汗疹【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【11】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
東出靖弘
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部
〈目次〉
汗疹ってどんな疾患?
汗疹(「かんしん」または「あせも」)は、発汗により汗管(=汗の通り道)が閉塞することで生じます。「汗貯留症候群」と呼ばれることもあります。
汗腺にはエクリン汗腺(全身に存在する、主に体温調節のために水分を分泌する汗腺)とアポクリン汗腺(腋・会陰部といった限られた部分に存在する汗腺)があります(図1)。
このうち、エクリン汗腺から分泌された汗が皮膚に長く留まっていると、ほこりや皮脂などで汗管の閉塞を来します。その結果、汗が汗腺の中で溜まり、周囲に影響を及ぼすことで皮疹を生じます。
汗疹の多くは、汗の溜まりやすい前額部・前頸部から胸部・四肢の屈側(肘の内側や膝の裏など)に生じますが、高温多湿の環境下で汗が溜まればどこにでもできるため、肥満患者の腹部や発熱患者の背部にできたりもします。
基本的には緊急度・危険度は高くありませんし、汗疹自体に伝染性はありませんが、整容面の問題や痒みに煩わされることが多く、また重症化すると掻爬(そうは:掻〈か〉き毟〈むし〉ること)による二次的な感染や体温調節への影響が問題となります。
汗疹の分類
汗疹は水晶様汗疹、紅色汗疹、深在性汗疹の3つに分類されます。 汗疹の分類についてより詳しく理解するために、まず皮膚の構造について簡単に説明しておきます。
皮膚は外側から角質層・表皮・真皮と分かれています(図2)。
表皮は、表皮の最下層にある細胞が分裂して次第に表面へと押し上げられていきます。外側に押し上げられていくうちに、次第に細胞は性質を変え、最も外側では角質層と呼ばれるようになります。角質層は死んだ細胞が敷き詰められている層で、いずれ垢としてはがれ落ちていきます。逆に表皮の下には真皮と呼ばれる層があり、血管や神経はここを通っています。
汗腺は真皮に分泌部(=汗を産生している部分)を持ち、汗管が表面に向かって走行し、表皮を貫いて角質層に汗孔を開く構造をしています。
汗管の閉塞する深さによって汗疹は分類されており、浅い層での閉塞は軽症、深い層での閉塞は重症と覚えていただいてかまいません。
水晶様汗疹
最も浅い層での閉塞です。炎症を伴わない汗疹で、発汗後に突然生じます。皮膚のごく表層である角質層内、または角質層直下で汗管が閉塞し、浅い部位に直径数mm程度の小さな水疱が形成されます。水疱の中身は貯まった汗です。貯まるのが浅い部分なので、水疱はすぐに割れて渇き、炎症を来すことがありません。掻痒感も来さず、1日~数日で自然と消退します。
水晶様汗疹は、新生児の額にできることが多いですが、成人でも発熱の際に生じることがあります。膝裏など見つかりにくい部分だと、気づかずに生じ、気づかずに消退していることもあります。
紅色汗疹
紅色汗疹の汗管は、水晶様汗疹と比べて表皮内のやや深い部分で閉塞を起こします。すると、表皮の内部に汗が貯まり、1~2mm大の紅色をした小丘疹となります。水晶様汗疹とは異なり、炎症を伴った汗疹で、炎症を来すことで発赤と強い痒みを引き起こします。
紅色汗疹は、しばしば湿疹となったり、掻爬(そうは)により化膿して膿疱化(膿疱性汗疹)することがあります。
深在性汗疹
深在性汗疹は、表皮よりも深い部分(より詳しくは、表皮と真皮の境界である表皮真皮接合部)において汗管が閉塞・破綻し、紅色汗疹を繰り返しているうちに生じるようになります。発汗時にも掻痒感を感じない、平らな蒼白色の丘疹が多発するようになります。
ここまでくると汗腺自体が破壊されて発汗機能が低下してくるため、体温調節が妨げられ、熱中症の発症に注意が必要になります。とはいえ深在性汗疹は日本では珍しく、主に亜熱帯地方で見られる汗疹です。
汗疹の処置・治療法
汗疹のいずれの分類の場合も、高温多湿を避けて清潔を保つことが一番です。汗をかいたらすぐに拭く、シャワーを浴びる、通気性の良い肌着にして頻回に取り替えるといった対応が重要になります。一日わずか数時間通気を良くするだけで改善するものもあります。原則としてスキンケアが重要ですが、たとえば石鹸の使いすぎなど、皮膚のバリア機構を損なうものは逆効果となります。
痒みが強い場合にはステロイドの外用薬を用います。掻きすぎて皮膚に傷がつき、二次性に細菌感染が生じる場合があるので、痒みへの対処は重要です。感染を来した場合には抗生剤入りの軟膏や内服薬を処方します。菌によっては伝染性が生じるため注意が必要です。
鑑別を要する疾患
汗疹との鑑別を要する疾患として代表的なものは脂漏性皮膚炎・接触性皮膚炎・伝染性膿痂疹などがあります。ただ、このほかにもさまざまなウイルス感染、真菌感染、細菌感染、ざ瘡、無菌性毛包炎、薬疹、刺虫症などで同様の所見を呈することがあります。
汗疹と診断する助けとなるのは、「発汗した部分に急に生じる」というエピソードですが、適切な処置にもかかわらず、軽減しない場合には皮膚科専門医の診察を受けることが望ましいでしょう。
特に伝染性膿痂疹は、ひっかき傷から感染が成立した状態で「とびひ」とも呼びます。手の届く範囲(=自分で引っ掻ける範囲)に生じる皮疹が特徴的で、こうなると内服抗生剤の適応となります。また、掻痒による再燃や、他者への伝染性が生じることも問題となります。
このほか、まれな病態として、偽性低アルドステロン症といった発汗中のナトリウム濃度が上昇する疾患では、ナトリウムにより汗管が障害されて二次的に汗疹に似た所見が見られることがあります。
汗疹というと乳幼児や子供で、夏場の蒸し暑い時期にできやすいという印象が強いかもしれません。また、汗疹そのものを主訴に受診する方は皮膚科や救急外来に限られていると思います。しかし、ギプスや包帯の使用中、絆創膏や湿布薬の貼付部位に生じることもあり、入院中や外来治療の過程でも季節や場所を問わず出会う機会の多い疾患と言えます。
逆に、汗疹が生じた場合には、その原因について考える必要があります。例えば高熱にうなされ発汗が多い場合や、ADLが低い方の皮膚のたるみの間にできることもあります。こういった方では往々にして訴えが少ない場合も多く、日ごろから好発部位(=汗のたまりやすい部位)の観察を行い、汗に曝露されないよう、清潔を保つことがポイントです。
日ごろのケアにより、予防と治療の両方ができる皮膚疾患ですので、汗疹を念頭に置いた好発部位の観察が重要です。
[参考文献]
- (1)UpToDate.Miliaria
- (2)Christopher Griffiths,et al.Chapter 44.Rook’s Textbook of Deratology.8th edition.2016,15-6.
- (3)清水宏.あたらしい皮膚科学.第2版.東京,中山書店,2011,2-13.
- (4)前掲書3).339-40.
- (5)執筆者名.山崎雄一郎ほか監.全ての診療科で役立つ皮膚診療のコツ:これだけは知っておきたい症例60.東京,羊土社.2010,138-9.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子