分娩進行促進へのケアと処置

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は散歩や足浴、乳頭マッサージなどの分娩進行促進のケアについて解説します。

 

 

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

分娩進行促進へのケア

分娩第1期は産婦の活動量や食事摂取、疲労や不安により、有効陣痛が持続しなくなることがある。子宮収縮のメカニズムを理解し、有効な陣痛が発来するためのケアを行う必要がある。

 

分娩促進に向けたケアの有効性

子宮筋(平滑筋)は、自律神経により収縮が調整されている。分娩中の子宮収縮は、交感神経と副交感神経の活動により、バランスを保っている。

不安や恐怖感が強いと精神的緊張が強くなり、交感神経を過度に活動させ、子宮血管の収縮を亢進させる。子宮血管の収縮は血流を減少させるために、子宮筋への酸素供給が低下し、子宮収取の低下をまねく。したがって、散歩をしたり、足浴することは、精神的側面からも分娩を進めるためのケアとして有効である。

 

 

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散歩

目的と根拠

適度な散歩により、子宮体の重力が子宮口にかかるため、子宮口が刺激され子宮収縮を起こしやすくなる。

 

方法

・破水していないことを確認する。
・安全な歩道や階段昇降をする。
・安全の確保のために、産婦1人でなく夫や付添いや家族に同伴を勧める。

 

散歩

 

 

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足浴

目的と根拠

温熱刺激が下肢を支配する脊椎神経から腰部に伝わり、腰部の深部温が上昇する。これにより骨盤内の血管が拡張し血流が増加することで子宮筋への酸素供給が増加し、子宮収縮が生じる。

 

方法

・1回の足浴は15分程度とする。
・産痛により、体位を工夫する。オーバーテーブルにもたれかかり、座位の姿勢で行う。仰臥位での足浴は行わないが、ベッド上での足浴を希望する場合には、セミファーラ位とする。

 

足浴

 

 

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乳頭マッサージ

目的と根拠

乳頭をマッサージし、刺激を与えることで、産婦の視床下部が刺激され、下垂体後葉からオキシトシンが分泌されることで、子宮筋の収縮を促す。

 

方法

・陣痛の合間に実施する。
・乳頭と乳輪クリームを塗布する(図1)。
・乳頭の先を横方向にクルクルと刺激する。
・乳輪のやや外側に指を当てて、乳房の中心から乳汁を押し出すようにして、乳頭に指を向かわせる。

 

図1 乳頭マッサージ

乳頭マッサージ

 

 

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糖分の補充

目的と根拠

グルコースを摂取することで、子宮筋の収縮を促す(詳細は「分娩期の食事」参照)。

 

 

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産婦の体位の工夫

目的と根拠

子宮は収縮するときに前方に傾く。そのため仰臥位ではなく、座位で子宮が重力の抵抗を受けず、胎児の下降方向に重力のかかる方向が一致するため、分娩進行に効果が期待される。

 

方法

いすやアクティブチェアに腰掛けたり、ベッドの頭部を上げて膝の下に枕やクッションを入れた安定した体位が好まれる。

 

動ける産婦では、スクワッティングをする場合もある。スクワッティングは産婦の骨盤が最大限に開くため、後方後頭位(図2)などの回旋異常を矯正でき、胎児の下降を促すことが期待される。

 

後方後頭位とは

正常な児頭の回旋では、後頭が先進し恥骨結合側に回旋するが、後頭が先進し仙骨側に回旋することをいう。

 

図2 後方後頭位

 後方後頭位

 

前方後頭位と後方後頭位

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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