急性アルコール中毒【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【5】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→急性アルコール中毒【疾患解説編】はこちら
林 美恵子
総合病院聖隷浜松病院 看護部管理室看護課長・救急看護認定看護師
〈目次〉
- 治療中のナーシングポイント
- 急性アルコール中毒が疑われる患者さんの来院前の準備
- 急性アルコール中毒患者さんの初療
- 急性アルコール中毒患者さんの暴言・暴力
- 急性アルコール中毒患者さんの継続観察
- ナースの視点
- 急性アルコール中毒の診断にとらわれない
- 帰宅時には指導する
1急性アルコール中毒が疑われる患者さんの来院前の準備
救急車での来院、直接来院においても患者さんがどれほど飲酒しているのかを把握することが重要です。
急性アルコール中毒が疑われる患者さんが来院されることが分かったら、救急隊などから、以下のような情報を集めておきましょう。
- アルコール摂取量
- アルコールの種類
- 摂取時間
- 患者さんの普段のアルコール摂取時の様子
これらの情報を得たら、チーム内で共有し、意識、呼吸、循環の悪化に対して、即座に対応できるように気管挿管や輸液などの準備をし、場合によっては直ちに一次救命処置ができるようにしておきます。
2急性アルコール中毒患者さんの初療
急性アルコール中毒の患者さんが来院されても、「酔っぱらっているだけ」と決めつけずに、まずはABCDEFアプローチを用いて系統立てて観察をします。
A(Airway:気道)
急性アルコール中毒の患者さんの場合、舌根沈下や吐物により、気道閉塞となる可能性があります。用手的気道確保だけでなく、気管挿管などの準備を行いましょう。
B(Breathing:呼吸)
急性アルコール中毒の場合、昏睡状態に陥るような重篤な場合チェーン・ストークス呼吸や呼吸抑制となることがあります。それらの呼吸が見られたら、気管挿管および人工呼吸器管理が必要となります。
C(Circulation:循環)
急性アルコール中毒の患者さんは、血管拡張による血圧低下、頻脈や徐脈、アルコールによる利尿作用、嘔吐などで脱水になりやすいです。血圧低下や脱水などが見られたら、輸液を行うため、18G以上の輸液ルートを確保します。また、生体モニターにより、頻脈や徐脈などの心拍数や不整脈の有無、血圧、酸素飽和度などを観察しましょう。
D(Dysfunction of central nervous system:生命を脅かす中枢神経障害)
アルコールの大量摂取により、意識レベルの低下、多幸感や錯乱、幻覚などが見られる場合があります。意識レベルの確認はもちろんですが、こういった症状が見られた場合は、アルコール中毒と決めつけず、意識障害となるほかの疾患がないか、また頭部外傷による中枢神経障害がないかを確認するため、CTなどの検査を行うこともあります。
E(Exposure and Environmental control:脱衣と体温管理)
大脳の機能抑制や、発汗、環境(吐物、失禁などによる着衣の汚染)などにより、体温低下となる場合もあります。体温低下が見られたら、電気毛布などでの保温のほか、加温輸液などを行います。
F(Family Care:家族・キーパーソン)
来院時の付き添い者や家族、キーパーソンから、飲酒時の状況や量などの情報収集を行い、病状説明、荷物の引き渡しなどを行います。
3急性アルコール中毒患者さんの暴言・暴力
急性アルコール中毒の患者さんは、アルコールによる影響により、同じ発言を繰り返す、体動が激しくなる、処置の拒否、大声で騒ぐ、セクハラ行為、暴言を吐く、挑発行為から暴力行為に至ることもあります。
また、そのような状況で、ベッド上での安静を保つことができず、転倒・転落などの危険性もあります。身体拘束はかえってそれらの興奮状態を助長することになりかねないため、対応に苦慮することがあります。
医師や看護師だけでは患者さんの興奮を抑制することが困難な場合は、状況によっては家族やキーパーソンにも一緒に対応を依頼します。身近な人がそばに寄り添うことで、落ち着く場合もあります。
しかし、思ったより効果が得られない時もあり、家族やキーパーソンに過剰な負担をかけることもあります。家族やキーパーソンに任せっきりにすることは避けましょう。
