ペースメーカーの禁忌とは?|いまさら聞けない!ナースの常識【11】

若手看護師がつまずきやすいポイントをわかりやすく解説する連載『いまさら聞けない!ナースの常識』。 今回は「ペースメーカーの禁忌」について解説します。

 

監修:白石拓人(特定看護師、BLSインストラクター)

 

ペースメーカー装着患者さんの禁忌・注意事項。禁忌…MRI(MRI非対応のペースメーカーの場合のみ)、電気風呂、EMS(電気的筋肉刺激装置)、低周波治療器、体脂肪計、体組成計、全自動麻雀卓、電気自動車の急速充電器など。注意事項あり…AED、除細動器、CT、X線診断装置、放射線治療(ガンマ線の植え込み部分への直接照射は禁忌)、電気メス、高周波アブレーション、体外式衝撃は結石破砕装置(ESWL)、携帯電話、スマホ、PHS、IH調理器、IH炊飯器、電気カーペット、時期グッズ、トランシーバー、ICカード読み取り機、盗難防止ゲート、電子タグ、電気自動車の普通充電器、車のエンジン部、スマートキー、空港保安検査など。影響なし…Wi-Fi、Bluetooth、テレビ、オーディオ、PC、コピー機、FAX、ラジオ、飛行機、船、電車、新幹線、リニアモーターカー、温泉、サウナ、岩盤浴など。画像内の情報は一部です。詳細については必ず記事をご確認ください。

 

目次

1. ペースメーカーの「禁忌」とは?


ペースメーカーは、心臓を流れる電気信号を感知したり、心臓が正常に動くように電気信号を送ったりする医療機器です。

 

身体に電気を通したり、電磁波からの影響を受けたりすると、ペースメーカーが正常に作動しなくなり、場合によっては失神等を引き起こす原因となるため大変危険です。

 

そのため、ペースメーカー植込み患者さんには、禁忌や注意事項があります。

 

病棟の看護師にとっては、ペースメーカー植込み術直後でない限り、特に注意しなくてはならない点はありませんが、とっさの判断や患者さんへの適切な説明のために、参考にしてください。

 

医療行為における禁忌


ペースメーカーを植え込んでいるすべての患者さんに対して、絶対行ってはいけない「禁忌」となる医療行為は、以下のとおりです。

 

  • MRI検査1)(MRIに対応していないペースメーカーを使用している患者さんの場合)
  • 放射線治療におけるγ線のペースメーカー本体への直接照射2)
  • マイクロ波ジアテルミー、電気的根管長測定器、歯髄診断器、イオン注入器(いずれも歯科治療で使用)2)

 

MRI

MRIのイメージ画像

ペースメーカー植込み患者さんへの医療行為における禁忌で、最も遭遇しやすいのは、「MRI」の使用です。MRIに対応しているペースメーカーでないと、検査を行うことはできません1)

 

患者さんのペースメーカーがMRI対応かどうかは、患者さんが持っている「ペースメーカー手帳」で確認できます。

 

MRIに対応しているペースメーカーであっても、

 

  • MRI検査室に入る際には、磁場の影響を受けないよう、ペースメーカーをMRIモードに設定する3)
  • 検査中は、心電図モニターやパルスオキシメーターで、患者さんの心拍をチェックする。万が一に備えて除細動器を準備し、循環器医が立ち会うのが望ましい4)
  • 検査後は、できるだけすぐにペースメーカーの設定を元に戻し、異常がないか一通り確認する4)

 

など、細心の注意を払いながら、検査を行います。

 

 

Point

ペースメーカー手帳とは

 

患者さんの通院先、植え込んでいるペースメーカー、定期検査の情報などを記録した手帳。ペースメーカー植込み時に必ず発行されます。

 

治療や検査の前には、必ずペースメーカー手帳を事前に確認します。

 

患者さんの入院や検査のときに、ペースメーカー手帳を持ってきてもらうよう、看護師が案内する必要があります。

患者さんの日常生活における禁忌

 

以下の家電などの使用は、ペースメーカーの誤作動につながるおそれがあるため、禁忌となっています。

漏電した家電

ペースメーカー植込み患者さんが、アースを付けていない状態で漏電した家電に触れると、ペースメーカーの誤作動を引き起こすおそれがあり危険です5)

 

冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機などの家電製品は、漏電時の安全を確保するため、必ずアースをつけて使用します5)

