早期授乳|早期母子接触・早期授乳②
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は早期授乳について解説します。
細川直子
元・おおいしレディースクリニック助産師
松永佳子
東邦大学看護学部准教授
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
早期授乳
WHOのEssential newborn careでは、「生後1時間以内に母乳育児を開始すべきである。授乳の前には母乳以外のものを飲ませないようにする」ことの見解が示されている。
早期授乳の効果
正常新生児の場合
新生児にとって:
①母乳からの受動免疫により感染防御能を高める。
②長期に母乳育児を受ける傾向がある。
③新生児の低血糖を予防する。
S-IgAは、腸管乳腺経路・気管支乳腺経路などを通してつくられる。このS-IgAは腸粘膜の表面に広がり、細菌やウイルス、さらにはアレルギーの原因となる異種タンパクが粘膜を通過し、侵入することを妨ぐ効果があるとされている。
出生直後の児の状態
(生後30分〜2時間)
・はっきりとした覚醒状態にある。
・目を見開き、母親の声や周囲の様子に反応を示す。
・母親の乳首を探しあて、吸啜することができる。
・口、触覚、嗅覚を駆使して母親を認識することができる。
母乳成分の腸管粘膜への作用
人工栄養より母乳栄養のほうが、炭水化物の消化酵素であるラクトース活性が有意に高い。また、母乳中に含まれるリパーゼの代償作用によって脂肪分解がよく行われるため、脂肪の吸収が比較的よく保たれ、その吸収能の発達を促す1)。
さらに正常腸内細菌叢の形成が促進される2)。
これらによって、腸管からの消化吸収がよくなり、早期に腸管栄養が確立する。
母親にとって:
①新生児の吸啜により、血中プロラクチンの濃度が上昇し、母乳分泌量の増加につながる。
②新生児を「わが子」と認識する。
③長期に母乳育児を継続する傾向がある。
低出生体重児の場合
低出生体重児にとって:
①順調な体重増加が期待できる。
②経静脈栄養および入院期間が短縮する。
③順調な経腸栄養の進行と好ましい腸内細菌叢が確立される。
④腸管粘膜が成長する。
⑤小腸の運動パターンが成熟し、全消化管通過時間が短縮する。
⑥敗血症や壊死性腸炎の発生が低下する。
⑦高ビリルビン血症が減少し、光線療法期間が短縮する。
母親にとって:
①定期的な乳頭刺激によって乳汁分泌が維持しやすい。
②母乳を与えているという気持ちから罪悪感が軽減され、母子相互作用が確立しやすい。
早期授乳の介助
観察項目:
①看護者は常に新生児と母親から目を離さないようにする。
②生後数分後には新生児の呼吸状態(努力呼吸、陥没呼吸、多呼吸、呻吟、無呼吸)を観察する。
③新生児が嘔吐した場合は、そっと拭き取る。
必要物品:温めたバスタオル(数枚)
手順:
1出生後に、新生児を温めたタオルで拭く。
2裸のまま母親の胸に直接抱かせる(母親と肌と肌の触れあいができるようにする)。
3温かいバスタオルを母親も一緒におおうように新生児の上にかける。
4新生児の顔は横に向けて鼻腔をふさがないようにする。
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引用・参考文献
1)篠原公一、山城雄一郎:新生児の消化管機能の発達―早期授乳は消化管機能の発達を促進―、周産期医学、35(増):p.276-280、2005
2)市橋寛: 低出生体重児への早期授乳の効果、Neonatal Care、16(12):p.1070−1075、2003
3)中垣明美:新生児の呼吸循環適応過程からみた正規産正常分娩後のカンガルーケアの安全性の検討、科学研究費補助金研究成果報告、2009
4)日本周産期・新生児医学会理事会内「早期母子接触」ワーキンググループ:「早期母子接触」実施の留意点、2012
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版