術後の低体温予防は必要ないの?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「術後の低体温予防」に関するQ&Aです。
末武千香
医療法人明和病院看護部看護師長
矢吹浩子
医療法人明和病院看護部看護部長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
術後の低体温予防は必要ないの?
低体温予防は必要ですが、特別な器具を用いる必要はありません。
〈目次〉
術後の体温管理に十分なエビデンスはない
手術患者の回復力強化(enhanced recovery after surgery:ERAS/イーラス)プロトコルや、英国国立医療技術評価機構(NICE)が作成した手術部位感染症(SSI)予防のガイドライン、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)の非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドラインにおいては、周術期に体温を維持することの必要性が項目として示されています(1)。
そのため手術中は、加温装置、覆布を使用した保温を行っています(図1)。しかし、術後の体温管理に関しては十分な研究がされておらず、十分なエビデンスはありません。
術後の体温管理はどう行う?
術後の回復過程では、一般的に手術終了後は手術侵襲に伴い発熱することが多いのですが、術直後は“寒さ”を訴える患者は少なくありません。そのため、皮膚の露出を避けて保温に努めることや、積極的な加温が大切です。
患者がベッドに移動した際に熱喪失の伝導作用によって体温が低下しないように退室用のベッドやストレッチャーを電気毛布などで加温しておくことも有効です。ベッドの暖かさは体温管理に有効なだけでなく、安心感を与えるものでもあります(2)。
患者の体温が復温し、“寒さ”の訴えがなくなれば、加温の必要はありません。術前から積極的に保温し、ICUや病棟看護師、手術室看護師が連携し、患者の体温管理を実践することが重要です。
コラム:ERASの中の体温管理
ERAS(enhanced recovery after surgery)プロトコルは、ヨーロッパ静脈経腸学会で提唱された消化器術後の早期回復をめざした周術期管理プロトコルです。
これはそれぞれにエビデンスのある各種の管理方法を集学的に実施することで、安全性の向上、術後合併症減少、回復力強化、入院期間短縮及び経費削減をめざしたものです。
ERASプロトコルの中に術中管理として“体温管理”があります。
全身麻酔、硬膜外麻酔下では、体温中枢抑制と末梢血管拡張が身体中心部から末梢組織への熱の移動を引き起こし、体温を低下させます。また、室温の低下、冷たい体腔内洗浄液や急速輸液などが、術中低体温の原因となります。
こうした手術患者に起こる低体温が周術期の出血量、輸血量、感染症の増加、回復・入院期間の延長、心イベントの増加により医療コストの増大と関係することの報告が1990年代後半から報告されるようになりました(1)。
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[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社