電気自動車の急速充電器

電気自動車の急速充電器の写真

※標識の表示が「EV QUICK」の急速充電器は禁忌ですが、「EV 100V」または「EV 200V」のものは近づきすぎに注意の上で使用できます。

 

電気自動車の普通充電器は使えますが、ショッピングセンターや、コンビニエンスストアに設置されている、電気自動車の急速充電器の使用は控えるべきとされています6)

 

また、急速充電器を設置している場所には近づかず、近づいてしまった場合は立ち止まらず速やかに離れるよう推奨されています6)

電気風呂/EMS/体脂肪計/低周波治療器/高周波治療器/通電鍼治療器/医療用電気治療器

体組成計、低周波治療器の画像

これらの機器は、体内に電気を通すものであり、ペースメーカーの誤作動や重篤な不具合につながるおそれがあります5,7)

 

電気の強さや周波数、種類に関わらず、使用は厳禁です5,7)。また、通電鍼治療器や、医療用電気治療器は、鍼灸院や接骨院で使用されることもあるので、注意が必要です。

全自動麻雀卓

全自動麻雀卓の画像

全自動麻雀卓は、牌を卓上に送り出すために、電磁石を使用しています。この電磁石から、磁界の影響を受けて、ペースメーカーに誤作動をきたすおそれがあります8)

 

安全を保つために、卓の縁から30cm程度離れる必要がありますが、着席するとこの距離よりも近い位置に座り続けることになるため、使用は禁止されています8)

金属探知器

金属探知機の画像

金属探知器から発生する電磁波が、ペースメーカーに影響を及ぼし、誤作動につながるおそれがあるとされています9)。特に携帯型金属探知機は、ペースメーカーに影響を及ぼしてしまう可能性が高いため、避ける必要があります10)

 

設置型の金属探知機については、ペースメーカーに影響はないという見解もあります10)。しかし、空港での保安検査を受ける際は、ペースメーカー手帳を係員に提示して、金属探知器を使わずに検査を受けることが推奨されています9)

 

空港だけでなく、コンサートやスポーツ観戦の際、入場前のボディチェックで金属探知機が用いられることもあるので、注意が必要です。

その他の禁忌

その他にも、以下の場所に近づいたり、物品を使用したりすることは禁止されています。

 

機械整備や工事の仕事などをしている患者さんは、これらの物品や場所に近づく可能性があるので、注意が必要です。

 

<接近禁止>11,12)

  • 誘導型溶鉱炉
  • 発電施設
  • レーダー基地
  • 放送所アンテナ/中継基地
  • 強力な磁場の発生する場所

 

<使用禁止>11,12,13)

  • 各種溶接器
  • 強い電磁波を発生する機器
  • アーク溶接器、スポット溶接器
  • 大型モーター
  • 高電圧設備
  • 不良電気器具
  • 脱磁気装置
  • 磁気バイス
  • 電磁石
  • 高周波溶着器

2. ペースメーカーの注意事項

 

ペースメーカー植込み患者さんへの医療行為や、患者さんの日常生活の中には、絶対に行ってはならない禁忌以外にも、注意すべきことがあります。

 

医療行為における注意事項

AED、除細動器

AEDのイラストと、体外式電気的除細動器を患者に使用する医療従事者のイラスト

AEDや、体外式電気的除細動器(以下、除細動器)を使うときに、注意するのは以下の2点です。

 

  1. 1電極がペースメーカー植込み部の直上にならないようにする14,15)
  2. 2除細動を行った後、ペーシングに異常が出ることを想定して、対処できるよう準備する(体外式ペーシングの準備など)1)

 

電極を植込み部の直上にしてしまうと、電極からの電気刺激がペースメーカーの故障につながるおそれがあります16)

 

電極は、植込み部から3~8cm17,18)以上離すことが推奨されていますが、それを意識するあまり救命が遅れないように、「直上は避ける」と覚えておくとよいでしょう。

 

ICD(植込み型除細動器)など、除細動機能がついているペースメーカーは、胸骨圧迫中にも自動で除細動を行うことがあります19)

 

その場合の対応については、いざというときのために、施設の方針を確認しておく必要があります。

CT、X線診断装置

CT装置とX線診断装置のイラスト

CT(X線CT検査)、X線診断装置は禁忌ではありませんが、検査を行う技師や医師は、以下の3点に留意し、検査を行う必要があるとされています。

 

