「白衣の戦士!」に学ぶ虫垂炎の治療法と患者への説明のポイント|けいゆう先生の医療ドラマ解説【15】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに役立つ知識を紹介するこのコーナー。
今回は「白衣の戦士!」第4話を取り上げます。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.15 「白衣の戦士!」に学ぶ虫垂炎の治療法と患者への説明のポイント
今回、新人ナースのはるか(中条あやみ)と、指導係の夏美(水川あさみ)が担当したのは、高校生の紗耶(川島鈴遥)。
急性虫垂炎の抗菌薬治療(保存的治療)を目的として入院しますが、ほどなく悪化。
腹膜炎が疑われ、手術が必要と判断されるものの、本人は手術を拒否します。
その理由は、お腹に傷が残ること。
好きな人と夏に海に遊びに行くことを心待ちにしている16歳にとって、お腹の傷は深刻な問題だったのです。
こうした生活背景を知った夏美は、その切実な思いを受けとめ、看護師として誠意をもって対応。
紗耶は手術を決意するに至ったのでした。
「虫垂炎切除術」をおさらい
急性虫垂炎に対して行われる手術は、「虫垂切除術」です。
つまり、盲腸から虫垂を切り離す手術ですね。
従来は、右下腹部に小切開を加える開腹手術を行うのが一般的でしたが、現在は多くの施設が腹腔鏡手術を行っています。
腹腔鏡手術のメリットとは?
腹腔鏡手術の大きな利点は、
・傷が小さいこと
・腹腔内全体がよく見えること
の2点です。
腹腔鏡手術のメリット(1)傷が小さいこと
腹腔鏡手術では、カメラを入れる穴と、術者の右手と左手の鉗子が入る穴の計3つの穴があれば手術が可能です。
施設によって方針は異なりますが、穴の大きさは概ね3ミリ〜1センチ以内と、非常に小さなものです。
へその穴を少し大きくし、3つの穴をへその1つにまとめて行う「単孔式」と呼ばれる手術を行う施設もあります。
急性虫垂炎は若い人から高齢者まで全年齢に広く起こりうる病気ですが、特に10〜20歳に好発します。
ご高齢の方の中には「傷の大きさは全く気にしない」という方も多いのですが、今回のドラマのように若い患者さんの場合、お腹に残る傷は生活の質を左右する深刻な問題になりえます。
こうした不安を抱えた患者さんには特に、傷の大きさや傷の位置などを早い段階で丁寧に説明する必要があるでしょう。
腹腔鏡手術のメリット(2)腹腔内全体がよく見えること
腹腔鏡手術の2つ目のメリットは「腹腔内全体がよく見えること」です。
開腹手術では、小さな傷から肉眼で腹腔内を見るため、見える範囲が限られますが、腹腔鏡手術では、カメラで腹腔内を広く見渡すことができます。
虫垂周囲の炎症が波及している範囲や、骨盤底に溜まった腹水の量や色なども観察できます。
腹腔鏡手術は、傷の小ささだけがメリットというわけではないのですね。
急性虫垂炎の治療方針
急性虫垂炎は軽症であれば、今回のドラマで最初に選択されたように、抗菌薬による「保存的治療」を選択することは可能です。
患者さんにもよりますが、「抗菌薬治療が可能な段階なら、なるべく手術は回避したい」と考える方も多いため、患者さんと十分に話し合い、治療方針を選択する必要があります。
保存的治療には2つの方法があり、内服薬で外来通院とするか、入院治療で注射薬を投与するかは、病状や施設の方針によって異なります。
保存的治療を選ぶ際、医療スタッフが患者さんに必ず説明すべきポイントが3点あります。
看護師として、医師の方針を理解したうえで患者さんに伝えられるよう、以下3つのポイントをおさえておいてください。
看護師がおさえるべき3つのポイント
(1)保存的治療でも改善が認められない場合は手術に切り替える
保存的治療を行う場合は、慎重な経過観察が必要です。
定期的にきっちり診察し、腹部所見の悪化がないかどうかを確認する必要がありますし、血液検査での数値の変化にも注意する必要があります。
治療の効果が認められない時は、素早く手術に切り替えなければなりません。
(2)保存的治療の効果が乏しい場合、今以上に病態が悪化するリスクがある
保存的治療で効果がない場合は、病態が悪化してからの手術となるリスクがあります。
もちろん、当初の予定通りの手術ができる可能性は十分あるものの、虫垂の穿孔(虫垂に穴が空いてしまうこと)により腹膜炎を広く起こしてしまった場合、虫垂切除術だけでは手術を終えることができないケースもあります。
重症化すると、小腸と大腸を一部切除する手術(回盲部切除)が必要となるケースもあります。
(3)保存的治療で治癒しても、一定の割合で虫垂炎を再発する
虫垂を切除する手術と違い、抗菌薬治療の場合、虫垂がお腹の中に残ったままです。
抗菌薬で治癒しても、10〜20%に再発するという報告もあります。
こうしたデメリットは十分に説明しておく必要があるでしょう。
患者背景への配慮に、看護師の専門性を活かして
若い方に起こった虫垂炎では、今回のドラマのように治療方針に悩むことは現実にもしばしばあります。
受験や部活動の試合、友だちとの旅行など、生活上の大きなイベントを控えているケースで、患者さんと一緒に頭を抱えたことは何度もあります。
今回のように、傷の大きさを気にされ、手術を拒否されるケースも少なくありません。
こういうケースでは特に、看護師をはじめ医療スタッフが積極的に患者さんと関わり、病気をどう捉え、どういう治療を望むのか、コミュニケーションを十分にとる必要があるといえるでしょう。
患者さんがどんな治療を選んでも、後悔しないよう、私たちは最大限のサポートをする必要があるのです。
・軽症の虫垂炎は抗菌薬治療を選択することが可能。
・患者背景を踏まえた上で、日常生活への影響や傷の大きさなどへの十分なケアが必要。
(参考)
・Liu K,et al.Use of antibiotics alone for treatment of uncomplicated acute appendicitis: a systematic review and meta-analysis.Oct;150(4),2011,673-683.(PMID: 22000179)
・小俣政男ほか 監修.専門医のための消化器病学 2版.医学書院,2013,704p.(ISBN978-4-260-01835-7)
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
最終更新日時 2019/6/27
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