特発性間質性肺炎患者さんの聴診音

 

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

[前回の内容]

特発性間質性肺炎の疾患解説

 

今回は、間質性肺疾患である「特発性間質性肺炎患者さんの聴診音」について解説します。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

特発性間質性肺炎の難しさは理解できましたか?

 

たくさんの要因があることに驚きました。
特発性間質性肺炎ってとても怖い病気なんですね。
聴こえる副雑音も色々な種類があるんですか?

 

基本的に、特発性間質性肺炎の場合、捻髪音が聴こえます。
まれに、いびき音やスクウォークも聴こえますね。
ここでは、2人の特発性間質性肺炎の患者さんの症例をもとに、聴診音を紹介します。

 

〈目次〉

 

症例①:特発性間質性肺炎(軽症例)の患者さん

まずは、軽症の特発性間質性肺炎の患者さんの症例について簡単に解説します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。

 

【60歳、女性】

 

主訴乾性咳嗽

 

既往歴:なし。

 

現病歴:数週前からの乾性咳嗽を主訴に受診。

 

画像所見:胸部CTでは、両側下葉にわずかに網状陰影を認める(図1)。右側優位で見られる。

 

図1軽症な特発性間質性肺炎の患者さんの胸部CT画像

軽症な特発性間質性肺炎の患者さんの胸部CT画像

 

両側下葉にわずかに網状陰影が見られます(青ライン)。

 

身体所見:右背側優位で捻髪音を聴取。

 

聴診音:わずかに聴こえる捻髪音

 

ココを聴こう!

1秒・5秒・9秒過ぎ:「パリパリ」という音

 

  • 本症例では、吸気後期に、わずかに捻髪音が聴こえることが特徴です。
  • 背部の下肺野(図1青ライン部分)を中心に、聴診することがポイントです。

 

症例②:特発性間質性肺炎の患者さん

次に、一般的な特発性間質性肺炎の患者さんの症例について簡単に解説します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。

 

【68歳、女性】

 

主訴:数年前からの乾性咳嗽、労作時の呼吸困難。

 

既往歴:特になし。

 

現病歴:数ヶ月前から労作時に呼吸困難。2ヶ月で3kgの体重減少のため、近医を受診後、胸部異常陰影を指摘され受診した。

 

画像所見:胸部X線では両側の中下肺野を主体に網状陰影を認める(図2)。右側優位。

 

図2特発性間質性肺炎の患者さん(捻髪音+スクウォーク)の胸部X線・CT画像

特発性間質性肺炎の患者さん(捻髪音+スクウォーク)の胸部X線・CT画像

 

両側の中下肺野に網状陰影が見られます(青ライン)。特に右下肺野の容量減少があります。

 

身体所見:SpO2 94%(室内気)、呼吸数 18回/min、血圧 140/80、脈拍 80/min。

 

基礎疾患がないため、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)と考えられる。

 

聴診音:両側下肺野背側で聴こえる捻髪音とスクウォーク

 

ココを聴こう!

1秒前後・5秒前後:「キュキュ」という音

 

  • 本症例では、高い捻髪音が聴こえますが、吸気後期には「キュキュ」というスクウォークが聴こえることが特徴です。
  • 聴診音図では、異常音の聴こえ始めから終わりにかけて音が大きくなっているのがわかります(緑色のグラフが大きい)。
  • 重要なポイントは、捻髪音がかなり強く(聴診音図で振幅が高い)聴こえることです。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

間質性肺炎は、病変の程度によって捻髪音の聴こえ方が変わってきます。病気が進行した例では、頻繁に捻髪音が聴こえるため、かなりわかりやすいと思います。

 

Check Point

  • 特発性間質性肺炎の患者さんでは、主にチリチリ・パリパリという捻髪音が聴こえる。
  • まれに、グーグーといういびき音やスクウォークが聴こえることもある。

 

 

 

*聴診音は、筆者が実際の症例で収録したものです。そのため、一部で雑音も入っています。

 

 



 

[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志


協力:株式会社JVCケンウッド


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