大腸の手術前に、腸管洗浄剤は本当に必要? 

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「大腸の手術前の腸管洗浄剤」に関するQ&Aです。

 

宮田剛
岩手県立中央病院病院長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

大腸の手術前に、腸管洗浄剤は本当に必要?

 

いわゆる経口腸管洗浄剤は“回避すべき”といわれるようになってきています。

 

〈目次〉

 

腸管洗浄は腸管浮腫の要因になる

大腸を切除し、吻合をする手術の際に、大腸内腔に糞便が充満していると吻合操作がしにくいだけでなく、術後の縫合不全、リーク(腸管内容の腸管外への漏れ)、創感染の原因になると考えられていました。

 

そのため、執刀する外科医は術前に腸管内容を徹底的に排除したうえで手術することがよいと信じ、手術前日から当日朝に、通常2Lの腸管洗浄剤(ニフレック、マグコロール、ムーベンなど)の内服を行っていました。

 

腸管洗浄剤とは、腸管内と同等な電解質組成をもつ液体で、通常は粉末として販売され、使う前に溶解します。腸管からの電解質吸収能を上回る量の電解質であることから、水分を吸収せずに排出するため便塊も一緒に排出されるという原理です。

 

しかし、術直前のこの腸管洗浄による大量の下痢により、血管内脱水をきたし、全身麻酔による血圧低下と、それを補う大量輸液が必要になり、結果として腸管浮腫の要因となることも指摘されています。

 

腸管浮腫は術後の蠕動運動回復を遅らせ、経口摂取や正常な排便の回復を遅らせることにつながります(図1)。

 

図1術前の腸管洗浄が術後の腸管浮腫の要因になる

術前の腸管洗浄が術後の腸管浮腫の要因になる

 

この観点から、近年注目されているERAS/イーラス(enhanced recovery after surgery、術後回復強化)では腸管の術前処置は廃止することが提唱されています(文献1)。

 

経口腸管洗浄剤による術前処置の功罪に関しては、これまでも議論が繰り返され、多くの無作為抽出前向き試験が行われています。2011年のメタ分析(用語解説参照)では、これらの処置をしなかった群に比べて処置をした群に縫合不全や創感染などが減るわけでもないという結果となりました(文献2)。しかし、わが国では、この“一切廃止”という風潮に対して、異議を唱えるものも見受けられます。

 

用語解説メタ分析

1つの論文だけでなく、いくつかのランダム化比較試験(RCT)の結果を統合し、それを分析して結論を示す方法で、EBMにおいて最も質の高い根拠とされる。

 

緩下剤は必ずしも否定されていない

まず、手術前に便の排出障害をきたしているか否か、イレウス(腸閉塞)気味か否か、もともとの排便習慣として便秘で術前に大量の糞便が大腸内に残存しているか否かを把握する必要があると思います。これらが手術操作に支障をきたす可能性もあり、執刀する外科医の指示を仰ぐ必要があるでしょう。

 

瀉下作用が強く、血管内脱水の危険のある経口腸管洗浄剤に関しては使用すべきでないことは確かですが、腸管蠕動刺激作用の緩下剤(センナなど)による緩徐な糞便排出促進は必ずしも否定されているわけではなく、適宜判断されるべきと思います(図2)。

 

図2下剤の分類と特徴

下剤の分類と特徴

 

医師に“下剤”の使用を相談したほうがいい状況も

ただ、これらの処置に際しても、必要に応じて経口補液、あるいは経静脈的な補液で脱水を是正する必要があります。口渇感や血圧、脈拍皮膚、舌の乾燥の有無などからこれらを評価して、主治医に適切に伝えるべきです。

 


 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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