  1. 1ペースメーカー本体植込み部位に、X線束を5秒以上連続で照射しない20)
  2. 2やむを得ず5秒以上照射する場合は、患者さんに両腕挙上をさせる等で、ペースメーカー植込み部を照射部分からずらせないか検討する20)
  3. 3本体植込み部への5秒以上の照射が避けられない場合は、検査中「固定ペーシングモード」に設定し、脈拍をモニターする。または、一時的に体外ペーシングを行いながら、検査する20)

 

照射されるX線束が、ペースメーカー本体の回路に影響を与えることで、ペースメーカーの異常動作につながってしまうおそれがあります21)

放射線治療

放射線治療を行う装置のイラスト

ペースメーカー植込み患者さんに放射線治療を行う際には、以下の2点に留意する必要があります。

 

  1. 1メーカーや機種、ペースメーカーの種類によって、耐えられる線量の上限が違うこと22)
  2. 2多くのメーカーでは、本体に直接放射線を照射しない想定でペースメーカーを製造していること22)

 

ペースメーカー植込み部に近い患部に放射線を照射すると、その影響でペースメーカーが不適切な電気刺激を行ってしまったり、故障してしまう場合があります23)。そのため、治療中のペースメーカーの動作に異常がないか、技師と専門医で確認しながら治療を行うべきとされています24)

 

なお、前述の通り「放射線治療におけるγ線のペースメーカー本体への直接照射」は禁忌です。

電気メス/高周波アブレーション

電気メスのイラスト

電気メスを使用する際は、対極板、メス刃ともに、ペースメーカー本体から15cm以上離れた部位での使用が望ましいとされています25)

 

また、術前には非同期モード(心拍による電気信号は感知せず、一定の間隔で電気刺激を行い続ける)、または自己心拍が確保できる設定に変更したうえで、心電図をチェックしながら手術を行います1)

 

高周波アブレーション(カテーテルで高周波の電気を流すことで熱を発生させ、心房細動の原因となる異常な電気信号を遮断する治療)を行う際も、同様の対策を取る必要があります1)

 

なお、通電中の電気メスのメス刃や対極板、アブレーション電極は、ペースメーカー本体や電極部分に絶対に接触させてはならないとされています1)

体外式衝撃波結石破砕装置(ESWL)

ESWLは、衝撃波の焦点がペースメーカー本体に接近しすぎると、衝撃波によって本体を壊してしまうおそれがある2)ので、適用には慎重になる必要があります26)

 

2016年に改訂されたESWLの取扱説明書では、「安全性は確認されていない」とされています26)。ただ、2003年に、細心の注意を払ったうえで無事に治療ができたという症例もある27)ため、「使用すると必ず不具合が起きる」という装置ではありません。

 

やむを得ず適用する場合は、衝撃波の焦点をペースメーカー本体から5cm以上離した2)うえで、循環器医が立ち会うなど、異常時に対応できるよう体制を整えて行う必要があります。

その他の医療行為における注意事項

その他にも、以下の医療行為は、注意が必要だとされています2,28)

 

  • 重粒子線治療
  • 可視光線照射器
  • レーザーメス

患者さんの日常生活(自宅)における注意事項

 

以下の家電などは、植込み部からの適切な距離を守り、通常使用の範囲であれば、問題なく使用できます。

 

ただし、使用中にめまいなどの不調を感じたら、すぐに使用を中止し、受診する必要があります。

 

携帯電話/スマートフォン/PHS

携帯電話、スマートフォンの写真

携帯電話、スマートフォン、PHSは、端末とペースメーカー植込み部分を15cm以上離すことで、安全に使用できます29)

 

  • 携帯電話を胸ポケットに入れない
  • 通話時は患側と逆の手で持つ

 

など、常に15cm以上の距離を保ちながら使用します。

IH調理器/IH炊飯器

IH調理器、IH炊飯器の写真

IH調理器、IH炊飯器は、使用中に磁界を発生させているため、常に50cm以上の距離を保つ必要があります30)

 

通常使用の範囲であれば、50cmよりも近づいてしまうことは少ないと思いますが、近づきすぎには注意が必要です。

電気カーペット

電気カーペットの写真

電気カーペットを使用するときは、植込み部とカーペットが密着するような姿勢は避ける必要があります30)

 

  • カーペットの上では寝転がらない
  • 寝転がって使用したいときは、使用する前に十分温めたうえで電源を切る

 

など、電源がついている状態でカーペット上で寝転がることがないよう、注意して使用します。

磁気グッズ(サポーター、ブレスレットなど)

磁力を発するサポーターやブレスレットなどの磁気グッズを使用する際は、植込み部位に近づけないように使用します7)

 

