なぜ、入院患者は転びやすいの|転倒発生のメカニズム
『エキスパートナース』2015年9月号<根拠に基づく転倒予防Q&A>より転載。
なぜ、入院患者は転びやすいの?について解説します。
饗場郁子
国立病院機構東名古屋病院脳神経内科・リハビリテーション部長/第一脳神経内科医長
なぜ、入院患者は転びやすいの?
〈目次〉
転倒発生にかかわるさまざまな要因
転倒が発生する要因は、患者の身体によるもの(身体/内的要因)と病室の状態など、患者周囲の状況によるもの(環境/外的要因)に大きく分けられます(1)。
ここでは、それぞれの要因について解説します。
1転倒を招く身体上の4つの要因(身体/内的要因)
①運動要因
麻痺や筋力低下・廃用症候群、姿勢保持障害、小脳失調などさまざまです。
移動能力で言うと、歩行自立や車いすレベルよりも、介助で移動できるレベル(杖歩行、つたい歩き、介助歩行)くらいが一番転びやすいといえます。
②感覚要因
四肢の感覚障害、視力障害、難聴などがありますが、特に身体の位置覚が障害されると、例えば足の位置がどうなっているのかわからないため、「あっ」と思ったら体のバランスが崩れて転んでしまうというようなことが起きます。
③高次要因
転倒に大きく影響する要因です。認知症による危険に対する判断力低下、意識レベルの低下、てんかん発作のほか、左半側空間無視なども転倒の要因となります。
また高齢者では、入院時すでにたくさんの薬剤を服用している場合が多く、そのなかには睡眠薬などさまざまな転倒危険薬が含まれている可能性があります。
④その他の要因
感染症などの合併疾患による発熱・脱水や自律神経障害による起立性低血圧・失神、あるいは頻尿や尿失禁などの排尿障害なども転倒の要因となります。
2転倒を招く環境上の要因(環境/外的要因)
「廊下やベッドサイドに障害物がある」「廊下に手すりがない」「ベッドの高さや柵が不適切」「床が濡れている」「スリッパなど履きものが不適切」「照明が暗い」など、患者の身体に起因すること以外の幅広い要因が含まれます。
認知症をはじめとする疾患・症状が、転倒に与える影響
転倒にはさまざまな要因が関連しています。転倒が起きた場合、転んだ要因は何だろうかとふりかえって考え、それぞれの要因に対し転倒予防対策を講じることが大切です。
疾患や病態により身体要因はさまざまですが、特に神経疾患の場合は、診断基準に転倒のしやすさが含まれているような進行性核上性麻痺など、非常に転びやすい疾患もあります(2)。入院時から患者・家族にも“転びやすい”ということを自覚していただく必要があります。
当院では、入院時に“あなたの転倒・転落危険度は?”というチェック表(東名古屋病院版:転倒・転落危険度チェック表参照・3/14公開)を患者・家族につけていただいていますので、ご参照ください。
[引用文献]
- (1)眞野行生:高齢者の転倒・転倒後症候群.眞野行生 編:高齢者の転倒とその対策.医歯薬出版,東京,1999:2-7.
- (2)Litvan I,Agid Y,Calne D,et al.:Clinical research criteria for the diagnosis of progressive supranuclear palsy( Steele-Richardson-Olszewski syndrome):report of the NINDS-SPSP international workshop.Neurology 1996;47(1):1-9.
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P.90~91「なぜ、入院患者は転びやすいの?」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年9月号/ 照林社