と人工呼吸は30:2で実施し、同時に行わない(=同期CPR)のは、そのためです。
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気管挿管後は「約10回/分」
気管挿管後は、気管チューブによって確実に空気が肺に送られるため、食道から胃に空気が流入する危険は減ります。そのため、非同期CPRでも問題がないのです。
なお、非同期CPRにおける人工呼吸は約10回/分(約6秒に1回)が適切とされています。非同期CPRでは換気回数が過剰になりやすいとの指摘1)があるため、注意が必要です。人工呼吸回数が多すぎると、平均胸腔圧が上昇し、静脈灌流が妨げられ、冠灌流圧が低下し、ひいては蘇生率が低下してしまう可能性があるためです。
ちなみに、バッグバルブマスクによる人工呼吸は、同期CPRでも非同期 CPRでも、1回当たり1秒で胸郭が上がる程度の換気量がめやすとなります。
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引用・参考文献
1)日本救急医療財団心肺蘇生法委員会 監修:救急蘇生法の指針2015 医療従事者用 改訂5版.へるす出版,東京,2016:70.
2)日本救急医学会 監修:標準救急医学 第5版.医学書院,東京,2014.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社