せん妄で処方された薬剤、投与に注意しなければならない状況って?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「せん妄で処方された薬剤」に関するQ&Aです。

 

甲斐利弘
大阪市立総合医療センター精神神経科副部長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

せん妄で処方された薬剤、投与に注意しなければならない状況って?

 

せん妄に対して投与する薬剤の副作用・投与する時間、併存する身体疾患などに注意します。

 

〈目次〉

 

せん妄の薬物療法には、ハロペリドールなどの少量投与が第1選択

せん妄の薬物療法には、抗コリン作用(せん妄を悪化させる)や抗アドレナリン作用(心血管系・呼吸器系に影響を及ぼす)がほとんど見られないハロペリドールなど、ブチロフェノン系薬剤の少量投与が第1選択となります。最近はリスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどの非定型抗精神病薬も少量で使用されます。なお、オランザピンとクエチアピンは糖尿病および糖尿病の既往のある患者には禁忌です。

 

抗不安薬や睡眠薬として用いられるベンゾジアゼピン系薬剤やバルビツール薬剤は、せん妄や過鎮静をきたす恐れがあり、ブチロフェノン系薬剤などと併用する場合以外は、せん妄の治療として使用されることはほとんどありません。

 

薬物の相互作用に注意

やむを得ず向精神薬を併用する場合や、身体疾患に対する治療薬を投与されている場合には、薬物相互作用に注意します。薬の組み合わせによって、血中濃度が上昇したり、下降したりするので、薬の効果が減弱して薬が効きにくくなったり、薬の効果が増強して副作用や中毒症状が出現したりします。

 

投薬は夕方~夜間に比重をおく

せん妄の症状は夕方から夜間にかけて増悪することが多いので、夜間に比重をおいた投薬の仕方が合理的です。しかし、高齢者では少量の向精神薬であっても翌日に持ち越し、日中に傾眠・過鎮静となりがちなので、薬物の服用時間を夕食後や午後3~4時ごろに早めると、ほどよい鎮静効果が得られます。

 

せん妄の原因あるいは併存する身体疾患によって、薬物療法を行ううえでの注意すべき点を(表1)にまとめました。

 

表1せん妄の原因あるいは併存する身体疾患別の薬物療法

せん妄の原因あるいは併存する身体疾患別の薬物療法

 

最近よく使われる抑肝散(よくかんさん) にはどういう効果がある のですか?

 

認知症の増悪やせん妄の予防に効果があります。抑 肝散のよいところは、神経興奮作用をもつグルタミン 酸の作用を抑制することでその効果を発揮するので すが、ドパミンやセロトニンの神経系への影響がな いため、ADL を低下させません。特に高齢者には使 いやすいですね。

 


[文献]

  • (1)平沢秀人,一瀬邦弘:せん妄.松下正明総編集,臨床精神医学講座10器質・症状性精神障害,中山書店,東京,1997:10-26.
  • (2)八田耕太郎:せん妄の治療指針.星和書店,東京,2005:37-38.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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