特殊な幅広QRS波の頻拍|不整脈の心電図(12)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、特殊な幅広QRS波の頻拍について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回の内容]
〈目次〉
torsades de pointes(トルサード・ド・ポアンツ):TdP
心室頻拍ではありますが、QRS波の極性が上下に捻じれるように変わる特殊な心室頻拍です(図1)。
“トルサード”とは、捻じれる、“ポアンツ”は軸の意味で、読んで字のごとくです。このようにQRS波形が単一の形ではない心室頻拍を多形性心室頻拍といいますが、その代表格です。特徴は、後述するQT間隔延長をベースにしていて、発生・停止を繰り返します。心室細動に至る場合があり、危険な不整脈です。
トルサード・ド・ポアンツの対応
通常の心室頻拍に準じますが、発生・停止を繰り返しますので、除細動は効果がありません。背景にあるQT延長を改善させるのはもちろんですが、マグネシウム製剤の投与、人工ペースメーカーを挿入して意図的に基本心拍を増加させるという方法を用います。
まとめ
- QT間隔延長を背景に、軸が捻じれるような多形性心室頻拍がトルサード・ド・ポアンツ
- 徐細動は効果なく、QT延長の改善、マグネシウム製剤、ペーシングで治療
偽性心室頻拍(pseudoVT)
図2の心電図を解読してみましょう。
P波はあって上向き、PP間隔は洞不整脈で多少変動はありますが洞調律と考えてよいでしょう。V4、V5で見るとはっきりしますが、PQ間隔は3コマ程度でP波に連続してデルタ波(→)が見られます。そうです、これはWPW症候群です。
図3は、このWPW症候群の患者さんが動悸を訴えて来院されたときの心電図です。幅の広いQRS波が短い間隔で繰り返されていて心室頻拍のようです。
しかし、
・QRS幅と形が各心拍で多少違う
・RR間隔が不定
以上の2点が心室頻拍とは違っています。
これは、WPW症候群が心房細動となったもので偽性心室頻拍といいます。WPW症候群は、心房心室間に通常の房室結節-ヒス束以外に、ケント束という異常伝導路をもつものです。ケント束は、①伝導速度が速い、②不応期が短い、③逆伝導があるという点が特徴です。
「①伝導速度が速い」という性質で、房室結節を通る通常のルートよりも、心房興奮がケント束を通って速く心室に届くのでデルタ波がつくられます。このデルタ波の大きさは、房室結節を通って心室に入る成分と、ケント束から心室に入る成分の比で決まります。
たとえば、すべての心房興奮がケント束から心室に入れば、ケント束の心室端から発生した期外収縮と同じ形になり、QRS幅は最大に広くなります。
逆にケント束を全く通らず、すべての心房興奮が房室結節-ヒス束を通れば、正常の狭いQRS波でデルタ波は見られませんね。房室結節-ヒス束を通る成分が多く、ケント束を通る成分がわずかであればデルタ波は小さくなりますね(図4)。
WPW症候群でケント束をもつ人が、心房細動になるとどうなるでしょうか。
心房細動では、心房内で高頻度の興奮が不規則に発生します。ケント束がなければ、細動波(f波)とともに、幅の狭いQRS波が不規則な間隔で出現するという特徴があります。
ところがケント束があると、「②不応期が短い」という性質からより多くの心房興奮を高頻度に心室に伝導します。房室結節が不応期で心室に伝導できないタイミングでは、すべての成分がケント束から心室に伝導しますから、QRS波の幅は最大になります。
しかし、タイミングによっては、ケント束が不応期で房室結節が不応期を脱していて、すべての興奮成分が房室結節からヒス束・心室に伝導し、デルタ波のない狭いQRS波になります。
当然その間の形、つまりある程度の成分が房室結節から、残りがケント束から心室に伝導すれば、両者の間の形・幅のQRS波になります。
もう一度、図3の心電図を見てみましょう。
まずRR間隔が不定ですね。これは心房細動が不規則に心房興奮を生じているためです。
次にQRS波は幅の狭いものから、広いものまでさまざまですね。最大幅のものはすべての心房興奮成分がケント束から心室へ伝導したQRS波、幅の狭いものは、ケント束が不応期で、すべての心房興奮成分が房室結節から心室に伝導したものです。
その間の幅、形は、心房興奮がケント束、房室結節いずれのルートも通っていて、その割合によって幅が違っています。RR間隔は通常の心房細動よりも短くなるので、f波ははっきりしないことが多くなります。
偽性心室頻拍の対応
原則的には電気的除細動を行って心房細動を停止させます。
房室結節を抑制するような薬剤(ジギタリス製剤、ベラパミル、β遮断薬)は、ケント束には効果がありません。偽性心室頻拍にこれらの薬剤を投与すると、ケント束を通る成分が増えて、逆に心拍数が上昇して、状態を悪化させるので禁忌です。
アクティブ心臓病院の看護部に例えるとどうなっているでしょう。
正常では、心房管理室から心室病棟に命令を伝えるのは、房室結節副総師長・ヒス束病棟師長の接合部コンビのみですが、WPWではケントさんという特命看護師が、心房管理室からの命令を直接心室病棟スタッフに申し送ってしまいます。ジャマ者ですね。房室結節副総師長に比べて、命令伝達速度が速い・休み時間が少ない(不応期が短い)・心室病棟からの意見も心房管理室に伝える(逆伝導がある)という特徴があります。
このジャマ者は、洞結節総師長調律であれば、心室スタッフに早めに命令を伝えデルタ波をつくるだけでそれほど悪影響はありません。心房管理室が暴動を起こして心房細動になると、高頻度の命令がランダムに出されます。
正常なら房室結節副総師長が適当に命令をブロックしてくれますから、心室病棟の負担はある程度軽くなります。しかしケントさんは無用に働き者です。たくさんの命令を心室病棟に伝達し、心室病棟の業務が多くなってしまいます。
心室業務時間・形態は、ヒス束病棟師長経由の通常ルートとケントさん経由の両方からの命令の割合で決まり、業務ごとに変わります(各心拍でQRS波の幅・形が違う)。
この状態で、房室結節副総師長をさらに抑える薬剤(ジギタリス製剤、ベラパミル、β遮断薬)は、ケントさんの暴走をさらに助長してしまうので禁忌です。とりあえず、ショック療法で心房管理室の暴動を治めましょう。
まとめ
- RR間隔が不定、QRS波の幅・形が不定の幅広QRS波の頻拍は、偽性心室頻拍(WPW+心房細動)を考える
- 電気的除細動が原則。房室結節を抑制する薬剤は禁忌
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版