ペースメーカーの観察

看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

[前回の内容]

ペースメーカーの心電図

 

今回は、ペースメーカーの観察について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

ペースメーカー手術手技に関連する観察

ペースメーカー手術手技に関連する観察としては、手技に伴う合併症の発生に注意しましょう。

 

体外式にしても植込み型にしても、体外から侵襲的にリードを挿入して、植込み型ではさらに、ジェネレーターを皮下に埋め込みます。

 

穿刺部、縫合部の出血、内出血、感染はよく観察しましょう。またリードが血管内にありますので、リード感染による敗血症、発熱にも注意が必要です。

 

手術中に血管損傷や、心筋損傷をきたすと、縦隔内や心嚢内に出血し、胸背部痛、血圧低下をきたすことがありますので、バイタルサインにも気をつけましょう。

 

穿刺によって、肺損傷があると気胸や血胸によって、胸背部痛や呼吸状態の悪化が出現します。酸素飽和度にも気をつかいましょう。

 

手術全体の1%程度ですが、病棟に帰室してから出現することがあり、注意してください。

 

ペースメーカー機能の観察

次にペースメーカー機能の観察について紹介します。

 

心臓のポンプ機能は心室が担当していますよね。ですからペースメーカーも心室でのペーシングが重要です。DDDペースメーカーは主に植込み型で、調整が複雑なので、ここでは、基本のVVIモードに絞って解説します。

 

ペーシングの観察

まず、設定心拍数(周期)を確認します。たとえば設定心拍数が60回/分であれば、自己心拍がなければ1分間に60回、1秒周期でペーシングをするという設定です。

 

まず、ジェネレーターからの電気刺激が設定どおり出ているか観察しましょう。電気刺激はスパイクとして心電図に現れます。スパイクが設定周期どおりに心電図に見られれば、ジェネレーターは問題ありません。

 

次にスパイクに引き続いてQRS波が見られるかをチェックします。設定周期どおりスパイク-QRS波が確認できれば心室ペーシングは問題ありません。

 

刺激の強さや誘導によっては、スパイクが小さくて見えない場合があります。見えなくても設定心拍数どおりに、規則正しく幅広いQRS波が見られていれば、ペーシングは問題ありません(図1)。

 

図1設定心拍数(周期)の心電図

設定心拍数(周期)の心電図

 

図2の心電図を見ましょう。

 

図2ペーシング不全の心電図

ペーシング不全の心電図

 

75回/分、0.8秒周期でスパイクが見られますが、QRS波がありませんね。ときどき見られる幅広QRS波は、スパイクと無関係で補充調律による自己心拍です。刺激はされていますが、心室が興奮していない状態でペーシング不全といいます。

 

スパイクすら見られない場合もありますが、いずれにしてもペーシングしているのに心室がペーシングされない状態がペーシング不全です。

 

スパイクもQRS波も見られない場合では、体外式の場合はリードとジェネレーターの接続をまず確認し、問題なければリード先端の位置を確認して、心室筋との接触が適正かどうかをチェックします。

 

また、スパイクはあるが、QRS波が見られない場合では、リードの接触を確認し、適正ならば、刺激の強さが足りないので、出力(アウトプット)を大きくして、強い刺激でペーシングします。

 

感知:センシングの観察

心室の自己心拍を感知して、設定の反応“抑制”が行われますね。

 

しかし、抑制はジェネレーター内の仕事ですから、調整はできません。観察すべきは“感知;センシング”がキチンと行われているかという点です。なぜなら、感知が不良だと、抑制もできないからです。

 

つまり、観察項目は、ペーシングとセンシングが適正に行われているかどうかです。これは、モニター心電図または標準12誘導心電図で確認します。

 

自己心拍のQRS波を正常に感知すれば、その時点でペースメーカーの周期がリセットされて、設定時間内はペーシングしないという抑制(I)が行われます。

 

図3の心電図を見ましょう。

 

図3抑制(I)された心電図

抑制(I)された心電図

 

