敗血症って何?|敗血症の基礎知識
『エキスパートナース』2015年8月号より転載。
敗血症について解説します。
福家良太
東北医科薬科大学病院
〈目次〉
敗血症は菌血症とは異なる
着目ポイント!
- 敗血症とは感染が原因で全身症状が生じること
- 菌血症とは異なる
敗血症は「全身症状を伴う感染症、あるいはその疑い」と定義されています(1)。
つまり、敗血症の原因は感染症です。多くの場合は細菌感染症ですが、ウイルス、真菌、寄生虫などでも敗血症は生じます。これらの病原微生物による感染症が重篤化すると、敗血症に進展することになります。
そのため、最近西アフリカで話題になったエボラウイルス病も敗血症ということになります。
ただし、重症化に関しては個々の患者での免疫能や遺伝的要因、あるいは、抗生物質が有効にはたらいているかなど、さまざまな因子がかかわっています。
なお、よく勘違いされますが、敗血症は菌血症とは異なります。「菌血症だけど敗血症ではない」あるいは「敗血症だけど菌血症でない」、なんてことはめずらしくありません(図1)。
敗血症の診断基準
着目ポイント!
- 「全身的指標」「炎症反応の指標」「循環動態の指標」「臓器障害の指標」「臓器灌流の指標」が元になる
- “CRPが高い”だけで判断してはならない
敗血症の原因が感染症であることから、「敗血症は感染症の重症版」というイメージを持っている方は多いと思いますが、その病態は複雑です。少なくとも、C反応性蛋白(C-reactiveprotein、CRP)が高いだけで敗血症と考えるのはやめたほうがよいです。
例えば、CRP値が20を超えるような場合でも、敗血症でないことや、あるいはCRPが正常値でもすでに敗血症になっているという患者はよく経験されます。
厳密な敗血症の診断基準は表1の通りですが、これは現場で使うにはかなり煩雑で、“いくつ満たせば敗血症と診断するか”などの明確なものではありません。おおまかにこういう変化が起きてくるのだというイメージでの認識でいいと思われます。
敗血症の要因
敗血症には、以下の2つが関係しています(図2)。
●感染症による病原体(細菌)側の増悪因子(毒素など)(別名:病原体関連分子パターン〈pathogen-associated molecular patterns、PAMPs/パンプス〉)
●SIRSによる炎症性物質(サイトカイン)(別名:Alarminsあるいは傷害関連分子パターン〈damage-associated molecular patterns、DAPMs/ダンプス〉)
感染によりこれらが過剰となり、生体の恒常性を超えて制御困難となったときに、敗血症が生じます。
抗菌薬の投与は病原体側の増悪因子の減少につながりますが、過剰になった生体側の増悪因子まで同様に減少させるわけではなく、敗血症治療が難渋する要因です。
以下にそれぞれの因子について解説します。
感染症による病原体側の増悪因子
通常、感染症にかかると、生体の免疫によって病原体は排除されていき、自然軽快します。その際、発熱などが生じますが、これも免疫反応の一種で、生体が恒常性を維持していると言えます。
細菌量が生体の免疫による許容量を超えてくると、抗菌薬を使って治療することが必要となります。ところが、抗菌薬が有効にはたらかなかった場合、細菌量はさらに増加し、毒素などの細菌の成分も増加し、生体に悪影響を及ぼします(図2-①)。
SIRSによる炎症性物質
SIRSは、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome)の略称であり、生体内でサイトカインが過剰になっている状況を指します。
細菌に感染すると生体側も細菌を排除するため、サイトカインなどを放出します。サイトカインは細胞間の情報伝達の役割を担っていますが、生体において炎症を引き起こします。
病原体側の増悪因子の増加により、生体がより多くのサイトカインを放出するようになると、その結果、炎症反応も増大します(図2-②)。
SIRSには、体温、心拍数、呼吸数(または動脈血中二酸化炭素分圧)、白血球数で規定される、表2(2)に示すような診断基準があり、敗血症の早期に見られやすい簡便な指標として用いられてきました。この基準を見てもわかる通り、感染症以外の疾患でもSIRS基準を満たし得るわけですが、このSIRSが感染症によって起こっている場合に敗血症と考えることになります。
このSIRS基準は軽症患者まで拾い上げてしまうこともあり、現在は敗血症国際ガイドライン(『SSCG2012』)(1)からは消えています。しかし、SIRSという概念そのものの重要性は変わりません。
敗血症で特に注意したい病態
着目ポイント!
