自然呼吸と人工呼吸って、なにが違うの?|呼吸の原理
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「自然呼吸と人工呼吸の違い」に関するQ&Aです。
尾野敏明
杏林大学医学部付属看護専門学校非常勤講師
自然呼吸と人工呼吸って、なにが違うの?
人工呼吸では、①人工気道が挿入されていること、②陽圧呼吸であること、の2点が大きく異なります。
〈目次〉
「人工気道の挿入」による影響
- 最近では、NPPV(非侵襲的陽圧換気)も頻繁に使用されているが、人工呼吸の主流は、まだまだ気管挿管下で行うものである。
- 自然呼吸の場合、吸入ガスは、気管分岐部でほぼ相対湿度80%まで加湿される。そして肺胞に到達したときには、温度37℃、相対湿度100%まで達している。
- 気管チューブは、声帯を越えて挿入されるため、上気道を完全にバイパスする(図1)。そのため、本来上気道で行われる加温・加湿が行われなくなる。
- 上気道での加温・加湿が行われなくなることで気道粘膜上皮の線毛運動が低下し、気道粘液の粘稠性が増す。そのため、痰や微生物などの排出機能が低下する。
- さらに人工呼吸における中央配管からの医療ガスは、低温・乾燥状態にある。直接吸入すると気道粘液の乾燥は促進され、固着、貯留して感染や気道閉塞をきたす要因となる。
- 以上より人工呼吸中は、何らかの加温加湿装置が不可欠となる。
「陽圧呼吸」による影響
1自然呼吸時
- 吸気では、横隔膜の収縮(下に引っ張られる状態)と肋間筋の収縮(胸が膨らむ状態)により胸郭が膨らむ。これにより、胸腔内は陰圧(-6~-8cmH2O)になり、それと同時に肺も外側へ引っ張られて膨らむ。その結果、口や鼻から気道を通り、肺へ空気が送り込まれる。
- 呼気では、吸気で収縮した横隔膜と肋間筋が弛緩して横隔膜が上方へ戻る。肋間筋は、胸が縮む方向へ動き、胸腔内の陰圧も消滅する。
- 呼気時にはまた、吸気で膨らんだ肺胞が、その弾性収縮力により縮もうとする。これにより肺内のガスは、再び気道を通り、口や鼻から体外へ吐き出される。
図2自然呼吸時の胸腔内圧・気道内圧
2人工呼吸時
- 人工呼吸の吸気では、人工呼吸器で設定した量あるいは圧になるまで、気管チューブを経由して送気が行われ、肺胞を強制的に膨らませる。
- 肺が膨らむため、胸郭も結果的に膨らむ。このため人工呼吸時の吸気では、胸腔内圧が陽圧に転じる部分が生じる。胸腔内が陽圧になると静脈還流量が減少し、生体にさまざまな影響を及ぼす。
- 呼気は、人工呼吸も自然呼吸も同様で、胸郭と肺胞の弾性によって呼出が行われる。ただし、呼吸回数を設定している場合などは、間接的に呼気時間を規定しているということに留意する必要がある。
COLUMN経肺圧って?
経肺圧(transpulmonary pressure)は肺胞内外圧較差とも呼ばれ、気道内圧(=肺の内側からかかる圧力)と胸腔内圧(=肺の外側からかかる圧力)の差のことをいい、吸気の発生に密接にかかわっている。
肺胞は、経肺圧が大きいほど膨張するほうに働く。つまり、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)などに対する肺保護戦略においては、肺の過伸展・過膨張を防ぐために、経肺圧の開大を防ぐことが重要となる。
(道又元裕)
略語
- NPPV(noninvasive positive pressure ventilation):非侵襲的陽圧換気
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社