肺炎(市中肺炎)患者さんの聴診音
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この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。
[前回の内容]
今回は、感染性呼吸器疾患である「肺炎(市中肺炎)患者さんの聴診音」について解説します。
皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)
これから私が実際に担当した肺炎の患者さんの聴診音を聴いて、特徴を覚えていきましょう。
基礎編で勉強した内容だと、肺炎の患者さんでは水泡音が聴こえるんですよね?
正解です! ただ、病態の進行具合によっては別の副雑音も聴こえるんです。
ここでは、2人の肺炎の患者さんの症例をもとに、聴診音を紹介します。
〈目次〉
症例①:肺気腫を患っている肺炎患者さんの聴診音
まずは、肺気腫を患っている患者さんに肺炎が生じた症例について簡単に紹介します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。
【75歳、男性】
主訴:数日前からの湿性咳嗽。
既往歴:なし。
喫煙歴:喫煙者。50年間、20本/日(50 pack-years)。
現病歴:数日前から微熱と湿性咳嗽の症状があり、肺炎と診断され、入院。
画像所見:なし。
聴診音:右下肺野背側で聴いた音
ココを聴こう!
1秒前・3秒・5秒前後・6.5秒・9秒付近:「ゴロゴロ」という音
- 本症例では、低い音の水泡音が聴こえるのがポイントです。この音に気付きましょう。
- 水泡音が吸気全般で聴こえます。ドクターがよく使う用語で表すと、呼吸時のタイミング(呼吸相)の分類では、「全吸気水泡音」にあたります。
目指せ! エキスパートナース「pack-years」は国際的な喫煙量の指標
喫煙者の喫煙量をカルテや看護記録などに書く場合、例えば、「20本を50年間」と書く方法もありますが、筆者は「50 pack-years」と表す「pack-years」という単位を使うことをお勧めします。
「pack-years」とは、「1日に吸うタバコの箱数×喫煙年数」を計算したものです。
例えば、「1日20本を40年間」と「1日10本を20年間」続けた場合、喫煙量自体は同じ分量になります。しかし、このように表記された文章を一目見ただけでは、同じかどうかはわかりにくいものです。そこで、「pack-years」という単位を使って表します。
「1日20本を40年間」続けた場合は「1packを40年」のため、「40 pack-years」
「1日10本を20年間」続けた場合は「0.5packを20年」のため、「10 pack-years」
このように喫煙量を表せるので、本数と喫煙期間が異なる場合でも、それぞれを足し算し、[「40 pack-years」+「10 pack-years」=「50 pack-years」]として、わかりやすく表記することができます。
なお、「50 pack-years」を超えた場合は、肺気腫だけでなく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の進行も疑うべきです。
症例②:市中肺炎の患者さんの聴診音
次に、一般的な肺炎(市中肺炎)の患者さんの症例について簡単に解説します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。
【61歳、男性】
主訴:3日前からの乾性咳嗽。
既往歴:高血圧で30歳から治療、脂質異常症で45歳から治療。
喫煙歴:元喫煙者。20歳~25歳まで10本/日(3 pack-years)。
現病歴:3日前に咳嗽が出だし、嗄声(させい)も伴う。咽頭痛はなく、喀痰(かくたん)もなし。昨日、毎年受けている人間ドックで右肺の異常陰影を指摘され、紹介受診。
画像所見:発症前と発症時の胸部X線を比較すると、右下肺野に浸潤影を認める(図1A・B)。
図1右下肺野に浸潤影が見られる胸部X線画像
胸部CTでも、同部位(右下肺野)に、網状陰影を伴う浸潤影を認める(図2)。
図2網状陰影を伴う浸潤影が見られる胸部CT画像
身体所見:体温 36.8℃、SpO2 96%、呼吸数 14回/min、血圧 120/60mmHg、脈拍 89/min。
明らかなシックコンタクトはなし。家族は、奥さんと子どもの3人暮らし。ペットは犬1匹。築12年の木造住宅に居住。海外旅行や温泉旅行なし。
聴診音:右下肺野背側で聴いた音
ココを聴こう!
1秒、3秒~4秒、5秒~6秒:「プツプツ、パチパチ」という音
図3捻髪音が聴こえた位置
目指せ! エキスパートナース副雑音の変化から病態の進行度を考えてみよう
呼吸器科において、画像検査はとても重要で、疾患の鑑別にも役立ちます。症例②は、画像所見を見ると、軽度の肺炎/気管支肺炎と診断することができます。
これに対し、聴診でも疾患の進行度をみることができます。症例②は、捻髪音が聴こえるため、肺炎の初期段階は過ぎ、数日経過しているということが予想できます。
これは、肺炎患者さんの副雑音が、病態の進行に合わせて、「全吸気水泡音」→「早期~中期水泡音」→「捻髪音」の順番に変化するという特徴から判断しています(1)。
- 肺炎(市中肺炎)の疾患解説
- ⇒『聴診スキル講座』の【総目次】を見る
*聴診音は、筆者が実際の症例で収録したものです。そのため、一部で雑音も入っています。
[文 献]
- (1)日本呼吸器学会市中肺炎診療ガイドライン作成委員会編. 「呼吸器感染症に関するガイドライン」 成人市中肺炎診療ガイドライン. 2007.
[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授
[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授
Illustration:田中博志
協力:株式会社JVCケンウッド