痛み・かゆみ|感覚
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、痛み・かゆみについて解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 自由神経終末がさまざまな化学物質で刺激されることにより痛みは発生する。
- 自由神経終末の膜にあるイオンチャネルや受容体がそれらの化学物質で脱分極されて活動電位を発生し、それが脳に伝わって痛みと感じる。
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脳は刺激に対する感受性に優先順位があり、かゆみは痛覚や冷覚の刺激よりも順位が低い。かゆい場所の周囲の皮膚をつまんだり、冷やしたりするとかゆみが和らぐのはそのためである。
痛みの発生原因
痛みを起こすのは表1のような物質が神経を刺激するからである。
狭心症の痛み
心筋が虚血になり心筋細胞が破壊されると細胞内に豊富なK+が細胞外に流出する。心筋細胞にはATP感受性K+チャネルがあり、正常な状態で心筋細胞内ATPがつくられている場合はこのATP感受性K+チャネルは閉じているが、虚血になり酸素が不足してATPが低下するとこのチャネルが開いてK+が流出する。それが狭心症の痛みになる。
かゆみ
かゆみ itch も痛みと並んで苦痛な感覚である。かゆみの受容体は表皮と真皮の接合部にある。そこがヒスタミンなどで刺激されるとC(ロイドLloydの分類でⅣ、『感覚の種類』表2参照、)線維終末が脱分極し、活動電位が脊髄、視床、大脳皮質に達してかゆみを感じる。かゆみは痛みや冷覚などより優先順位が低い感覚なので、痛みや冷却刺激でかゆみの感覚をなくすことができる。
肝硬変、腎不全、膀胱がんなどの内臓病変で皮膚にかゆみを感じることがあり、それをデルマドローム dermadrome という。これらの病変に対抗するために放出される内因性モルヒネ様物質β-エンドルフィンβ-endorphin がかゆみを伝える神経にも作用するからである。長く続くかゆみは重大な病気のシグナルということもあるので注意が必要である。derm および drom はそれぞれギリシャ語で「皮膚」および「走る」の意味である。
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心筋細胞にあり狭心症の痛みを感じさせるATP感受性K+チャネルが膵臓のランゲルハンス島B細胞にもある。食後に血糖値が上昇するとランゲルハンス島B細胞にあるグルコース・トランスポーターGLUT2(『解糖系と糖新生』表2参照、)により血中グルコースが細胞内に取り込まれる。その結果、細胞内のATP濃度が上昇してATP感受性K+チャネルが閉じると、K+が細胞外に出ないので膜電位は脱分極し、電位依存性Ca2+チャネルが開いて細胞外Ca2+が流入する。このCa2+がインスリンを分泌させる。
経口糖尿病薬のスルホニル尿素剤(SU剤)は、このATP感受性K+チャネルを閉じてインスリン分泌を促進させる(『膵臓ホルモン』図1参照)。ここで注意しなければならないのが、糖尿病でかつ狭心症をもっている場合のSU剤の使用である。SU剤でATP感受性K+チャネルを閉じてインスリン分泌が起こるのはよいが、心筋ではK+が出ないので狭心症の痛みを感じない。痛みを感じないうちに病状が進行することがある。これを無症候性心筋虚血 silent myocardial ischemia とよぶ(『糖尿病』参照)。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版