乳頭トラブルのケア|乳房・乳頭トラブルへの対応④
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は乳頭トラブルのケアについて解説します。
山下 恵
中部大学生命健康科学部保健看護学科講師
油井友美
元・汐見台病院助産師
乳頭トラブルのケア
原則として、乳頭トラブルが生じてからのケアではなく、予防的ケアが重要である。
乳頭ケア時の注意点
①授乳時間や授乳回数を制限することは、乳頭トラブル予防には効果がないという報告がある。そのため、児の欲求にあわせた自律授乳を行う。
②感染していない場合、原則として授乳は中止せず、続行する。しかし、創傷が激しく授乳時に激痛を伴う場合は、一時的に授乳を中止してもよい。その場合は、乳房の緊満を避け、搾乳を行う。
③乳頭痛の緩和のため、授乳時に乳頭保護器を使用する場合があるが、これは単に疼痛への対処法であり、乳頭トラブルが治癒するわけではない。そのため、安易に乳頭保護器を使用しない。
1授乳指導
目的
授乳婦の乳房の形にあった授乳方法ができるように援助し、不適切な授乳方法による乳頭トラブルの発症や悪化を予防する。
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2乳頭の清潔保持
目的
乳房環境の悪化による皮膚トラブルの発症を予防し、乳頭トラブルの発症や悪化を防ぐ、また、乳頭創傷部からの細菌感染を予防する。
内容
・授乳婦は、授乳前後に手洗いをする。
・母乳パッドはこまめに交換する。
・シャワー(入浴)時に、温水と(殺菌作用のない)石けんで乳頭を洗う。
留意点
・毎回の授乳後、消毒剤入りの清浄綿で乳頭を清拭する必要はない。
・同じパッドを4時間以上あて続けない。
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3塗布法
ラノリン軟膏や馬油、オリーブオイルなどがよく用いられる。また、授乳婦の乳汁を乳頭に塗布する方法もある。
塗布剤の効果
どの塗布剤が乳頭トラブルの予防や治癒に最も効果があるかに関しては、いまのところ実証されていない。
目的
軟膏やオイル、クリームなどの塗布剤や、授乳婦の乳汁を乳頭に塗布し、乳頭の保湿を行う。
手順
1授乳後、手洗いをする。
2湿らせた清潔なガーゼなどで、乳頭に付着した乳かすや乳汁、児の唾液を軽く拭き取る。
3塗布剤の場合:塗布剤を容器から出し、乳頭に塗布する(図1)。
乳汁塗布の場合:乳汁を少量搾乳し、乳頭に塗布する。その後、乳頭を乾燥させる。
留意点
・塗布剤を塗布した後に下着を着用すると、下着が汚れたり、下着に乳頭が張り付くことがある。そのため、塗布後はしばらくの間、乳頭を乾燥させたり、母乳パッドを着用する。
・乳頭への塗布剤の塗布により、児が塗布剤を口にする可能性が高いため、児にとって安全であるものを用いるのがよい。また、低アレルギー性や静菌性なども考慮する必要がある。
・乳汁によって、乳頭や乳頭周辺部の皮膚がかぶれる場合もあるため、注意する。
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4湿布法
目的
乳頭や乳頭周辺部の状態を湿性環境に保つことで、創傷治癒を促す。
方法
授乳後手洗いをしてから行う。乳頭に乳かすや乳汁などが付着している場合は、湿った清潔なガーゼなどで乳頭を軽く押さえ拭きをしてから行う。
①ハイドロジェル・ドレッシング材
手順
1乳頭部にハイドロジェル・ドレッシング材を貼用する(図2)。
②温水湿布
手順
1容器に温水を用意する。
2清潔なガーゼあるは母乳パッドを温水に浸す。
3余分な水分を絞り、乳頭に貼用する(図3)。
4約15分後に取り除く。
5乳頭を乾燥させ、下着を着用する。
③アロエ湿布
手順
1アロエ湿布の準備をする。アロエの葉を洗浄し、ゲル部を取り出した後、熱湯消毒をする。大きさを整え、容器に入れて冷蔵庫で保管する。
2アロエの水分をペーパータオルで軽く拭く。
3乳頭にアロエを貼用する(図4)。
4母乳パッドを装着し、下着を着用する。
5約2時間経過すると水分がなくなり、薄い繊維質だけが残る状態となる。そのときは、アロエ湿布を取り除く。
留意点
ハイドロジェル・ドレッシング材や温水湿布は、細菌感染した部位には貼用しない。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版