苦しくならない吸引の方法って、ある?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「苦しくならない吸引の方法」に関するQ&Aです。
中山優季
東京都医学総合研究所難病ケア看護プロジェクト副参事研究員
苦しくならない吸引の方法って、ある?
吸引は、侵襲性の高いケアであると認識し、吸引は必要なときに限り行うようにするのが大前提となります。最近では、自動吸引システムも利用できます。
自動吸引システム
吸引が苦痛を伴う手技であることに疑いの余地はない。このため、いかに必要なときのみに、効率的に実施するかについて配慮する(『気管吸引は、なぜ必要?』)。
内方吸引口をもつ気管切開チューブと低定量吸引器を用いた自動吸引システム(気管切開孔を開放することなく吸引できるシステム)もある(図1)。自動吸引システムの場合、吸引カテーテルを挿入することがないので、気管内へは無侵襲で吸引が可能となる。
ただし、このシステムは、主に上気道からの気道分泌物の落ち込みをとらえるもので、末梢気道からの粘性痰に対しては、効力が落ちる。
著者らの調査では自動吸引システムを用いると1日の気管吸引の頻度が有意に減少し、従来の気管吸引が苦痛であることを再認識した事例もあった。
人工呼吸中の換気量の喪失は、呼吸器設定により異なる。一回換気量が400mL以下の場合や吸気時間が長い場合は換気量の損失が相対的に大きくなるため、作動中の気道内圧の変化が1hPa以内に収まるような設定とする。
自動吸引システムの導入には、専用チューブとの適合や人工呼吸管理への影響が許容できるかの判断、内部吸引孔の詰まりなどのトラブル発生時の対応が必要となる医療行為であるため、主治医および医療チームでのかかわりが必要となる。
[文献]
- (1)8020推進財団;平成20年3月㈶8020推進財団指定研究,「入院患者に対する包括的口腔管理システムの構築に関する研究」研究班,主任研究者:寺岡加代.:入院患者に対するオーラルマネジメント.8020推進財団,東京,2008.
- (2)川村佐和子監修,中山優季編:ナーシングアプローチ難病看護基礎と実践.桐書房,東京,2014.
- (3)石川悠加 編:NPPVのすべて これからの人工呼吸.医学書院,東京,2008.
- (4)中山優季:在宅人工呼吸ケア.道又元裕編,人工呼吸ケア「なぜ・何」大百科,照林社,東京,2008:457.
- (5)中山優季:在宅人工呼吸療法の実際.道又元裕,小谷透,神津玲編,人工呼吸管理実践ガイド,照林社,東京,2009:292-302
- (6)川口有美子,小長谷百絵編著:在宅人工呼吸器ポケットマニュアル.医歯薬出版,東京,2009.
- (7)特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究班「工呼吸器装着者の訪問看護研究」分科会編:人工呼吸器を装着しているALS療養者の訪問看護ガイドライン.2000.
- (8)東京都福祉保健局:難病患者在宅人工呼吸器導入時における退院調整・地域連携ノート.http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/joho/soshiki/hoken/shippei/oshirase/taiintyousei_tiikirenkeinoto.files/tiintyouseirenkeino-to250711.pdf(2014年11月18日閲覧).
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社