LD(乳酸脱水素酵素)の読み方|「細胞傷害」を読む検査
『エキスパートナース』2015年10月号より転載。
LD(lactate dehydrogenase、乳酸脱水素酵素)の読み方について解説します。
堀内一樹
信州大学医学部附属病院臨床検査部主任
〈目次〉
LDとは、LDの読み方
LD(lactate dehydrogenase、乳酸脱水素酵素)はLDHとも呼ばれる、細胞のエネルギー産生にかかわる酵素です。
検査値から病態を判断する場合、「生体に必要な成分の過不足はないか」「各臓器の機能は維持されているか」などを考えることになりますが、LDは「どこかの組織で細胞が破壊されていないか」を判断するための感度のよい検査項目といえます。
LDはその機能のため、あらゆる組織に広く分布し(図1)(1)、これらの組織(細胞)が破壊された場合には、その傷害の程度に応じて血液中に流出してきます(これを逸脱酵素と呼びます)。したがって、LD高値は生体内で起きている細胞傷害とその程度を反映する指標として考えることができます。
例えば、心筋梗塞の場合、心筋組織が虚血状態になり壊死すると心筋細胞からLDが逸脱します。肝炎でも同様で、肝細胞の破壊により、LDが血中へ遊離します。悪性腫瘍や白血病の場合、悪性細胞が異常増殖するに伴い、その崩壊も盛んになるため、結果的に血中のLDが上昇します。
(手順1)LDの増加が1,000U/L以上でないか、手技による上昇でないかをチェックする
LDの基準範囲は施設により多少異なりますが、124-222U/Lです。
LDが異常低値を示すことはまれなので、基本的には増加しているかどうかを確認することになります。
1異常に高い値(パニック値)では、重篤な細胞傷害を疑う
LDの増加は(ほかの逸脱酵素もそうなのですが)、その組織のLDの分布と細胞傷害の程度により、わずかに高値から数千、あるいはそれ以上の驚くほどの高値を示す場合までさまざまです。
特に、LDが1,000U/Lを超える場合には、パニック値として扱われることが多く、多臓器不全などにつながる生命が危ぶまれるほど重篤な細胞傷害が生じている可能性が考えられ、予後不良の指標ともなります。
2採血手技による溶血の可能性を疑う
一方で、LDがわずかに高値の場合は、病態を考える前にいくつか気をつけねばならないことがあります。
高値を示す原因①:機械的溶血
1つ目は、採血手技による機械的溶血です。赤血球の内部には血清中のLDのおよそ200倍のLDが存在しているため(図1-②)(1)、採血時に赤血球が壊れてLDが血清中に放出されると、LDがわずかに増加する場合があります。
この場合、LDと同様に赤血球内に多く含まれるASTやカリウムもわずかに増加します。検査結果に「溶血検体」のコメントがつく施設では判断しやすいですが、不明な場合には検査室に問い合わせることも必要です。
高値を示す原因②:対象が小児である
2つ目は、小児の検査データを見る場合です。
新生児のLDは成人の約2倍で、14歳前後までに成人の基準範囲に漸減します。よって小児のデータを見る場合、成人の基準範囲よりわずかに高値を示したとしても、問題ない場合もあるのです。
(手順2)どの臓器が傷害されているかを、他の検査値を併用して予測する
では、“そもそもどこの組織が傷害されているのか?”ですが、LDの分布は組織によって異なり(図1)、前述の通り基本的にはどの細胞にも存在するため、臓器特異性は低く、LDの高値のみでどの組織で細胞傷害が生じているのかは判断ができません。
LD高値がどこの細胞傷害に起因するのか判断するには、他の検査項目に注目する必要があります。
1LD/AST比を併用する
LD活性高値がどの組織に由来するかを考えるときに、まず注目するのはASTです。AST=肝障害の指標と考えたくなるかもしれませんが、じつは、肝臓に限らず、心筋や骨格筋などにも比較的多く分布し、細胞傷害に伴い増加します(ASTについては「項目5」を参照ください)。
LD/AST比を考えることで、傷害されている臓器をある程度推定することができます。LD高値を示す代表的な疾患とLD/AST比、他に参考になる検査項目を示します(図2)。
図2LD活性高値となる疾患とLD/AST比、参考になる検査項目
白血球や悪性腫瘍細胞にはLDが多くASTは少ないので、LDが単独で増加し、LD/AST比が大きくなります。逆にASTが豊富に含まれる肝細胞が傷害された場合には、LD/AST比は小さくなります。
筋組織にはASTが比較的多く含まれるので、その中間程度の比となることをおおよそ理解しておくとよいと思います。
2LDアイソザイム分画検査を併用する
また、LDはその組成の違いにより5種類に分類することでき、これらをアイソザイムと呼んでいます。
このアイソザイムの存在比を求めるLDアイソザイム分画検査の結果がある場合には、5種類アイソザイムのうち、どの分画が優位になっているのかで、さらに傷害されている組織の推定がしやすくなります。しかし、LDの由来を推定するには非常に有用ですが、汎用される検査ではありません。
(手順3)細胞傷害の推移を、数日間の経過で見る
LDが上昇・高値持続の場合、細胞破壊も亢進しているとわかる
さて、一度上昇したLDはその後、どのように変化し、病態とかかわるのでしょうか。
LDの半減期(メモ1)はおよそ数時間~3日なので、細胞の破壊が少なくなればLDは数日以内に減少に転じ、逆に細胞の破壊が亢進している場合には上昇あるいは高値が持続することになります。
これは経過を判断する場合にも有用な項目となります。心筋梗塞でのLDの動きを例にとってみると、発症後6~10時間で上昇しはじめ、24~60時間後にピークとなったあとは減少傾向となり、6~15日でおよそ基準範囲まで戻るとされています。
また、悪性腫瘍に対する治療の場合、LDが減少していくのであれば、腫瘍細胞の総量が減っていると考えることができます。
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疾患と病態によってさまざまな検査値を示すLDを苦手に思うかもしれませんが、まずはLDを細胞傷害の有無を確認するスクリーニング検査として注目し、高値の場合には、他の検査項目とあわせて病態を考えていくことが大切です。
[引用・参考文献]
- (1)河合忠:8酵素検査E.乳酸脱水素酵素(LD).河合忠,屋形稔,伊藤喜久,山田俊幸編:異常値の出るメカニズム第6版.医学書院,東京,2013:250-253.
- (2)Medical Practice編集委員会:臨床検査ガイド2011~2012.1.生化学検査.文光堂,東京,2011:118-121.
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P.50~「LD」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年10月号/ 照林社