せん妄を鎮めるくすりには何がありますか?

『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、せん妄を鎮めるくすりについて解説します。

 

せん妄を鎮めるくすりには何がありますか?

 

せん妄に対する薬物療法には,主に抗精神病薬が使用されます.
内服では非定型抗精神病薬のリスペリドン,注射薬では定型抗精神病薬のハロペリドールなどがよく使用されています.
低活動型せん妄の場合は,抗うつ薬の1 種であるミアンセリン(テトラミド),トラゾドン(デジレル)も用いられる場合があります.

 

〈目次〉

過活動型せん妄の主なくすりはハロペリドールとリスペリドン

ハロペリドールとリスペリドンを用いたせん妄治療の無作為試験によれば,両剤とも有意にせん妄を改善し,同等の有効性が認められています.しかし,ハロペリドールの方がパーキンソン様症状や不随意運動などの錐体外路障害の発症が多く,リスペリドンの方が使用しやすい薬物であることが示唆されています1)

 

興奮などが著しく内服が困難な場合には,静脈内注射であるハロペリドールは重要な選択肢です.

 

表1内服可能なせん妄への定期投与① 従来から用いられている向精神薬

内服可能なせん妄への定期投与① 従来から用いられている向精神薬

 

せん妄に用いるほかのくすり

臨床的にはリスペリドンがよく使用されますが,そのほかにもペロスピロン,クエチアピンオランザピン,ブロナンセリン,アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬があり,それぞれにせん妄に対する使用の報告があります.しかし,耐糖能異常,悪性症候群,無顆粒球症といった副作用があるため慎重な使用が求められます.

 

患者さんの興奮が激しく鎮静が必要な場合には,ベンゾジアゼピン系薬剤の非経口投与が行われることもあります.

 

表2内服可能なせん妄への定期投与② 第2 世代抗精神病薬の高齢者に対する初回量・維持用量(/日)

内服可能なせん妄への定期投与② 第2 世代抗精神病薬の高齢者に対する初回量・維持用量(/日)

 

治療目標はあくまでも患者さんの意識状態の改善

せん妄治療の原則は3 つの因子,①直接因子,②誘発因子,③準備因子を除去するまたは最小にすることです.

 

薬物療法はあくまで対処療法であり,検査・治療の際に行う数時間単位の鎮静,数日単位の精神症状の治療,睡眠-覚醒リズムを整えることを目的に行われます.薬物によって眠らせるだけではせん妄の改善につながりません.

 

患者さんの意識清明な状態への改善があくまでも治療目標です.

 

せん妄に保険適用のある薬剤

初期の鎮静やアルコール離脱せん妄にベンゾジアゼピン系薬剤を単独で使う場合を除いて,せん妄に対する薬物療法の中心は抗精神病薬です.

 

実際の臨床では主に抗精神病薬が用いられていますが,日本では,せん妄に保険適用のある薬剤はチアプリド(厳密には「脳梗塞後遺症に伴うせん妄」)のみです.

 


[文献]

  • 1)Han CS, Kim YK : A double-blind trial of risperidone and haloperidol for the treatment of delirium. Psychosomatics 45(4) : 297-301, 2004

 


[Profile]
鈴木 貴明 (すずき たかあき)
千葉大学医学部附属病院薬剤部

 

*所属は掲載時のものです。

 


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行

 

“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100

 

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