喘息【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【6】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

→喘息【疾患解説編】はこちら

 

 

和田 孝
大垣市民病院救命救急センター 救急外来師長・救急看護認定看護師

 

 

 

〈目次〉

 

1治療ステップを意識して準備する

喘息発作の治療は、酸素投与、β2刺激薬吸入、ステロイド剤の吸入と全身投与、アミノフィリン静脈注射、抗コリン薬吸入、0.1%アドレナリン皮下注射などがあります。これらの治療は、発作の強度により、治療ステップが決められています表1)。

 

表1喘息発作の強度

喘息_喘息発作強度_発作治療ステップ_喘鳴

 

文献1より一部改変

 

各治療ステップで1時間以内に症状の改善が得られない場合は、1段階ステップアップした治療を考慮します。ステップ4では、気管挿管、人工呼吸、気管支洗浄を行うなど慌ただしく処置が行われます。ナースは、治療の効果があるのか、悪化しているのかを観察して、緊急時に対応できるように予測して準備することが大切です。

 

2吸入薬は有効に行うように援助する

発作時は、原則として短期間作動型β2刺激薬の吸入を行います。吸入方法は、患者さんの意識や呼吸状態などの発作強度を考慮します。
吸入は、基本的にMDI(定量噴霧吸入器)かネブライザーを使用します。MDIは、薬剤の噴射に合わせて息を吸い込むため、患者さんの協力が必要です。協力が得られにくい小児や高齢者は、通常の呼吸下で吸入可能なネブライザーを選択します。ネブライザーは、吸入に時間を要するため、酸素飽和度(SpO2)が低下しないかの観察が必要です。吸入は、20~30分ごとに繰り返し行うので、時間管理が必要です。

 

3使用する薬剤の副作用に注意する

β2刺激薬は副作用として振戦、動悸、頻脈があります。吸入時にスペーサー(図1)を使用すると、口腔や咽喉部への不要な薬剤の沈着を防ぎ、口腔カンジダ症や嗄声など、局所的副作用を軽減できます。

 

図1スペーサー

エアロチャンバー_喘息_吸入器_スペーサー

 

呼吸ガス混合器エアロチャンバー(静電気防止付)

 

テオフィリンは、過剰投与により副作用が出現しやすいため、観察が必要です。頭痛、悪心、嘔吐、頻脈、不整脈が出現したら投与を中止して医師に報告します。症状が改善しても30分は安静にして様子を見るようにします。

 

4呼吸管理

酸素投与は、SpO2が95%未満、あるいは低酸素血症の症状(チアノーゼ、呼吸困難、頻呼吸など)がある場合に開始します。投与時は、患者さんが好む体位がとれるように援助します。目標はSpO2が95%以上で、100%に近い値は必要ありません。また、慢性閉塞性肺疾患を合併している場合は、CO2ナルコーシスの発現に注意が必要です。

 

ナースの視点

1第一印象の確認

患者さんの第一印象を確認して、緊急性があるかどうかを判断します。観察する内容は、気道、呼吸、循環、意識です。これらのいずれかに重症感があれば、処置室へ移動します。移動方法は、酸素消費量を増やさないためにも車いすやストレッチャーを使用します。

 

2呼吸困難を訴える患者さんの対応

呼吸困難とは、本来、意識しないで行っている呼吸を意識し始め、呼吸をするのに、苦しさや違和感を生じた状態のことを言います。患者さんによって「息が吸いにくい」、「胸が苦しい」「酸素が足りない」など、さまざまな表現があります。呼吸困難はあくまでも自覚症状であり、その表現方法や緊迫感も人によって異なります。そのため、喘息患者さんの緊急度は、患者さんの訴えだけではなく、SpO2や患者さんの動作などからの喘息発作の強度などを含めて決定します。

 

しかし、呼吸困難は患者さんにとっては死をも連想させる症状であり、不安や動揺が強くなります。ナースとして、患者さんの不安を汲み取り、不安を軽減できるように声かけを行いましょう

 