植込み部位との距離が近くなりやすいため、ネックレスタイプは避けたうえで、シールで貼るタイプなども、肩などへの使用は、避けたほうが無難です。

 

また、それらのグッズを、胸ポケットなどに入れないようにも注意が必要です。

芝刈り機

肩掛け式芝刈り機の写真

芝刈り機は、エンジンが作動していると電磁波を発生する31)ため、エンジン部分に近づかないようにして使用します32)

 

また、肩掛けタイプの芝刈り機で、植込み部位の真上にベルトが当たってしまい、芝刈り作業を終えた後に創部感染を引き起こしてしまった症例もあります33)

 

使用する際は、植込み部位が振動などで刺激されないようにも、注意する必要があります。

小型無線機

小型無線機(トランシーバー)の写真

小型無線機(アマチュア無線機、パーソナル無線機、トランシーバー)は、携帯電話などよりもペースメーカーに影響を与えてしまう可能性が高いため、使用は控えるべきと考えられています34)

 

ただ、機種によっては、誤作動などの影響はなかったという実験の結果が出ているものもあります35)

 

いかなる場合でも禁止とされている状態ではないものの、使用は控えたほうが無難です。

ドライヤー、電動シェーバー、電気カミソリ

ドライヤーと電気シェーバーの写真

ドライヤー、電動シェーバー、電気カミソリを使用するときは、使用時には植込み部位に近づけないように注意する必要がある36)といわれています。

 

しかし、中には「影響は考えづらい」11)という見解もあるため、過度に注意する必要はないでしょう。

患者さんの日常生活(外出時)における注意事項

ICカード読み取り機

ICカード読み取り機の写真

ICカードの読み取り部分は、植込み部位から12㎝以上距離をとる必要があります41)

 

改札を通ったり、おサイフケータイ機能で料金を支払ったりする通常使用の範囲では、腕の長さの分だけ距離をとったうえでの使用になるため、問題ありません。

 

また、ICカード単体が電磁波を発生させることはない37)ため、ICカードを胸ポケット等にしまっておくなど、植込み部位に近づけても、誤作動のおそれはありません。

盗難防止ゲート/電子タグ

盗難防止ゲートには、以下のステッカーが貼られています。

盗難防止ゲートに貼られているRFIDのステッカー

※出典:一般社団法人日本自動認識システム協会

 

このステッカーが貼ってあるゲートを通過する際は、ゲートの中央を、正面を向いて立ち止まらずに通過すべきとされています37)

 

  • ゲートに近づく
  • 身体をゲートの方向に向ける
  • ゲートの近くに立ち続ける

 

などは、ゲートから発生する電磁波による誤作動のおそれがあるため控える必要があります37)

 

また、ハンディ型の電子タグシステムには、以下のステッカーが貼られています。

ハンディ型電子タグシステムに貼られているRFIDのステッカー

※出典:一般社団法人日本自動認識システム協会

 

ハンディ型電子タグは、回転寿司店でお皿の枚数や合計金額を読み取るときなどに使用されています。

 

植込み部位から読み取り用のアンテナまで、22cm以上距離をとる必要があります37)が、店員が機器を使用する際に近づきすぎなければ、問題ありません。

電気自動車の普通充電器

電気自動車の普通充電器の標識の写真

※標識の表示が「EV QUICK」の急速充電器は使用できませんが、「EV 100V」または「EV 200V」のものは近づきすぎに注意のうえで使用できます。

 

前述の通り、電気自動車の急速充電器は、出力が大きく、ペースメーカーへの干渉が大きいと考えられているため使用はNG6)です。しかし、普通充電器であれば使用することができます8)

 

充電中の充電スタンドや、充電ケーブルに密着するような姿勢をとると、誤作動のおそれがあり危険8)ですが、通常使用の範囲であれば問題はありません。

車のエンジン部/スマートキー

ボンネットを開け、車のエンジン部が見える状態の写真と、スマートキーの写真

エンジンのかかった状態の自動車のボンネット内は、強い電磁波が放出されています38)。そのため、エンジンがかかった状態でボンネット内をのぞき込まないよう、注意が必要です38)

 

スマートキーを使用する際は、自動車に搭載されているアンテナの位置を事前に確認したうえで、アンテナから22cm以上距離をとります39)。車に寄りかかったり、車内をのぞき込んだりすると、アンテナとの距離が近くなるおそれがあるので、注意が必要です。

スロットマシーン

スロットマシーンの写真

スロットマシーンは強い電磁波を生じるものもあるため、使用は控えるべきとされています10)

