酸素投与は創傷治療に有効って本当?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「酸素投与の創傷治療への有効性」に関するQ&Aです。

 

久保健太郎
大阪市立総合医療センター看護部
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

酸素投与は創傷治癒に有効って本当?

 

はい。術中および術後数時間の高濃度酸素投与が、手術部位感染(SSI)を減少させる可能性があります。

 

〈目次〉

 

創傷治癒と酸素

創傷治癒に関与する酸素には、大気中の酸素と生体内で血行性に供給される酸素があります。閉鎖性ドレッシングがもたらす大気中の低酸素状態は血管新生を促し創傷治癒を促進させることで有名です(図1)。また、糖尿病や閉塞性動脈硬化症などで血行が悪い(酸素供給の少ない)場合は、創傷の治癒が遅れることに異論はないでしょう(1)。

 

図1閉鎖性ドレッシングの作用機序

閉鎖性ドレッシングの作用機序

 

では、生体内に酸素を供給(つまり酸素吸入)すれば創傷治癒に有利にはたらくのでしょうか。この疑問の答えとなる論文は今のところありません。しかし、酸素投与で手術部位感染(surgical site infection:SSI)は防止できるかもしれません。

 

酸素投与とSSI

2000年にGreifらが「大腸直腸切除術患者500例について、術中から術後2時間後まで吸入酸素濃度80%と30%で比較したランダム化比較試験(RCT)において、SSI発生率がそれぞれ5.2%と11.2%であり、高濃度酸素はSSI予防に有効である」(2)との報告に端を発し、高濃度酸素吸入のSSI防止への効果が注目されています。

 

この理論としては、酸素が豊富な状態では創感染防止にはたらく好中球マクロファージが活性化することで、貪食、殺菌効果がより期待できるためと考えられています(1)。

 

Greifらの報告以降、同様の研究が数多く行われていますが、有効であるとする報告と無効であるとする報告があり、いまだ結論は出ていません。

 

ただしSSIの発生頻度の高い大腸がん手術に限定すれば有効である可能性が高いといわれています(3),(4)。

 


 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

SNSシェア

看護ケアトップへ