「白衣の戦士!」に学ぶ膵がん患者さんのケア|けいゆう先生の医療ドラマ解説【14】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに役立つ知識を紹介するこのコーナー。
今回は、2019年4月10日から放送中の「白衣の戦士!」第3話を取り上げます。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.14 「白衣の戦士!」に学ぶ膵がん患者さんのケア
四季総合病院の新人ナース、はるか(中条あやみ)が今回担当したのは、膵がん患者、元ナースの加奈(財前直見)でした。
入院時、すでに肝臓と肺に多発転移があり、病期はステージⅣと診断。
外科医の柳楽(安田顕)は、加奈に切除不能である旨を伝え、化学療法の選択肢を提示しますが、加奈はこれを拒否します。
入院中、加奈は元ナースとしてはるかに対して厳しく当たりますが、はるかのまっすぐなケアに心を動かされ、最終的にははるかの持ち味を評価し、四季総合病院で最期を迎えました。
厳しい膵がんの予後
膵がんは、消化器がんの中でも圧倒的に予後の悪い悪性腫瘍であることは、みなさんもよくご存知でしょう。
全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査 KapWeb(2017年5月集計)による、膵がんの進行度別の生存率の一覧表を見てみてください。
(対象:2006~2008年に診断された膵がん患者)
国立がん研究センターがん情報サービスを基に編集部作成
この表から読み取れることは3つあります。
まず1つ目は、最も進行した段階であるステージⅣ膵がんの5年生存率は、わずかに1.4%と極めて予後が悪いこと。
2つ目は、最も初期の段階であるステージⅠの症例数は全体のわずか6%
そして3つ目は、ステージⅠであっても5年生存率は41.2%と、他の消化器がんに比べるとかなり低い水準にあること、です。
比較対象として、大腸がんの進行度別の生存率一覧表を見てみてください。
(対象:2007~2009年に診断された大腸がん患者)
国立がん研究センターがん情報サービスを基に編集部作成
ステージⅠの大腸がんの5年生存率が97.6%と高いことや、各ステージの症例数に膵がんほどばらつきがないことがわかるかと思います。
(期間が異なるため単純な比較はできませんが、あくまで目安です)
実際、膵がんは初期の段階では症状がなく、進行してから見つかるケースは少なくありません。
今回の加奈のように、発見時に切除不能、というケースは比較的多いということです。
また膵がんには、大腸がんにおける便潜血検査のように、死亡率減少効果が証明された検診の手段がありません。
さらに、初期の段階で発見できたとしても、再発率が高く、手術や化学療法をもってしてもコントロールが難しい疾患です。
膵がんの予後改善のため、さまざまな研究がなされており、今後の新たな知見に期待したいところです。
がん終末期の病態変化
加奈はステージⅣの膵がんでしたが、入院時にはるかが「深刻な病状には見えない」と思わず言ってしまうほど見た目は元気でした。
ところが、入院後に坂道を転がり落ちるように病態は急激に悪化。
短期間で最期を迎えることになりました。
膵がんに限らず、がん終末期の一般的な経過として、このような描写は非常にリアリティがあります。
がん患者さんは、終末期が近づいていても、単調に体の状態が落ちていくわけではありません。
しばらくは、ご自身でいつも通りに近い生活ができるくらい元気でありながら、最期の1カ月程度で急激に身体機能が障害されていく、というケースが典型的です。
以下は、死亡までの直近の生存期間と日常生活動作の障害の出現率を表したグラフです。
恒藤暁:最新緩和医療学(最新医学社)を基に編集部作成
ご覧の通り、死亡の10日前から、移動、排泄、食事、会話などの身体機能障害の出現頻度が急カーブを描いて上昇しています。
劇中で、昨日までできていたことが突然上手くできなくなり、加奈がショックを受けるシーンがありましたね。
最期の段階では、ご本人も周囲の人から見ても、短期間で状態が悪化していくのがわかる、というパターンはよく見られます。
ところが、こうした経過が典型的であることは、一般には知られていません。
ご本人はもちろん、ご家族も、患者さんの急激な変化を見て精神的につらい思いをしたり、パニックになったりすることもあります。
看護師の方からも、ご家族の心理面に配慮しながら、必要な場面では声かけなどを積極的に行っていくのがよいかと思います。
もちろん、すべての患者さんが典型的な経過をたどるとは限りませんし、例外もあるでしょう。
しかし、がんの患者さんやそのご家族と接する際、終末期ケアを考える上では、こうした特徴的な経過を理解しておくことが大切なのです。
・膵がんの予後は著しく悪い。その理由をおさえておこう。
・終末期の患者さんは短期間で急激に状態が悪化することが多いため、ご家族の心理面に配慮した関わりを意識しよう。
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通してさまざまな活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
最終更新日時 2019/6/27
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