 

ただ、一部機種で行われた実験では、ペースメーカーに影響を与えることは考えづらい40)という結果も出ているので、「絶対に使用してはならない」とは言い切れない状況です。

 

遊戯の際は念のため、必要以上にマシーンに近づかないようにする必要があります。

空港保安検査

空港の保安検査場のイメージ画像

空港で保安検査を受ける際は、事前に空港係員にペースメーカー手帳を提示します10)

 

検査に用いられる金属探知用ゲートは、ペースメーカーに影響しないことがわかっています41)が、ペースメーカーの金属に反応してしまう可能性がある42)ので、金属探知器を使わずに検査を受けられるよう確認する必要があります。

その他の日常生活における注意事項

その他にも、以下の機器等の使用には、注意が必要だとされています12,43)

 

  • 農機全般/可搬型発電機/オートバイ/スノーモービル/モーターボートなどの露出したエンジン
  • モーター
  • 配電盤/分電盤
  • 木工機械
  • 無線機
  • 計測機器
  • マグネット
  • 溶解炉
  • 溶着機
  • 農業機器
  • 漁船、漁船用機器

3. ペースメーカーに影響しないもの

 

以下の家電、乗り物、場所は、問題なく利用できます。

 

患者さんの日常生活(自宅)

Wi-Fi/Bluetooth/テレビ/オーディオ/PC/コピー機/FAX/ラジオ

PC、Bluetoothイヤホン、テレビ、オーディオの写真

これらの物品、電波などは、問題なく使用することができます。

 

電磁波の中でも通信に使われる電波は、水中には届かない、つまり水分が60%以上を占める人体内には侵入しづらいため、ペースメーカーへの干渉も考えづらいとされています44)

 

ただ、スイッチを操作するときには、ペースメーカーに影響を及ぼし得る電磁波が発生します。そのため、頻繁に電源スイッチをON/OFFすることは避けるべきとされています9)

空気清浄機/加湿器/カーペット以外の暖房器具

空気清浄機、電気ストーブの写真

空気清浄機、加湿器、電気カーペット以外の暖房器具に関しても、ペースメーカーに干渉することはありません9)

 

ただ、スイッチを操作するときには、ペースメーカーに影響を及ぼし得る電磁波が発生します(前述のテレビ等と同様)。頻繁に電源スイッチをON/OFFしないで使用する必要があります9)

患者さんの日常生活(外出時)

飛行機/船/電車/新幹線/自動車/リニアモーターカー

飛行機、電車、新幹線、船、車、バス、トラックの写真

飛行機や船、電車などの公共交通機関は、問題なく使用することができます10)

 

電気で動く電車や、磁気で動くリニアモーターカーについても、車内での電磁干渉は確認されていません10)

 

ただ、ペースメーカー植込み後に失神したことがある場合は、自動車の運転免許は取得できず、すでに免許を持っている場合でも、免許取り消しとなります45)

温泉/サウナ/岩盤浴

温泉、岩盤浴の写真

温泉やサウナ、岩盤浴など、身体を温める施設は、問題なく利用できます46)。身体が温まったことで心拍数が上がると、心臓に負担がかかるため、あまり長く入りすぎないように注意が必要です46)

 

ただし、前述したように、電気風呂は、ペースメーカーの誤作動のおそれがあるため、禁忌とされています。

その他の影響のない物品、医療機器

以下の物品や医療機器は、通常通り使用することができます。

 

<物品>12)

  • 電子レンジ/電気洗濯機/電気冷蔵庫/食洗機(※必ずアースを接続すること)
  • ホットプレート/トースター/ミキサー
  • 電気コタツ/温水洗浄便座/電気掃除機
  • レーザーディスク/ビデオ/TVゲーム/DVDプレーヤー
  • 電動タイプライター
  • 補聴器/血圧測定器/電動マッサージ機/体温計
  • トラクター/電動工具類

 

<医療機器>11)

  • 超音波診断装置
  • ポジトロンCT(PET)
  • ラジオアイソトープ診断装置
  • 心電計

4. ペースメーカーの禁忌 状況別Q&A

 

ペースメーカー植込み患者さんの禁忌について、状況別によくある疑問を、監修の白石拓人さん(特定看護師)に聞いてみました。

 

 

ペースメーカー植込み患者さんの薬の禁忌はある?