5~7拍目のQRS波は、スパイクに引き続いて幅広QRS波ですから、心室ペーシングです。スパイク-スパイク間隔は20コマ(0.8秒)ですから、75回/分に設定されています。最初に戻ると、1拍目はペーシングですが、2拍目は幅が狭く、スパイクも先行していませんので、自己心拍のQRS波です。この自己QRS波からちょうど20コマ、0.8秒後にスパイクが出現してペーシングQRS波がありますね。

 

これは、ペーシング後、設定周期の0.8秒以内に自己心拍が出現したため、それを感知して、周期をリセットし、感知から0.8秒の間に自己心拍がなかったためペーシングされたのです。これが抑制(I)です。4拍目も自己心拍で、正常に感知され0.8秒後に心室ペーシングされています。

 

これに対して、図4の心電図では、自己心拍が出現しているにもかかわらず周期がリセットされず、スパイクが出現していますね。

 

図4アンダーセンシング状態の心電図

 

これは自己QRS波を感知していないために起こる現象でアンダーセンシングという感知不全です。感度が鈍いためにQRS波を認識できない状態ですから、感度を上げて(鋭くして)、もう少し小さい電位を認識できるように調整します。

 

これとは逆にT波やノイズなど、QRS波以外の電位を感知してしまう場合をオーバーセンシングといいます。

 

図5の心電図では、設定周期が1秒であるはずなのに、自己QRS波の後ペーシングスパイクが出現するまでに1秒以上かかっていますね。

 

図5オーバーセンシング状態の心電図

オーバーセンシング状態の心電図

 

これは、本来QRS波のみ感知するはずが、電位の低いT波までも感知してしまい、そのT波をQRS波と間違って認識して、その時点で周期をリセットしているために起こる現象です。感度を下げて(鈍くして)、より大きい電位のみを認識するように調整します。

 

VVIモードのペースメーカーをモニター心電図で観察すべき点

  • 設定心拍数よりも自己心拍数が多ければ(設定周期より短い周期で自己心拍が出ていれば)、ペースメーカーは抑制されて作動しないので、心室ペーシングの波形が出ないはず。
  • 設定心拍数を下回っても(設定周期より長く)QRS波が出なければ、ペーシング不全。~リードの接続、位置を確認して出力を上げる。
  • 自己QRS波を感知しないのがアンダーセンシング~感度を上げる(小さい電位でも認識できるようにする)。
  • 自己QRS波以外のものまで感知するのがオーバーセンシング~感度を下げる(小さい電位は感知しないようにする)。

 

日常生活指導

体外式の場合は、病状によってはジェネレーターを携帯してトイレ歩行程度が許可されることもありますが、ペースメーカーが必要なくなるか、ペースメーカー植込みを行うまでは、活動範囲は限定されます。

 

植込み型ペースメーカーの場合、縫合部、リード位置、ペースメーカーの動作確認などで、通常は1週間程度の入院が必要です。

 

手術後の指導として

  • 退院後も、リードが完全に心筋に固定されるまでは1~3か月かかりますから、その間は激しい運動とくに、植込みを行った側の腕を高く上げるような動作は行わないように指導します。
  • 退院後、外来受診までは、縫合部、植込み部の感染、内出血などのトラブルが起こる場合があることを説明し、異常を感じた場合は受診するように指導します。

 

ペースメーカーの指導として

  • 永久ペースメーカーを植込んだ場合は、ジェネレーターやリードの種類、設定などの情報が記載されたペースメーカー手帳が発行されるので、常に携行し、とくに医療機関を受診する際は提示するように指導します。
  • ペースメーカーは強い電磁波で誤作動を起こすことがあり、細かいことはペースメーカー手帳と一緒に渡される「ペースメーカーのしおり」に記載がありますので、一緒に読みながら指導するとよいでしょう。
  • とくにMRIと高圧電線の下は強い電磁波を発生することをよく説明してください。
  • トラブルがあればもちろん、トラブルがなくても、定期的なペースメーカーチェックが必要です。電池の残量、リード抵抗、閾値、作動状況などを体外からチェックしますので、必ず受けるように指導してください。チェックの間隔は医療機関によって違いますが、3~6か月ごとが多いようです。

 

⇒〔モニター心電図なんて恐くない〕記事一覧を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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