小児の人工呼吸中のオーラルケア方法は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「小児の人工呼吸中のオーラルケア」に関するQ&Aです。
三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任
小児の人工呼吸中のオーラルケア方法は?
人工呼吸中のオーラルケアの重要性は成人と同様ですが、小児特有の問題点に留意する必要があります。
〈目次〉
小児の人工呼吸中におけるオーラルケア
オーラルケアにより唾液分泌腺が刺激され、唾液分泌促進による自浄作用の改善が期待できる。また、物理的に口腔細菌を減少させることにより、人工呼吸器関連肺炎の予防が期待できる。
オーラルケアによる口腔刺激は、嚥下反射・吸啜反射・吸啜力減弱、咀嚼機能低下、咽頭知覚鈍麻を予防し、人工呼吸中の合併症を減少させ、抜管後の経口摂取・経口哺乳への移行を円滑にすることが期待できる。
プラークコントロールを行い、口腔細菌増殖を防ぎ、う歯を予防する。
人工呼吸中における小児特有の問題点
小児は、カフなし気管チューブを用いることが多く、カフ付き気管チューブであってもカフ上部吸引ポートがない。そのため、口腔の流水洗浄により、口腔細菌を誤嚥する恐れがある。
小児は、口腔に占める舌の割合が大きく、盲目的な操作になりがちである。盲目的な操作は、乳歯や動揺歯の脱落や誤嚥、口腔粘膜の損傷、気管チューブの事故抜去などの問題を生じる恐れがある。また、迷走刺激反射、嘔吐反射を誘発する恐れがある。
小児は気道が短く、頸部の伸展・屈曲により気管チューブの先端位置が最大約3椎体変化する(『気管挿管しているのに、肩枕をいれるのはなぜ?』体位による気管チューブの位置異常)。そのため、頸部の動きに対しては、事故抜管あるいは片肺換気の可能性に留意する必要がある。
小児のオーラルケアの実施にあたっての注意点
オーラルケアの実施にあたっては、誤嚥予防のため、側臥位や顔を横に向ける。
舌圧子やペンライトを用いて口腔を観察し、水分を染み込ませたスポンジやガーゼで口腔を適度に湿らせ、ブラッシングを行い、水分を染み込ませたスポンジやガーゼで手前に搔き出すように清拭した後、口腔を十分に吸引する(図1)。
オーラルケア後は、呼吸音を聴取して誤嚥の有無を評価し、必要時には気管吸引を実施する。
乳歯から永久歯に生え変わる6~12歳ごろの小児では、動揺歯の脱落による誤嚥、外力による抜去後の不十分な止血などが問題となる。オーラルケアと併せて、口腔を観察し、動揺歯、脱落歯、口腔損傷についてアセスメントを行う(表1)。
毎日の看護師によるオーラルケアのみならず、術前の歯科医師によるプラークコントロール、動揺歯のアセスメント、処置、定期的な往診が、口腔環境の維持に有効である。
[文献]
- (1)Lerman J,Cote CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012.
- (2)American Heart Association:PALSプロバイダーマニュアルAHAガイドライン2010準拠.シナジー,東京,2013:46.
- (3)Silverman WA, Dunham’s Premature Infants. 3rd ed. New York:Harper & Row;1961:144.
- (4)志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版.永井書店,大阪,2012
- (5)日本呼吸療法医学会・多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline第2版.人工呼吸2004;21:44-61.
- (6)Curley MA:Japanese Version SBS. http://www.marthaaqcurley.com/uploads/8/9/8/6/8986925/sbs_japanese.pdf(2014年11月18日閲覧).
- (7)志馬信朗:小児人工呼吸管理中の鎮静・鎮痛.救急・集中治療2010;22:407.
- (8)McGrath PJ, Johnson G, Goodman JT, et al. CHEOPS:A behavioral scale for rating postoperative pain in children. Adv Pain Research therapy 1985; 9: 395-402.
- (9)小宮山明子,魚住知恵:人工呼吸療法中の子どもの口腔ケア.小児看護2012;35(9):1203.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社