生物はすべて細胞からできている|細胞ってなんだ(1)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、細胞についてのお話の1回目です。
[前回の内容]
生命誕生の起源
解剖生理学の面白さを知るため、身体を探る旅に出たナスカ。生命誕生のカギが水であることを知りました。
今回は、いよいよ細胞の世界を探検することに・・・。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
私たちの身体の60%が水分で、水分が命の源だということはわかりましたけど、そんなにたくさんの水分、身体のいったいどこにあるんだろう?
だいたい3分の2が細胞の中、残りは細胞の外にあるの
それもなんだか、イメージわかないんですよね
そうだ、今度はミクロの冒険をしてみましょうか
ミクロの冒険?
細胞の中を泳いでみるの
生物はすべて細胞からできている
最初に細胞を発見したのは、イギリスの物理学者であり生物学者でもあったロバート・フック(RobertHooke、1635~1703)です。彼はある日、コルクがなぜ水に浮くのかを調べるため、顕微鏡を使ってコルクの断面を調べていました。すると、その中に無数の隙間を見つけます。1665年のことでした。
このときフックが見たものは、死んだ植物細胞の細胞壁に囲まれてできた空間でした。しかし、それが単なる隙間ではなく生命の基本単位だとわかったのは、フックの発見からずっと後、19世紀に入ってからのことです。
生物の構造と機能の基本単位は細胞である―。これを最初に唱えたのは、ドイツの生物学者マティアス・ヤコブ・シュライデン(MatthlasJakobSchlelden、1804~1881)とテオドール・シュワン(TheodorSchwann、1810~1882)でした。1838年、植物の発生過程を研究していたシュライデンがまず、「植物の基本単位は細胞である」と発表。翌年、シュワンがシュライデンの説は動物にも当てはまることを確認しました。
1個の細胞が分裂を繰り返しながら増殖し、その集合体が個体を作り出しているという考え方は、現在では高校の教科書にも載っている基本中の基本です。シュライデンとシュワンが発見したこの考え方を世界に広めたのは、ドイツの医学者ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョウ(RudolfLudwigKarlVirchow、1821~1902)でした。ウィルヒョウは「すべての細胞は細胞から生まれる」という有名な言葉を残しています。
たった1個の細胞から身体がつくられるなんて、考えてみると不思議ですよね
現在では常識といわれていることも、発見した当時は「まさか」と思われたでしょうね。科学の世界はいつも、そんな発見の繰り返しなのよ。ところで、私たちの身体ももちろん細胞でできているけど、いったいどれくらいの数の細胞からできているか、わかる?
それなら答えられます。成人の場合は、だいたい60兆個でしたよね?
よく覚えていました。じゃあ、ついでに聞くわね。私たちの身体の中にある細胞って、何種類くらいあると思う?
えーっ、そこまでは覚えていませんよー
なんと、200種類あるの
そんなに!
ユニークな細胞
身体を構成する細胞はおよそ200種類。小さなものは直径数μm(マイクロメートル)から、大きくなると直径200μm(0.2mm)までと、大きさも形も、さまざまです(図3)。
大きさや形はまちまちでも、基本構造は同じ。どれも、遺伝子をもった核と細胞質、細胞膜からできています(図4、図5)。ただし、赤血球の細胞は例外で、核を持っていません。もともと核がないわけではなく、脱核といって、細胞が成熟していく過程で核を失ってしまうのです。
先端に核を含み、後ろには運動するための鞭毛(べんもう)が付いているのは精子細胞。運動機能をもった珍しい細胞です。平滑筋細胞は、左右の端が尖って細く伸びた格好で、いかにも伸び縮みしやすそう。貯蔵庫のような働きをする脂肪細胞は、核が端のほうに追いやられ、なんだか窮屈そうです。
赤血球はどうして、核を失ったんですか
小さくなるためよ。同じ体積でも小さくてたくさんあるほうが、大きい赤血球より表面積が増えて、たくさんの酸素を運べます。それに小さいと毛細血管の中も通れるわね
じゃあ、精子細胞が先端に核を抱えて運動するのも……
おそらく、遺伝という役割に特化するためでしょうね
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版