あの人気医療ドラマで学ぶ「術中迅速病理診断」|けいゆう先生の医療ドラマ解説【19】
医療ドラマを題材に、看護師向けに役立つ知識を紹介するこのコーナー。
今回は特別編として、監修に病理の先生を迎え、過去の名作を題材に「術中迅速病理診断」について解説します。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
Vol.19 あの人気医療ドラマで学ぶ「術中迅速病理診断」
Check!
「術中迅速病理診断」が予定された手術では、術前に術式が確定していないケースもある。そのことを本記事で理解し、術前・術後のケアに生かそう!
「ドクターX」で描かれたIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)
最初に取り上げるのは、2017年に放送された「ドクターX 〜外科医・大門未知子〜第5期」の第6話です。
外科医の大門未知子は、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の患者さんに対し、膵臓を切除する手術を行います。
IPMNとは、膵臓の中を通る膵管内に盛り上がるように増殖する腫瘍で、時に悪性化する恐れもあります。
IPMNは、腫瘍が膵管の壁に沿って這うように広がっていく性質があるため、「膵臓をどこまで切除すべきか」という判断が難しいケースがよくあります。
切除するラインを正確に決め、腫瘍を取り残さないよう細心の注意を払わなくてはならないのです。
術前に、CTやMRI、超音波検査などで腫瘍がどのあたりまで進展しているかを調べ、切除範囲を慎重に判断することになります。
しかし、手術中に肉眼では見えない「取り残し」がないかどうかを判断することは、非常に困難です。
そこで大門が指示したのが「術中迅速病理診断」。
膵臓を切離し、断面を小さく切り取って病理検査室に送り、その場で「悪性細胞(腫瘍の存在を示す)があるかどうか」を診断してもらうわけです。
なければ手術終了、あればさらに切り足す、という判断ができます。
通常の病理診断では、手術後に摘出した腫瘍や臓器をホルマリンで固定したのち、さまざまな処理を経て数日〜1週間程度かけて診断がつく、という流れが一般的です。
しかし、この方法だと、今回のように「良性か悪性かによって切離ラインを変える」ということができません。
そこで、術中の限られた時間内に、異なる方法で迅速に病理診断を行う必要があるのです。
術中迅速病理診断では、採取したサンプルをホルマリン固定をせずに液体窒素などを用いて急速に冷凍し、凍ったままの組織を薄く切って染色を施し、病理医が観察、診断します。
通常の病理検査ほどの詳細な診断は難しくなりますが、非常にスピーディに組織を観察できるのが利点です。
「ドクターX」では、大門未知子が術中迅速病理診断を指示し、30分〜1時間ほど待って返ってきた結果を参照し、切除範囲を的確に決める、というシーンがリアルに描かれたのでした。
「グッド・ドクター」で描かれた成熟嚢胞性奇形腫
Ⓒフジテレビ
2018年に放送された「グッド・ドクター」第7話では、卵巣の奇形腫(成熟嚢胞性奇形腫)の患者さんが登場しました。
患者さんは、過去に卵巣嚢腫の捻転により卵巣摘出術を受けており、すでに卵巣が片側しかありませんでした。
この残った一方に奇形腫を発症します。
奇形腫は卵巣腫瘍の一種です。
多くは良性ですが、悪性の場合、手術による卵巣摘出が必要となります。
今回は、すでに一方の卵巣が摘出された患者さんだったため、妊孕性(妊娠できること)を考慮し、可能なら卵巣を温存しよう、という意図で手術が計画されました。
ここで用いられたのが「術中迅速病理診断」です。
卵巣腫瘍の一部をサンプルとして病理検査室に提出し、その場で病理診断を依頼。
悪性なら卵巣摘出、良性なら腫瘍だけを摘出して卵巣の正常部分を温存する、というプランになったわけです。
周術期のケアに生かそう
「ドクターX」「グッド・ドクター」のいずれでも、手術室に病理医から連絡が入り、病理所見が外科医に伝えられる、というシーンがリアルに描かれました。
私たち外科医は、このように病理医と密に連携しながら手術を行っているのです。
ここまで解説してきたように、「術中迅速病理診断」が予定された手術では、術前に術式が確定していないケースもあります。
周術期の患者さんを担当する際には、こうした手術のプロセスを術前の患者さんの心理面のケアや、術後の患者さんの看護計画立案に役立ててみてください。
・術中の病理診断によって術式が決まる手術があることに注意し、術前・術後のケアに生かそう!
【執筆】山本健人 やまもと・たけひと
(外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。2010年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
【監修】市原 真 いちはら・しん
(病理医ヤンデル)
1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒。医学博士。
病理専門医、細胞診専門医。札幌厚生病院病理診断科医長。
「病理医ヤンデル」という異名も有名。
図表作成/中山佳之(看護師・イラストレーター)
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
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