アルコール離脱せん妄とベンゾジアゼピン系薬剤
『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、アルコール離脱せん妄とベンゾジアゼピン系薬剤について解説します。
〈目次〉
アルコール離脱せん妄にベンゾジアゼピン系薬剤を単剤使用する理由
ベンゾジアゼピン系薬剤はせん妄を誘発しやすいのですが,アルコール離脱せん妄の治療にはベンゾジアゼピン系薬剤を単独で使用します.
それは,以下のようなアルコール離脱せん妄のメカニズムに依っています.
① アルコール依存症者では,脳内の抑制系神経GABA(γアミノ酪酸)ニューロンが常にアルコールにさらされているため,アルコールが入った状態で下流の興奮系ニューロンをちょうどよく制御するように機能が変化しています.
② 急激にアルコールを断酒してしまうと,GABA ニューロンの働きが停止してしまい,その支配を受けている下流の興奮系ニューロンが著しく活性化し,振戦・発汗(アドレナリン系),不安焦燥(セロトニン系),幻覚(ドパミン系)が生じます.これが離脱せん妄の病態です.
そこで,治療として,GABA ニューロンに作用するベンゾジアゼピンを用いて,アルコールの役割を置換します.これがベンゾジアゼピン置換療法です.すると,GABAニューロンがすみやかに作用を再開し,下流の興奮系ニューロンにブレーキが掛かり,②のような症状が収まります.
興奮や幻覚が強い場合
アルコール離脱症状の初期に気づいた場合は,外来でベンゾジアゼピン系薬剤を予防投与することで,せん妄の発症を阻止できることがありますが,多くは,興奮や幻覚が強く大暴れの状態でせん妄発症に気づくことになります.その場合は,抗精神病薬を併用せざるをえません.
せん妄ケアの対象として,アルコール離脱は特殊である
アルコール離脱は,せん妄としてみた場合,病態としても治療としても特殊です.
ベンゾジアゼピン投与も必須ですが,それ以上に,バイタルサインのモニタリング,ビタミンB1大量投与,血糖・電解質補正などの救急処置が求められます.また,その激しい症状から精神科病棟管理になることも多いのです.
[Profile]
渡邉 博幸 (わたなべ ひろゆき)
千葉大学社会精神保健教育研究センター
*所属は掲載時のものです。
本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行