消化管術後の栄養は、流動食、3分、5分と段階的に上げていかなければいけない?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「消化管術後の栄養摂取」に関するQ&Aです。

 

山本篤
やまもと消化器内視鏡・外科クリニック院長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

消化管術後の栄養は、流動食、3分、5分と段階的に上げていかなければいけない?

 

必ず段階的に上げていくわけではありません。最近は見なおされつつあります。

 

〈目次〉

 

術式の変化、クリニカルパスの普及で栄養管理に変化が起こりつつあります。

消化管術後の栄養に関する、これまでの基本的な常識は以下の形でした(表1)。

 

表1リード文

 

  • 術直後はまず絶飲食
  • 排ガスが見られれば飲水を開始
  • 問題がなければ1日ないしは2日ごとに「流 動食」→「3分粥」→「5分粥」→「7分粥」 →「全粥」と段階的に食事形態アップ

これは、術後の腸管機能の回復を考慮し、また消化管吻合の負担を軽減して縫合不全の発生を予防するという理論のもとに行われてきましたが、明確なエビデンスは存在しません。

 

最近の腹腔鏡手術とクリニカルパスの普及により、術後早期に経口摂取を開始し、食事形態アップの間隔を短縮した術後管理が行われるようになりました。そして、このような栄養管理で問題がないことがわかってきました。

 

流動食から始めなくても合併症の発生率は同じ

近年、北欧で提唱されているERASと呼ばれる術後早期回復プログラムが注目されています(1)。ERASでは、栄養管理に関しては、術後早期に積極的に経口摂取を促すことが、腸管機能の早期回復と吻合部の創傷治癒促進による縫合不全の減少につながるとされています。

 

また、術後段階食について、消化管術後1日目より流動食から開始するグループと、通常食から開始するグループにおいて、嘔吐、腹満、腸閉塞、縫合不全の発生率を比較する研究が行われましたが、結果は2つのグループで合併症の発生率に差はありませんでした(図1)(2)。

 

図1術後段階食による合併症の発生率

術後段階食による合併症の発生率

 

福島亮治:鏡視下手術がもたらしたもの(切除術).特集 消化器外科術後食に関する新しい考え方,日外会誌 2010;111:13-17.を参考に作成

 

必ずしも段階食が必要でない ことが研究で示されています。

 

別の研究では、幽門側胃切除術術後の症例で流動食から開始したグループと5分粥から開始したグループとの間での比較をしましたが、5分粥から開始したグループにおいて、QOLに差はなく(*1)、体重減少率が有意に少なくなって満足度も良好であったと報告されています(図2)、(図3)(3)。

 

*1

ここでは逆流症状、嘔気・嘔吐、つかえ感、おなかの張り、腹痛などで比較した。

 

図2体重減少率の変化

体重減少率の変化

 

☆ P < 0.05 で有意差あり 臼井史生,荻沼昌江,羽根田千恵,他:幽門側胃切 除術後の食事摂取方法に関する研究.日病態栄会誌 2005;8:126.より一部改変して引用

 

図3術後食に対する満足度

術後食に対する満足度

 

臼井史生,荻沼昌江,羽根田千恵,他:幽門側胃切 除術後の食事摂取方法に関する研究.日病態栄会誌 2005;8:128.を参考に作成

 

変わりつつある消化管術後の栄養管理ですが、今後は術式や病態に即したエビデンスをさらに集積して古くからの慣習を見なおし、よりよい術後管理につなげていく必要があります。

 


[文献]

  • (1)Kahokehr A, Sammour T, Zargar-Shoshtari K, et al. Implementation of ERAS and how to overcome the barriers. Int J Surg 2009;7:16-19.
  • (2)福島亮治:鏡視下手術がもたらしたもの(胃切除 術).特集 消化器外科術後食に関する新しい考え 方, 日外会誌2010;111:13-17.
  • (3)臼井史生,荻沼昌江,羽根田千恵,他:幽門側胃 切除術後の食事摂取方法に関する研究.日病態栄 会誌 2005;8:123-130.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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