実は多機能、細胞膜|細胞ってなんだ(2)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、細胞についてのお話の2回目です。
[前回の内容]
生物はすべて細胞からできている|細胞ってなんだ(1)
細胞の世界を冒険中のナスカ。からだの中には200種類もの細胞があることを知りました。
今回は、細胞を包む細胞膜のナゾに迫ります。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
実は多機能、細胞膜
細胞の「中」と「外」を仕切っているのは、細胞膜とよばれる薄い膜です。その厚さは10nm(ナノメートル)以下、言い換えると1mmの100,000分の1。生命活動に必要な物質はすべて、この膜を通して細胞の中へと入り、不要な物質はこの膜を通して細胞の外へと出ていきます。
それにしても、細胞膜ってすごく薄いんですね
でもね、こんなに薄くても、その機能はすごいのよ。ミクロの目でグッと近づくと、そのすごさがわかるんだけどなー
ミクロの目?
・・・・ミクロの世界へ・・・・
あれっ、私たちは、どこにいるんですか
身体の中。間質液に浮かんでいるの
間質液?
細胞と細胞の間にあるクッションのような液体とでもいえばいいかな。別名、組織液ともいうわね。間質液と血液に含まれる液体成分を合わせて、生理学では細胞外液とよんでいます
海水と体液の電解質濃度
細胞外液は、海水にきわめて近い性質をもっています。おもな成分は、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)です。後で詳しく説明しますが、身体が正常に機能するためには、この電解質のバランスを崩さないよう、注意しなくてはなりません。
細胞の外にある液体と、細胞の中にある液体との大きな違いは、ナトリウムとカリウムの比率にあります。細胞外液はナトリウムが多く、細胞内液にはカリウムが多く含まれています。これは、物質の輸送に深く関係しています。
先生、なんだかいろいろ膜の外に飛び出していますよ
ああ、あれは糖鎖ね
じゃあ……、あっちの大きいのは?
ミクロの視点で細胞膜を眺めると、薄っぺらの膜だったものが、厚みのある絨毯のように見えて驚くかも知れません。それは、2重になったリン脂質の層でできていて、あちらこちらにモザイクのようにタンパク質の分子を含んでいます(図2)。枝状に見えるのは、タンパク質にくっついた糖鎖です。
リン脂質は分子の中に、水になじみやすい部分と、水になじみにくい部分の両方をもっているの。だから、水の中に入れると、水になじみにくい部分は内側に入ろうとして2重になるのよね(図3)
ふーん。ただの薄っぺらな膜かと思ったら、けっこう複雑にできているんですね。それにしても、いったいどうやって、この膜を通り抜けたらいいんですか
その質問を待っていたの。ちょっとまわりくどくなるけど、説明するわね
受動輸送と能動輸送
細胞の外と内との間で分子が移動する際には、大きく分けて2つの方法があります。1つは受動輸送、もう1つは能動輸送です。
受動輸送は、川の水が上流から下流に流れるように、無理なく自然な力によるものです。これに対して、能動輸送は井戸の水をポンプでくみ上げるように、エネルギーを必要とします。「えいやっ」と力を込める感じでしょうか。
受動とか能動とか、難しくてよくわかりません
そんなことないのよ。たとえば、フィルターにコーヒーの粉を入れて、お湯を注ぐとコーヒーができるわよね。あれも受動輸送の一種なの
いわゆる、ろ過ですよね
そうそう。ついでにもう1つ。コーヒーの中に砂糖を入れるでしょう、放っておくと砂糖が溶けて、コーヒー全体が甘くなるわよね
えーと、それは拡散だ
よくわかっているじゃない。拡散も、受動輸送の一種なのよ(図4)
じゃあいったい、能動輸送って何ですか
あせらない、あせらない
通すものを「えり好み」する細胞膜
溶液中の成分のなかで、特定の成分だけを通す性質を半透性といい、半透性をもつ膜のことを半透膜とよびます。細胞膜は半透膜の一種ですが、物質の種類によって透過性が異なります(図5)。これを選択的透過性といいます。
細胞膜のように、選択的透過性を示す膜を通して起こる拡散は単純拡散、あるいは透析とよばれます。このような方法で分子が細胞膜を通り抜けられるのは、分子がごくごく小さな場合、もしくは、膜の脂質部分に分子が溶け込むことのできる場合にかぎります。
ふーん。細胞膜を通り抜けられるのはごくごく小さな分子か、脂質に溶け込める分子だけなんだ。でも先生、よく見ると水もずいぶん、移動しているみたいですけど
水の拡散は専門用語で浸透というの。浸透圧って聞いたことない?
あります、水を引き込む力って習いました
細胞膜のような膜を挟んで両側に濃度の違う液体があると、濃度を均一にしようとして、濃度の薄いほうから濃いほうへ水が移動するの。これが浸透(図6)。浸透圧は濃度が高いほど大きく、それだけたくさんの水を引きつける力があることを意味しています
なるほど、そういうことだったんだ
ここまでは、エネルギーもいらず、自然な力で物質は移動していきます。じゃあ、今度は細胞の中に入ってみましょう。能動輸送を説明するわね
コラム等張液、高張液、低張液とは
半透膜によって隔てられた2つの溶液の間に浸透圧が等しい溶液を等張液といいます。とくに細胞内液や血漿、涙液などの体液と浸透圧が等しい溶液のことです。輸液や注射剤、点眼薬は等張液です。ちなみに生理食塩液は0.9%、グルコース液は5%が等張液です。一方、体液より浸透圧の高い液を高張液、低い液を低張液とよびます。
生体内で浸透圧が生じるとどうなるかを、赤血球の例に説明しましょう。高張液の中では、赤血球から水分が出てしまい、しぼみます。そして、その機能を失ってしまいます。低張液の中では、赤血球内に水分がどんどん入り膨らみ、最後には破裂してしまいます。
塩で漬物ができるのも、野菜の周囲の濃い塩水によって野菜の中の水が引っ張られるからです。
・・・・細胞の中へ・・・・
うわっ、こっちはカリウムイオンがいっぱい
細胞外液とは、ずいぶん様子が違うわね
あっ、膜の中に付着していたタンパク質がナトリウムイオンをつかんで、膜の外へと吐き出しています
見ていて、今度は外からカリウムイオンが入り込んでくるわよ
ほんとだ
ナトリウム-カリウムポンプ
先ほど、細胞の中にはカリウムイオンが多く、細胞の外にはナトリウムイオンが多いと説明しました。濃度勾配に従えば、ナトリウムイオンは細胞の中へと入ろうとしますし、カリウムイオンは細胞の外へ出ようとします。
ところが、正常な細胞ではこうした自然の流れに逆らって物質が動きます。というのも、自然な流れに任せていたら、細胞の中と外の電解質バランスがたちまち崩れてしまうからです。
エネルギー(ATP)を使い膜の中から外、外から中へと物質を運ぶのが能動輸送です。能動輸送に関係しているのは、細胞膜に付着している一部のタンパク質です。この種のタンパク質は溶質ポンプ、または、ナトリウム‐カリウムポンプとよばれます(図9)。井戸から水をくみ上げるがごとく、ナトリウムイオンやカリウムイオンを「えいやっ」と運ぶわけですね。
細胞膜にくっついているタンパク質には、栄養物質を運ぶ通路のような役割をするものや、物質を分解する酵素として働くものもあります。また、ホルモンなどさまざまな化学物質の受容体にもなるのよ
受容体?
受容体というのは、特定の化学物質だけを受け止めて、その情報を細胞の中へと伝える役割を果たすの。レセプターともいうわね
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版