精巣ホルモン|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、精巣ホルモンについて解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
精巣ホルモンとは
精巣ホルモンはアンドロゲン androgen と総称される。
そのなかで90%以上を占め、アンドロゲンの代名詞でもあるのがテストステロン testosterone である。精巣 testis の間質細胞 interstitialcell (Leidig cell)にLHが作用するとテストステロンの合成および分泌が促進される。
なお、FSHの受容体は、精巣のセルトリ細胞 Sertoli cell にあり、FSHの刺激で精子の形成を促進する。
このようにLHやFSHは、卵巣だけでなく、精巣にも作用するので、それぞれ黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンという名称でなく性腺刺激ホルモンとよぶほうが適当である(『下垂体前葉ホルモン』参照)。
テストステロンの生合成
テストステロンなどの性腺ステロイドはコレステロールから生合成される。
NursingEyeテストステロンからエストラジオールの生合成
図2から分かるようにテストステロンの一部が芳香族化(ベンゼン環形成)されると女性ホルモンであるエストラジオールになる。この反応は、芳香化酵素(アロマターゼ aromataze)の存在下に進む。
エストラジオールは乳がん breast cancer の発生および増殖を助長するが、閉経 menopause 後も乳がんにかかることが多い。これは副腎皮質から分泌されるアンドロゲン(テストステロン)が副腎、脂肪組織、卵巣などに存在するアロマターゼの働きでエストラジオールになるためである。
したがって、乳がん発生を予防するためにファドロゾール fadrozole などのアロマターゼ阻害薬が使われる。
男性でもアロマターゼが存在するのでアンドロゲンからエストラジオールが合成される。その結果、高齢の男女を比較するとむしろ男性のほうが女性ホルモンが多いという意外な結果がみられる。
エストラジオールはアルツハイマー型認知症 dementia of Alzheimer type に対して抑制効果があるので、アルツハイマー型認知症が男性よりも女性のほうが多いことの原因の1つとして、このテストステロンから合成されるエストラジオールが考えられる。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版