気管挿管患者の口腔ケア あなたは洗浄派?それとも清拭派?

気管挿管患者への口腔ケアは、単なる清潔ケアという意味だけではなく、VAP(人工呼吸器関連肺炎)などの合併症を防ぐという意味において、重要な看護技術です。

 

その口腔ケアの重要なポイントの一つ、口腔内ブラッシングを行った後、汚染物の回収を洗浄法で行うか清拭法で行うかについて、2018年6月30日(土)~7月1日の第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会『Pro-con4 気管挿管患者の口腔ケア(清拭派 vs洗浄派)』で議論が交わされました。

 

※Pro-con(プロコン)とは、一つのテーマに対して賛成派(推進派)と反対派(慎重派)で役割を分担し、多様な意見があることを示す講演の一形式です。


安藤有子氏、剱持雄二氏、田戸朝美氏

左から、洗浄派の立場で講演を行った安藤氏、清拭派の立場で講演を行った剱持氏。右は、司会の田戸朝美氏(山口大学大学院医学研究科)

 

INDEX

正式発表が待たれる「人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案)」

複雑で高度な技術を要する洗浄法。それでも、使用する理由は?

(1)理由① 救命センターに搬送されてくる患者さんの口腔内は、汚染されていることが多いため

(2)理由② 患者さんに日常性を思い出してもらうため

(3)理由③ 患者さんの口渇を和らげるため

(4)洗浄法は、行う側に優れたスキルが求められる高度な看護技術

データから見る清拭法を勧めるワケ

(1)洗浄法は、意識がない人に対しては難しい手技

(2)ICU入院患者さんが最も不快なのは、挿管チューブにまつわること

(3)洗浄か清拭か、研究データ上で有効性を見てみると…

 

正式発表が待たれる「人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案)」

現在、同学会と日本集中治療医学会が合同で「人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案)」を作成しています1)
 

なお、現時点での同ガイド(案)では、汚染物の回収は「ケア提供人数や技術力を鑑みて検討する」とだけされていて、どちらかが強く推奨されているわけではありません。
興味がある方は、ぜひ一度、同ガイド(案)をご覧ください。

 

人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案)

日本初の気管挿管患者の口腔ケア統一手順 6つのポイント

 

複雑で高度な技術を要する洗浄法。それでも、使用する理由は?

洗浄派として登壇したのは安藤有子氏(関西医科大学附属病院高度救命救急センター)。
自施設で洗浄法を行っているという安藤氏は、自論であることを断った上で、その主な理由を3つ挙げました。

 

(1)理由① 救命センターに搬送されてくる患者さんの口腔内は、汚染されていることが多いため

安藤氏が働く救命センターでは、予定手術患者のように、口腔環境が事前にコントロールされた患者さんばかりではなく、外傷による血液嘔吐物などにより、口腔内が非常に強く汚染された状態で搬送されてくることが多いと説明します。そのため、汚染物の回収には洗浄法を実施していると話します。

 

(2)理由② 患者さんに日常の生活を思い出してもらうため

さらに、2つ目の理由として「生活者の視点を大切にする」ことを安藤氏は挙げました。ご自身の施設では、患者さんの希望があれば磨き粉を使って口腔ケアを行うそうです。もちろん、歯磨き粉により乾燥が助長するというのは理解しているものの、その理由として、「歯磨き粉は患者さんに普段の生活を思い出させるのではないかと思っている」と安藤氏は述べます。

 

(3)理由③ 患者さんの口渇を和らげるため

そして、3つ目の理由として挙げたのが「口渇の緩和」です。
「ICUの患者さんは、『喉が渇く』ことをものすごく苦痛に感じていらっしゃる方が多いです。抜管後に水を一口差し上げると『うわぁ、ビールより美味しいわ!』とおっしゃるのを何度も見かけました。患者さんは、砂漠の中のような状況にいるということを理解し、配慮することも非常に大事なのではないかと感じています」と、安藤氏は説明しました。

 

(4)洗浄法は、行う側に優れたスキルが求められる高度な看護技術

同ガイド(案)で示されている洗浄法の手順は5段階あります。安藤氏は、その5段階の説明をした後、その説明文の中に「注意する」という文言が3回も出てきていることを指摘しました。
続けて、「口腔ケアにおける洗浄法は、複雑で高度な看護技術であるということの表れであり、行う場合は非常に慎重に行わなければならず、行う側にも優れたスキルが求められると思います」と述べ、口腔ケアは安易に行えるものではないことを重ねて指摘しました。