- 「重症敗血症」と「敗血症性ショック」に注意
- 重症化すると、ARDSやAKIにつながる
重症敗血症:臓器障害につながる
敗血症のうち、臓器障害の進展の原因となる血液灌流障害を伴ったものは重症敗血症(severe sepsis)と呼ばれ、ガイドラインにおいて表3のような指標が示されています。
感染症になると、炎症反応と凝固反応が起こってきます。この2つは悪いものと捉えられがちですが、通常は病原体からの防御反応として機能しており、必要なものです。
これらは互いに増幅しあうことも知られており(「クロストーク」や「相互連関」と呼ばれます)、敗血症の病態においてはこの2つが過剰な状態になり、各臓器や末梢組織において播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation、DIC)による微小血栓閉塞や酸素利用障害・代謝障害を引き起こします。
こうなると、酸素を利用できない細胞が死滅してしまい、臓器障害が生じます。さらに、複数の臓器が障害されていくと、多臓器障害/多臓器不全(multiple organ dysfunction syndrome/multiple organfailure、MODS/MOF)となり、死亡する要因となります。
敗血症性ショック:臓器障害の進展のサイン
重症敗血症の病態のなかでショックを呈したものが敗血症性ショックです。これは、以下の2段階に分けられます。
1)warm shockが生じる(図3-①)
「四肢は温かいが、血圧が低い」というwarm shock(ウォームショック)と呼ばれる状態になります。
重症敗血症の過程で、一酸化窒素などの血管拡張性物質が作用したり、下垂体後葉からのバソプレシン(抗利尿ホルモン)分泌が低下したりするなどして、末梢の血管が拡張します。この結果、血液分布が末梢血管にシフトすることになり、血圧が低下しているのに皮膚の温度は温かくなります。
2)warm shockからcold shockに移行する(図3-②)
warm shockが進展すると、血管内皮細胞が障害されて脱落し、今度は末梢血管が収縮に転じ、「四肢は冷たくて血圧が低い」というcold shock(コールドショック)と呼ばれる状態になります。
warm shockからcold shockに進展した場合、それだけ血管内皮細胞が障害され、臓器障害がさらに進展しつつあることを認識する必要があります。
敗血症が重篤化すると、ARDSやAKIにつながる
前述の通り、敗血症の重篤化は各種臓器障害につながります。とりわけ重篤なのは、呼吸状態が悪化する急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome、ARDS)や急性腎障害(acutekidneyinjury、AKI)であり、人工呼吸器や腎代替療法が必要となってきます。
また、このような重篤化は敗血症改善後も後遺症(身体、認知、精神の長期機能予後の悪化)を残しやすくなります。このような後遺症はPICS(ピックス/post-intensive care syndrome)(3)と呼ばれています(コラム参照)。近年の集中治療領域の新たなトピックとなっており、ICU退室後もリハビリテーションをはじめとするケアが必要であるとする根拠となっています。
コラム:敗血症の改善後の後遺症にも注目
敗血症に関連したトピックスとして、現在、「PICS」という概念に注目が集まっています。
これは、敗血症が重篤化すると患者や家族に身体的・精神的な後遺症が現れることを取り扱うもので、起こりうる影響として以下が示されています。
早期からのリハビリテーションなどが重要とされます。
[引用文献]
- (1)Dellinger RP,Levy MM,Rhodes A,et al.:Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock:2012.Crit Care Med 2013;41(2):580-637.
- (2)日本集中治療医学会 Sepsis Registry委員会:日本版敗血症診療ガイドライン.(2015.6.20アクセス)
- (3)Needham DM,Davidson J,Cohen H,et al.:Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit : report from a stakeholders' conference.Crit Care Med 2012;40(2):502-509.
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P.21~「“敗血症って何?”を解消!基礎知識」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年8月号/ 照林社