分娩期の食事

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は分娩期の食事について解説します。

 

山下 恵
中部大学生命健康科学部保健看護学科講師

 

 

分娩期の食事

原則として産婦自身で摂取できるように援助するが、分娩進行状況や産婦の状態に応じて必要時介助する。

 

調理形態や食器などを工夫し、産婦が飲食しやすいような環境を整え、体力の消耗を最小限にとどめる必要がある。産婦の状態および医師の指示などにより水分・食事摂取が十分にできない場合は脱水に注意する。

 

 

 

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分娩期の食事ケアの必要性

多くの産婦は、陣痛による苦痛と分娩に対する不安・緊張などから食欲や消化吸収力が低下する。また、陣痛によるエネルギー消耗や発汗などによる不感蒸泄の増加により、グルコース不足や脱水になりやすく、続発性微弱陣痛や血栓形成のリスク上昇につながることもある(図1)。

 

図1 食事ケアの必要性

分娩期の食事ケアの必要性

 

 

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分娩期の水分・食事摂取ケアの実際

水分摂取ケアの実際

・水分摂取の必要性を説明し、理解を得る。
・脱水症状の有無に留意する。
・ストロー付ペットボトル(図2)、吸い飲みなど産婦が飲水しやすいよう工夫し、適宜飲水を促す。
・飲み物の温度を工夫する(口渇時や体温上昇時は氷片を口に含ませてもよい)。
・甘味の強い果汁などを多量に飲むと嘔気・嘔吐を誘発することがある。

 

図2 ストロー付ペットボトル

ストロー付ペットボトル(写真提供:ピジョン)

(写真提供:ピジョン)

 

食事摂取ケアの実際

消化管に負担をかけず吸収がよく、短時間で血糖値が上昇する食品の摂取を促すとよい。

 

【食べやすい食品】(図3図4
・片手で摂取できるもの:おにぎり、サンドイッチ、バナナなど
・ひと口大で食べやすい形状のもの
・口当たりやのど越しがよいもの:アイスクリーム、ゼリー、プリン、フルーツなど
・産婦の好むもの

 

図3 食事例①

分娩期の食事例

ご飯を小さなおにぎりに変えたり、ストローを利用する

 

図4 食事例②

分娩期の食事例

 

子宮収縮1回に要するエネルギー代謝量1)

・分娩第1期:3kcal前後
・分娩第2期:3.5kcal前後

 

分娩各期の食事ケア

●分娩第1期:水分摂取&食事摂取の援助
陣痛間歇期に短時間で摂取しやすいよう調理形態などを工夫する。水分はコップ1~2杯/1時間を目安に摂取を促す。

陣痛による腸管圧迫等により悪心・嘔吐を生じることがあるため、飲食は少量ずつ摂取するように勧める。

 

●分娩第2期:水分摂取の援助
体温上昇、発汗、呼吸などにより口渇が起こりやすい時期である。口唇の乾燥など口渇の有無を観察し、産婦の意向を確認して、陣痛間歇時に水分摂取を促す。

 

●分娩第3期:水分摂取の援助
児娩出後、口渇を自覚する産婦も多い。産婦の意向を確認し、適宜飲水を促す。

 

●分娩第4期:水分摂取&食事摂取の援助
産婦の状態が安定し、出血などの異常がないことを確認したのち、産婦の希望があればベッド上で食事摂取できるように準備する。姿勢は座位が望ましい。

 

分娩1回に要する総エネルギー代謝量1)

・初産婦:約2000kcal
・経産婦:約800kcal

分娩中の飲食について5)

分娩中の飲食について、摂取制限をする場合としない場合で、分娩時の医療介入や分娩所要時間、嘔吐、児の予後などのアウトカムに差はない。

 

 

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引用・参考文献

1)遠藤哲弘:母体分娩時ならびに新生児エネルギー代謝量に関する研究.日本産婦人科学会雑誌、23(6)、p.459~467、1971
2)渡辺尚ほか:分娩時における脱水の評価.栃木母性衛生27号、p.8~10、2000
3)渡辺尚ほか:分娩時における脱水(第2報).日本産婦人科・新生児血液学会誌、10(1)、p.S53~S54、2000
4)井上奈津子ら:生体電気インピーダンス法を用いた分娩体水分動態の実験的検討.岡山県母性衛生26号、p.53~55、2010
5)日本助産学会:エビデンスに基づく助産ガイドライン-妊娠期・分娩期・産褥期 2020、2022年3月22日検索

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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