術前の輸液は必要?
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『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「術前の輸液の必要性」に関するQ&Aです。
海堀昌樹
関西医科大学外科診療教授
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
術前の輸液は必要?
食事や水分の経口摂取が不可能な消化管疾患を除いて、術前の点滴は不要です。
〈目次〉
術前夜からの絶飲食はほとんどの患者で不必要
全身麻酔に関連した誤嚥性肺炎の発生を予防する目的で、術前夜から絶飲食とすることがこれまでの慣例でした。しかし、術前絶飲食に関する明らかなエビデンスがないこと、手術前でも、摂取内容および摂取時間を守った経口摂取方法であれば安全性が保たれることが明らかとなってきました。
絶飲食期間の短縮に関しては、2009年のヨーロッパ静脈経腸栄養学会(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism:ESPEN)周術期ガイドラインで、術前夜から絶飲食はほとんどの患者で不必要(Grade A)と示されています(1)。
術前夜からの絶飲食が不必要であるという根拠は?
手術前日からの点滴輸液はルートなどにより行動制限が強いられ、精神的にも不快なことが予想されます。何も飲まない、何も食べない、また一昔前には前投薬として筋肉注射でアトロピンまで投与され、口がカラカラに乾いたようです。
胃内に入った食物は、組成により若干異なりますが、6~8時間で十二指腸に送られ、液体は2~4時間で胃内を通過し、ひと晩絶飲食をしても胃内容は完全にゼロになるわけではなく、10~30mL程度の液体が貯留されています。
どんな方法で術前に経口補水すればいいの?
術前に摂取しても安全であると認められている飲料は、clear fluids(清澄水)に限られています(術直前の飲水は本当にだめ?参照)。
clear fluidsとは、下記の4つです。
摂取時間に関しては、現在アメリカおよびEU加盟国における各国の麻酔科学会より術前絶食のガイドラインが示されています(表1)。日本においては現在作成中ですが、一般的には各国と同様で飲料は麻酔導入2時間前、固形食物は6時間前まで可能と思われます。
当院は術前経口補水療法ではなく、点滴をしています。 点滴の場合はどれくらい必要ですか?
絶飲食の時間にもよりますが、朝からの手術であれば基本的には不要でしょう。 午後からの手術の場合は、3号液などの維持輸液を1日必要量(30mL×体重)の半分程度投与します。
例えば50kgの患者さんの場合は、30mL×50kg÷2 = 750mL を手術までに投与します。
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社