closed loop control(クローズドループコントロール)ってなに?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「closed loop control」に関するQ&Aです。
開 正宏
名古屋第一赤十字病院臨床工学技術課第二課長
closed loop control(クローズドループコントロール)ってなに?
〈目次〉
open loop(オープンループ)とclosed loop(クローズドループ)
これまでの人工呼吸器の各モードは、医師が換気条件を設定して圧や量・同調性を確認した後に調整を繰り返す「医師⇄人工呼吸器⇄患者」のopen loopであった。
closed loop controlやclosed loop ventilationと呼ばれる機構は「人工呼吸器⇄患者」の一部を人工呼吸器のアルゴリズムで自動的に適正な設定となるように調整する。
つまり、closed loop controlとは、人工呼吸器が患者の状態(情報)を自ら取り入れて演算処理し、換気制御を行うことで、より高い同調性や呼吸仕事量の低減、人工呼吸器離脱への導きのみならず、患者の呼吸状態が増悪した際にも設定を調節し、医療者の負担を軽減してくれる機構である。
PRVCなどのモードでは、換気量を維持するために最適な流速を人工呼吸器が選択することから、広義のclosed loop controlともいえる。
ただし、本記事では「患者からの呼吸情報をフィードバック制御して、より進んだ形の最適な同調性や高い呼吸補助能力による呼吸仕事量の軽減、そして、人工呼吸器離脱トライアルまで行うモード」をclosed loop controlとして解説する。
現在、わが国で使用可能な機構は以下の4つである。
- ①PAVTM+/パブTMプラス(比例補助換気):コヴィディエンジャパン株式会社
- ②SmartCare(スマートケア)Ⓡ(ver.1またはver.2):ドレーゲル・メディカルジャパン株式会社
- ③ASVⓇ(適応補助換気):ハミルトンメディカル社
- ④NAVA(ナバ)Ⓡ(神経調節補助換気):マッケ社
closed loop controlのしくみ(IインテリヴェントNTELLiVENTⓇ-ASVの場合)
従来のASVⓇは、基本的にPC-SIMVの動作を行う。ターゲット分時換気量やPEEPなどを設定すると、自発呼吸の有無にかかわらず最適な呼吸回数・一回換気量・自発呼吸への補助などが自動で決定される。
INTELLiVENTⓇ-ASVは、上記の他、パルスオキシメータのSpO2とカプノメータのETCO2を取り込み、設定酸素濃度・PEEPとターゲット分時換気量を自動決定する(図2)。
A:仮想患者の人工呼吸時設定条件
B:仮想患者の呼吸状態が悪化すると…
INTELLiVENTⓇ-ASVは、独自のアルゴリズムにより、CO2elimination(エリミネーション/換気能力)としてETCO2と換気圧力の関係を、Oxygenation(オキシゲネーション/酸素化)としてSpO2とPEEPの関係を演算することで、目標値から逸脱しないようなしくみになっている。図3にSpO2とPEEP/吸入酸素濃度の調整の関係を示す。
略語
- PAVTM+(Proportional Assist Ventilation Plus):比例補助換気
- ASVⓇ(Adaptive Support Ventilation):適応補助換気
- NAVAⓇ(Neurally Adjusted Ventilatory Assist):神経調節補助換気。厳密にはNAVAⓇは上記に示すようなclosed loop controlとは異なる。
- INTELLiVENTⓇ-ASV:ハミルトンメディカル社のG5やS1に搭載されているモード
- ターゲット分時換気量:年齢(成人または小児・新生児)と性別を選別し、患者の身長を入力すると理想体重が定まり、それをもとに目標とするターゲット分時換気量が設定される。
- SpO2(pulse-oxymetric oxygen saturation):経皮的動脈血酸素飽和度
- ETCO2(end-tidal CO2):呼気終末二酸化炭素分圧
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本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社