ペースメーカー植込み患者さんに絶対禁忌となる薬は、僕が知る限りではありません。

 

「絶対禁忌」の薬についてはガイドラインにも記載されていない2)し、僕が知る限りではそのような薬はありませんが、必ず担当医に確認しましょう。

 

ペースメーカーを適用する前の薬物療法に使用されることの多い、抗不整脈薬、β遮断薬などを、植込み後も使用する場合は、双方の作用に影響が出る可能性があるため、処方量に注意する必要があるとされています2)

 

また、ペースメーカー植込み手術の術後は、

 

  • ステロイドを服用している場合、免疫力が下がっているため、創部感染を起こしやすい
  • 抗凝固薬を服用している場合、術後の創部の回復に影響が出るおそれがある

 

など、薬の作用が術後の回復に影響を及ぼすおそれがあるので、注意が必要です。

 

 

ペースメーカー植込み患者さんの運動・リハビリは禁忌?

ペースメーカー植込み手術の術後1~2カ月ほどは、植え込んだペースメーカーを定着させる必要があるため、植込み側の腕を肩より上に挙上してはいけません47)

 

術後1週間程度で退院した後に、筋トレなど植込み側の腕を動かす運動をしてしまい、ペースメーカーを植え込んだ傷口が開いてしまった症例もあるので、注意が必要です。

 

ペースメーカーが定着した後は、適度な運動であれば行うことができます。

 

ただ、

 

  • 植込み側の腕を連続して動かす運動(腕立て伏せ、鉄棒、球技など)
  • 激しく体がぶつかる運動(柔道などの格闘技、ラグビーなど)

 

など、ペースメーカー本体やリードに強い衝撃がかかるような運動は、故障や破損につながるおそれがあるのでNGです48)

 

また、水圧によりペースメーカーに負荷がかかる場合もあるため、水深20m以上潜水することは禁忌とされています49)

 

 

ペースメーカー植込み患者さんの血圧測定に禁忌はある?左右どちらで測る?

一般的に、ペースメーカー植込み患者さんの血圧測定は、問題ないとされています50)

 

血圧測定時も、植込み側かそうでないかに関わらず、左右どちらで測ってもOKです。

 

また、ペースメーカーが血圧の数値に重大な影響を及ぼすこともないでしょう。血圧測定では、動脈の収縮と拡張の数値を測りますが、ペースメーカーをつけるとき、リードと呼ばれる電線は、必ず静脈に装着するため、数値に影響が出ることは考えづらいです。

 

5. ペースメーカーの禁忌の理由は?仕組みから解説

 

ペースメーカー植込み患者さんには、なぜこんなにたくさん、注意すべき点があるのでしょうか。

 

ペースメーカーの仕組みから、その理由を解説します。

 

ペースメーカーの仕組み51)

ペースメーカーのイラスト

ペースメーカーは、主に徐脈の治療に使用される植込み型医療器具で、リードと呼ばれる電線と、本体の部分に分かれています。

 

リードには電極がついていて、心筋の動きを感知したり、本体からの電気刺激を心筋に送ったりしています。

 

本体は、リードから送られた心筋の動きを踏まえて、あらかじめ設定された条件のとおりに、リードを伝って電気を送り込みます。

 

心臓が本来拍動するべきタイミングのはずなのに、拍動を指示する電気信号が正常に伝わっていないと、脈が飛んでしまいます。

 

それを防ぐために、ペースメーカーが代わりに電気信号を送って心臓を拍動させる、という仕組みです。

 

ペースメーカー植込み患者さんに禁忌がある理由52)

 

ペースメーカー植込み患者さんに注意事項がたくさんある理由は、「ペースメーカーを正常に作動させるため」です。

 

外部からの電気刺激があると、その刺激を「心臓が動いている電気刺激である」と勘違いして、本来刺激を送る必要があるタイミングにもかかわらず、送るのをやめてしまうのです。

 

それにより、脈が飛んでしまい、めまいや立ちくらみ、失神や心不全につながってしまうケースもあります。

 

6. まとめ

 

ペースメーカー植込み患者さんには、ペースメーカーの動作に異常を生じさせないよう、禁忌となる治療や、注意が必要な治療があります。

 

とっさの判断や患者さんへの適切な説明のために、参考にしてください。

 

 

看護roo!編集部 光松瞳

 

監修

特定看護師、BLSインストラクター。循環器専門誌での執筆、セミナー講師など、多方面で活躍。

※編集部注※

当記事は、2013年1月11日に公開した『ペースメーカーの仕組み|いまさら聞けない!ナースの常識【11】』という記事を、2022年1月31日に修正・加筆したものです。

 

引用・参考文献

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