患者さんの興奮状態が激しい、また暴力行為などで医師や看護師はもちろん、ほかの患者さんなどに危険があると判断した場合には警備、警察などを呼びます。
そういった場合のマニュアルがある施設は、きちんと確認しておきましょう。また、マニュアルなどがない場合は、患者さん自身の身体面の安全確保、心理面の安静、何より治療を有効にするためにはどんなケアが良いかを、日ごろからチーム内で共有しておくことも必要です。
4急性アルコール中毒患者さんの継続観察
輸液
輸液を行っている間は、モニターの観察だけではなく、患者さんの顔色や尿量、ショック状態に陥っていないかなどを注意深く観察しましょう。
保温
前述したとおり、短時間に大量のアルコールを摂取した場合、体温の低下を生じるため、治療中は、悪寒戦慄(シバリング)などが出ていないかを観察しましょう。場合によっては温風加温器などを用いても良いでしょう。
血糖・電解質の補正
飲酒時の状況(塩分摂取少量)や既往歴などによって、低血糖や高血糖、電解質異常を来すこともあります。輸液に加え、電解質の補正をしていてもアルコール以外の理由で意識障害が遷延化することもあるため、十分な観察を行い、採血などの結果にも注意します。
集中治療を考慮する
来院した患者さんに意識障害の遷延化、呼吸抑制、重症不整脈などが見られるときには集中治療を必要とする重篤な状態です。そういった状態が見られたら、すぐにドクターコールを行いましょう。また、コールと同時に、人工呼吸管理、ショック状態に陥った際には直ちに対応できるように、人や物を集め、集中治療室に移床できる準備を行いましょう。
ナースの視点
1急性アルコール中毒の診断にとらわれない
急性アルコール中毒と診断されても、意識障害の原因がアルコール中毒と決めつけては危険です。診察、診断、治療などがスムーズに行われるように、看護師のフィジカルアセスメント力を生かしましょう。
また、外傷がないか全身観察をしっかり行いましょう。意識障害の原因は他にも考えられます。
2帰宅時には指導する
来院した患者さんが帰宅する際は、飲酒についての指導を行うようにしましょう。指導のポイントは以下の通りです。
- イッキ飲みをしない、させない
- 自身の飲酒の適量の把握
- 特に冬季の飲酒後は屋外で休息をとらない
- 飲酒による身体への危険性、泥酔状態では診断・診察・看護が困難なこと
- アルコール・ハラスメント(アルハラ)の説明
この季節になると、新入学生や新社会人などが歓迎会などで、大量のアルコールを摂取し、急性アルコール中毒により死亡したというニュースを聞くことがあります。アルコール問題に関する日本の代表的な組織で、特定非営利活動法人アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は、次の5つをアルハラ行為として定義していますので、紹介してみてもいいでしょう(1)。
- ①飲酒の強要
- ②イッキ飲ませ
- ③意図的な酔いつぶし
- ④飲めない人への配慮を欠くこと
- ⑤酔った上での迷惑行為
急性アルコール中毒は、ある意味、「自らの招いたこと」であり、さらに暴れたり、暴言を吐く患者さんも多いことから、医療従事者にとっては、対応を苦慮する患者さんであるのが実情です。
しかし、急性アルコール中毒は、場合によっては命にかかわる疾患です。そして、患者さんの命を守ることが医療者の使命です。適切な医療を提供し、適切な看護ケアの提供ができるよう、「また…」という気持ちは、心の隅にとどめておきましょう。
[参考文献]
- (1)特定非営利活動法人アスク.イッキ飲み・アルハラ防止.(2017年2月閲覧)
- (2)日本救急看護学会監.改訂外傷初期看護ガイドラインJNTEC.第2版.東京,へるす出版,2010,325p.
- (3)東京消防庁.他人事ではない「急性アルコール中毒」. (2017年2月閲覧)
- (4)劉 金耀ほか.アルコールの測定.Medical technology.37(10),2009,1030-50.
- (5)厚生労働省.アルコール.(2017年2月閲覧)
- (6)田勢長一郎.急性アルコール中毒.綜合臨床.53.増刊.2004,616-20.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 看護副部長
[Design]
高瀬羽衣子
[Illustration]
田口和代