経口摂取の開始時期のめやすは?|術後の栄養管理
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「経口摂取の開始時期」に関するQ&Aです。
山本篤
やまもと消化器内視鏡・外科クリニック院長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
経口摂取の開始時期のめやすは?
特にめやすはなく、排ガスを待つ必要もありません。
〈目次〉
“術直後は絶飲食”の効果は?
消化管術後の経口摂取開始に関するこれまでの常識は、術直後には経鼻胃管を留置して持続点滴のもと絶飲食とし、排ガスが見られた後に経鼻胃管を抜去して少量の飲水を開始することでした。
これは、術後腸管機能の回復を考慮し、また消化管吻合の負担を軽減して縫合不全などの合併症の発生を予防するという理論のもとに行われてきましたが、残念ながら明確なエビデンスは存在していません。
しかし最近では、開腹術よりも術後腸管機能が早期に回復し、術後経口摂取の開始時期が早まるというエビデンス(1)をもつ腹腔鏡手術の普及や、術当日に水分摂取を開始して点滴を終了し、翌日から可能な限り通常量摂取とするERAS(2)(周術期管理を変える“ERAS” とは?参照)と呼ばれるプログラムが注目されており、経口摂取の開始時期が見なおされるようになってきました。
経口摂取開始の判断は、どのように行う?
胃切除後48時間以内に流動食を開始する群(早期開始群)と従来どおりに排ガスを確認した後に流動食を開始した群(従来群)とで比較した研究(3)では、術後合併症の発生率には差はなく、早期開始群で排ガスまでの時間や術後絶食期間、在院日数がいずれも有意に短縮していました(図1)。
このように術後経口摂取の開始時期のめやすは排ガスではなく、嘔気などの症状がなければ術当日もしくは翌日から経口摂取を開始しても問題ないと考えられます。
[文献]
- (1)Lacy AM, Garcia-Valdecasas JC, Delgado S, et al. Laparoscopy-assisted colectomy versus open colectomy for treatment of non-metastatic colon cancer:a randomized trial. Lancet 2002;359: 2224-2229.
- (2)Kahokehr A, Sammour T, Zargar-Shoshtari K, et al. Implementation of ERAS and how to overcome the barriers. Int J Surg 2009;7:16-19.
- (3)Suehiro T, Matsumata T, Shikada Y, et al. Accelerated rehabilitation with early postoperative oral feeding following gastrectomy. Hepatogastroenterology 2004;51:1852-1855.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社