 

なお、同ガイド(案)では、洗浄法の長所としては「ブラッシングで破壊した歯垢など汚染物を希釈して回収できる」とされていますが、短所として「洗浄液誤嚥の危険性がある。物品の準備、患者体位の確保など、1回あたりのケアに時間・労力を要する」とされています1)

 

つまり、洗浄法により患者さんに誤嚥させてしまう可能性があるということです。そのため、安藤氏が述べたとおり、行う際は、スキルの高い看護師が慎重に行う必要があるということは認識しておかなくてはなりません。

 

データから見る清拭法を勧めるワケ

清拭派として講演を行ったのは、剱持雄二氏(東海大学医学部付属八王子病院看護部ICU・CCU)です。洗浄派の安藤氏が指摘したように、剱持氏もまた洗浄法が難しい手技であることを指摘します。

 

(1)洗浄法は、意識がない人に対しては難しい手技

「意識を失っている人の口腔を清潔に保つのは非常にむつかしくまた危険な仕事であり、よほど熟練した看護婦でないと有効にしかも安全に実施できない」2)

 

これは、ヴァージニア・ヘンダーソンが自書の中で書いた、口腔ケアについての一文です。これを剱持氏は講演の中で引用し、「まさにそのとおりで、口腔ケアは、意識がない人に対してはやはり難しい手技であると思います」と同意しました。

 

また、同時に、今の基礎看護教育では、洗浄法について教育されていないことから、もし、洗浄法を施設で取り入れる場合は、新人看護師には、一から手技を教えなければならないことも指摘しました。

 

(2)ICU入院患者さんが最も不快なのは、挿管チューブにまつわること

さらに、ICU入院時、患者さんが何に不快を感じたかについての研究を紹介した剱持氏。最も不快感が高かったのは、挿管チューブにまつわるものだそうです。
剱持氏は「洗浄法は、熟練した看護師が行わなければ誤嚥につながったり、患者さんにとって不快を与えたりします。洗浄法を行うことで、患者さんにとってICUでの不快な経験を増やすことになるかもしれない」という懸念を示しました。

 

(3)洗浄か清拭か、研究データ上で有効性を見てみると…

剱持氏がまず紹介した研究は、2014年に報告された、口腔ケア前後、およびケア1時間後で細菌数を計測したデータです。これによると、いずれも洗浄に比べて、拭き取りの方が細菌数は下がったといいます。

 

しかし、コクランレビューでは、また違った報告もあるとし、その内容も紹介されました。
ブラッシング後に生理食塩水で洗った群と、綿棒で拭き取った群では、綿棒で拭き取るより、生理食塩水で洗った方がVAPの抑制効果があったという報告です。これは、口腔ケアを行う目的をVAPの発生率を減らすためであると考えると、洗浄法も十分その役目を果たしているという結果だと言えます。

 

※コクラン・レビューとは、コクラン共同計画という国際団体によって作成されている医学文献レビュー。信頼性が高いシステマティック・ レビューとして定評があります。

 

前述したとおり、同ガイドライン(案)では、洗浄か清拭かのどちらで行うかは指定されていません。こういった研究報告から見ても、現在はそれぞれの方法のメリット・デメリットとともに、行う看護師の技量などを総合的に見て、各施設で選択されている状況が伺えます。

 

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今回のpro-conでは、洗浄派と清拭派それぞれから意見が聞かれました。結果として、結論は出ませんでしたが、どちらの立場であっても、人工呼吸挿管患者へ口腔ケアを行う主な目的は、VAP予防にあることは間違いありません。

 

VAPの予防と患者さんの安全および、自分の技量。それに加えて人工呼吸挿管患者特有の不快感をどう減らしていくかという視点。それらを踏まえた上で、あなたは洗浄か清拭か、どちらを選びますか?

 

【林 美紀(看護roo!編集部)】

 

引用参考文献

1)人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案)

2)ヴァージニア・ヘンダーソン.看護の基本となるもの.再新装版.日本看護協会出版会.2016,p93.

 

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2018年6月30日(土)~7月1日(日)
第14回 日本クリティカルケア看護学会学術集会

【会場】

船堀タワーホール
 

【集会長】

佐藤 憲明(日本医科大学付属病院)

 

【学会HP】

一般社団法人 日本クリティカルケア看護学会

 

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