3喘息発作の程度を確認する

成人の場合

成人の発作強度は、呼吸困難の程度、歩行などの動作、酸素飽和度(SpO2)、会話がどの程度可能であるかで判断します(表1)。SpO2が95%以下は中発作、90%以下で重篤な状態です。
会話は、たとえば「私は…、息が…、苦しい…、です…」というように、文節単位に途切れるようであれば、中発作と判断します。大発作では、「わ…、た…、し…、は…」と一語区切りになります。 また、この他に呼吸数が30回以上、呼吸補助筋の使用の有無、起坐呼吸、意識が悪いなどは重症のサインです。

 

乳幼児や小児の場合

乳幼児や小児は、呼吸困難を訴えることができません。他覚的に機嫌が悪い、起坐呼吸、泣き叫ぶなどは重症発作として重要な項目です。「騒いでいるから大丈夫」と安易に考えると、突然意識が悪くなるなど急変に陥る場合があります。呼吸の状態などは必ず観察をしましょう(表2)。

 

表2喘息発作の強度目安(小児)

 

文献2より引用改変

 

4問診では無駄な会話を避ける

発作時の状況や使用している薬剤を知る上で、問診は欠かせません。患者さんの第一印象で会話ができる状態かどうかを判断する必要があります。
上述したとおり、中発作では文節単位で会話可能ですが、要領よく問診しないと発作が増悪することがあります。発作時に多くの情報を聞くのは、患者さんの負担が大きくなります。まずは以下を聞きましょう

 

発作時にまず聞いておくこと

  • 発症の時間と原因
  • 服用中の薬剤(吸入、内服薬)とそれを最後に使用した時間
  • 薬物アレルギーの有無

 

アスピリン喘息患者さんへの問診

アスピリン喘息は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用により、閉、鼻汁、喘息発作を呈する非アレルギー性の過敏症です。この過敏症のある患者さんは、アスピリンだけではなく、ほとんどの解熱鎮痛薬全般に過敏な体質を持っていますこの過敏症による喘息発作は、重症度が高い喘息が約半数を占めます。
この過敏症を持つ患者さんに、NSAIDsの貼り薬、点眼薬、坐薬などは禁忌です。問診で「(非ステロイド性抗炎症薬は)使用してません」と答えても、よく聴いてみると頭痛薬や湿布薬などを使用していることがあるため、患者さんに分かりやすい聴き方が必要です。

 

5症状が軽いからと油断してはいけない

喘息患者さんは、病院に来る前に短期間作動型β2刺激薬のpMDI(加圧式定量吸入器)を使用するように教育を受けています。症状は軽いけれど、吸入薬の仕様による軽いだけかもしれないので、吸入薬の使用の有無や発作持続時間を聴きましょう

 

6数値に注意する

SpO2を過信しない

過換気があるとSpO2は良い値を示します。値だけを信じるのではなく、身体症状と合わせて発作強度を判断しましょう。乳幼児の場合は、測定が困難なことが多く、値が変動します。パルスオキシメーターは簡便ですが、換気の評価にはならないことを覚えておきましょう。

 

ピークフロー

ピークフロー(最大呼気速度:peak expiratory flow;PEF)は、ピークフローメーター(図2)という簡単な器具を使って気流閉塞の程度を測定します。この値は、喘息の重症度と極めて相関するため、信頼度が高い検査です。自宅や救急外来でも簡単に行うことができます。PEFは健常時のベストな値と比較して、どのくらい息を吹き込めるかを評価します。PEFが80%以上で軽症、60~80%で中等症、60%以下で重症と判断します。ただし、小児では上手くPEFを測定することができないことがあります。

 

図2ピークフローメーター

ピークフローメーター_パーソナルベスト_フィリップス・レスピロニクス_クレメント・クラーク

 

左:パーソナルベスト (フィリップス・レスピロニクス社)、右:ミニライト(クレメント・クラーク社)

 


[文 献]

 

  • (1)成人気管支喘息診療のミニマムエッセンス (PDF)(2017年3月閲覧)
  • (2)一般社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会編.喘息予防・管理ガイドライン2015.東京,協和企画.2015, 2-8.
  • (3)前掲(2).150-164.
  • (4)前掲(2).186-202.

 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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