慢性過敏性肺炎の疾患解説

 

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

今回は、アレルギー性肺疾患である「慢性過敏性肺炎」について解説します。なお、急性過敏性肺炎については、こちらをご参照ください。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

過敏性肺炎には、慢性過敏性肺炎と急性過敏性肺炎がありますが、慢性過敏性肺炎にはカビ以外にも原因となる、とても有名な抗原があります。

 

カビ以外かぁ・・・何だろう?
排気ガスや、ホルムアルデヒドですか?

 

答えは、鳥です。
羽毛布団なども原因になる場合があるので、慢性過敏性肺炎の患者さんには、寝室環境についても聞いてみると良いでしょう。

 

〈目次〉

 

過敏性肺炎の基礎知識

過敏性肺炎とは、カビや有機物、化学物質などを繰り返し吸い込むうちに、肺が過剰な反応を起こし、アレルギー性の炎症を起こす肺炎のことです。

 

この過敏性肺炎は、発症の仕方によって、表1のように、急性過敏性肺炎と亜急性過敏性肺炎、慢性過敏性肺炎の3つに分類されます。

 

 

表1過敏性肺炎の分類

 

急性過敏性肺炎 数時間~週単位での体調不良感、軽い咳嗽、微熱
亜急性過敏性肺炎 明確な定義はない
慢性過敏性肺炎 数か月~年単位での肺病変の進行

分類の基準は、発症の仕方の違いです。慢性過敏性肺炎は、数か月~数年単位で症状が進行します。

 

慢性過敏性肺炎の患者さんは、抗原から隔離されても肺の線維化が徐々に進行することがあるため、症状が改善するとは限りません。

 

一方、急性過敏性肺炎の患者さんは、抗原からの隔離を行えば、症状は軽快します。過敏性肺炎の患者さんのうち、全体の約75%の患者さんが急性過敏性肺炎です。

 

慢性過敏性肺炎の原因と病態生理

慢性過敏性肺炎の原因は、表2にある抗原に、持続的に曝露されることです。

 

 

表2慢性過敏性肺炎の主な原因抗原と関連疾患

 

疾患名 発生状況 原因抗原
塗装工肺 自動車塗装 イソシアネート
住居関連過敏性肺炎 古くて高温多湿な住宅での生活 カビ
鳥飼病 鳥の飼育
自宅庭への鳥飛来
鶏糞肥料の使用
剥製の設置
鳥の間接曝露
鳥排泄物
鳥排泄物
鳥排泄物
羽毛
隣人のハト、公園・神社・駅の野鳥、ドバトの群棲
羽毛布団肺 羽毛布団使用 羽毛
加湿器肺 加湿器使用 カビ
農夫肺 酪農作業
トラクター運転
カビ

慢性過敏性肺炎には、鳥とカビが主な抗原になる鳥飼病や、羽毛布団肺などがあります。

 

例えば、気管支の線維化は、表2にある吸入抗原によって起こります。羽毛布団や鳥の剥製、ハトの飼育でも起こりうる鳥飼病も慢性過敏性肺炎の一つです。

 

memo夏型過敏性肺炎は慢性過敏性肺炎になることもある

夏型過敏性肺炎は、代表的な急性過敏性肺炎の一種です。しかし、原因抗原を吸入し続けた場合、慢性過敏性肺炎を引き起こすことがあります。なお、夏型過敏性肺炎の患者さんのうち、何%の患者さんが慢性過敏性肺炎に移行するのかというデータはありません。

 

慢性過敏性肺炎の画像所見

慢性過敏性肺炎が進行すると、呼吸器内科を専門とする医師でも、画像上では特発性間質性肺炎などとの鑑別が難しくなります(図1)。

 

 

図1慢性過敏性肺炎の画像所見

慢性過敏性肺炎の画像所見

 

ABともに網状影と、気管支が拡張しているのが見られます(青ライン)。
また、肺の容量低下が見られます。

 

慢性過敏性肺炎の治療

慢性過敏性肺炎の治療は、抗原からの回避はもちろん、肺野病変の進行や低酸素血症があれば、ステロイド治療が行われる場合もあります。

 

聴診時に気を付けるポイント

慢性過敏性肺炎の患者さんは、下肺野を中心に聴診します(図2)。

 

 

図2慢性過敏性肺炎の患者さんに行うべき聴診の位置

慢性過敏性肺炎の患者さんに行うべき聴診の位置

 

前胸部、背部ともに、下肺野を中心に聴きましょう。

 

慢性過敏性肺炎の患者さんでは、両側下肺野に捻髪音(チリチリ、パリパリ)が聴取されることが多いため、その部分を重点的に聴診しましょう。

 

また、画像上も間質性肺炎と類似しているため、聴診部位も間質性肺炎と同様の両側肺底部に注意しましょう。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

慢性過敏性肺炎は、画像検査の結果が間質性肺炎ときわめて類似しているため、画像から判断することは困難です。しかし、患者さんが、表2にある原因抗原に曝露されていることがわかれば、診断の糸口になることがあります。

 

職業や住居、ペット、羽毛布団、自宅においてある剥製などが、慢性過敏性肺炎の吸入抗原の原因になり得るので注目してみましょう。

 

Check Point

  • 過敏性肺炎は、原因抗原から隔離すれば症状が軽快する急性過敏性肺炎と、症状が改善するとは限らない慢性過敏性肺炎がある。過敏性肺炎のうち、約75%が急性過敏性肺炎。
  • 慢性過敏性肺炎の患者さんを聴診する場合は、前胸部と背部ともに下肺野をしっかりと聴こう。

 

次回は、実際の慢性過敏性肺炎の患者さんの聴診音を聴いて、特徴をしっかりと覚えましょう。

 

[次回]

慢性過敏性肺炎患者さんの聴診音

 

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[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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