本態性高血圧
『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は本態性高血圧について解説します。
笹野香織
新東京病院看護部
〈目次〉
本態性高血圧とはどんな状態?
高血圧の約90%が本態性高血圧です。遺伝的背景や生活習慣の乱れ、加齢などによって発症するといわれています。
高血圧が慢性的に持続すると、動脈硬化や左室肥大を進行させ、脳卒中や心疾患などの重篤な疾患を引き起こすリスクが高くなります。これらの発症を抑制するために、治療が必要になります。
すでに糖尿病や腎疾患、脳・心血管疾患をもつ患者さんは、高血圧により、脳卒中や心疾患になるリスクがさらに高くなります(表1、表2)。そのため、個々の患者さんで降圧目標が異なります(表3)。
どんな治療を行うの?
まずは生活習慣の改善を行います。それでもコントロールがつかない場合、はじめて降圧薬治療を行います。降圧薬の内服が開始となっても、生活習慣の改善は継続することが必要です。
生活習慣の改善
日本の食塩摂取量は依然として多く、平成29(2017)年度の食塩摂取量の平均値は9.9g/日で、男性10.8g/日、女性9.1g/日となっています(平成29年「国民健康・栄養調査」)。過去10年間でみると男女ともに減少していますが、6g/日以下にはとうていおよばない値です。食塩摂取量を減らすことは国民の血圧水準を低下させるうえで重要です(図1)。
食の欧米化により、肥満に伴う高血圧が増加しています。
降圧薬治療
降圧薬はおもに、カルシウム(Ca)拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、利尿薬、β遮断薬の5つがあります(表4)。
目標血圧に向けて単剤投与(少量投与)から内服を開始し、降圧が不十分な場合は、2剤、3剤と併用して内服します。
本態性高血圧の看護
生活指導
高血圧では、患者さんに生活習慣を改善してもらうことが大切です。自宅での生活状態を聴取し、高血圧の原因となることは控えるように指導します。
患者さんの嗜好を知り、食事指導を行います。食事をつくっている人が誰なのか把握し、その人も一緒に食事指導に参加してもらえるように調整しましょう。
自宅でも血圧測定を行ってもらい、降圧薬の内服を開始してからの血圧推移を把握できるようにします。血圧が下がってきたからといって、内服を中断しないように説明することも大切です。「血圧が〇〇くらいまで下がったら外来を受診する」もしくは「病院に電話して薬をどのように飲めばよいか問い合わせる」などの説明をしておくことも大切です。
服薬指導
入院中の場合は、心疾患による血圧の低下や活動量の低下、病院食を摂取することによるナトリウム摂取量の低下などにより、入院前に内服していた降圧薬を飲み続けると血圧が下がることがあります。その際は、医師へ降圧薬を減量もしくは中止するか確認しましょう。
高血圧は軽視されやすい疾患です。そのため、処方された薬をしっかり内服している人は約40%前後ともいわれ、アドヒアランスが非常に悪いとされています。治療を受け、正常血圧を保つことは、心疾患や脳卒中のリスクを下げる、または再発予防につながります。そのことを患者さんに説明し、治療の重要性を理解してもらうことが大切です。
患者さんがしっかりと内服を継続できるように、薬を一包化したり、薬が朝昼夕と内服回数が多くなっている人には、医師へ薬の内服を再検討してもらい、飲み忘れがなくなるように調整することも看護師の役割になります。
高血圧の患者さんが、入院または外来に受診した際には、しっかり内服ができているのかを確認することも大切です。内服できていない患者さんには、なぜできなかったのかも一緒に聴取しましょう。このときに気をつけなくてはいけないことは、「患者さんを責めない」ことです。さまざまな環境にいる患者さんが、どうしたら内服治療が継続できるのか、一緒に考えましょう。
文献
- 1)安倍紀一郎,森田敏子:関連図で理解する 循環機能学と循環器疾患のしくみ 病態生理,疾患,症状,検査のつながりが見てわかる 第3版.日総研出版,愛知,2010.
- 2)医療情報科学研究所編:薬がみえる vol.1.メディックメディア,東京,2014.
- 3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧症治療ガイドライン2019.日本高血圧学会,東京,2019.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 循環器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社