下部消化管内視鏡検査|消化器系の検査
看護師のための検査本『看護に生かす検査マニュアル』より。
今回は、下部消化管内視鏡検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 下部消化管内視鏡検査とはどんな検査か
- 下部消化管内視鏡検査の目的
- 下部消化管内視鏡検査の実際
- 下部消化管内視鏡検査前後の看護の手順
- ・下部消化管内視鏡検査に関する患者への説明
- ・下部消化管内視鏡検査に準備するもの
- ・下部消化管内視鏡検査後の管理
- 下部消化管内視鏡検査において注意すべきこと
- 下部消化管内視鏡検査現場での患者との問答例
下部消化管内視鏡検査とはどんな検査か
下部消化管内視鏡検査とは、内視鏡を肛門から挿入し回盲部まで進め、大腸内の粘膜の観察を行う検査である。近年、大腸疾患は増加しており、この検査の役割は重要なものとなっている。
大腸全域を観察することが多いが、その他にS状結腸までの観察を行うシグモイドスコピーも行われる。
内視鏡での肉眼的観察のため前処置が非常に重要であり、大腸内を便のない状態にしておくことが必要である。また、患者の苦痛や負担が大きいため、あらかじめ検査の目的と方法を説明し同意を得ることが大切である。
下部消化管内視鏡検査の目的
大腸粘膜の観察を肉眼的に行う。また炎症や潰瘍・憩室・ポリープ・癌などの診断を行うことが可能であり、必要時生検を行い、診断を確定する。
適応の疾患は表1を参照。
大腸ポリープの場合は内視鏡での切除が可能であるが、消化管穿孔や巨大結腸症・重症大腸炎の場合は禁忌とされている。
下部消化管内視鏡検査の実際
- ①患者に左側臥位の体位をとらせ、上半身には術衣を着せる。下半身はディスポーザブルのパンツ(殿部が開くもの)を着用させる(図1)。
- ②医師の指示により鎮静剤を投与する。
- ③患者に口で息をするように説明しながら、肛門から内視鏡を挿入し大腸粘膜の観察を行う。
- ④観察部位により左側臥位や仰臥位など体位の変換を行うため、患者に声をかけ協力してもらう(必要時介助する)。途中、観察のため空気の注入をする。観察が終了した部位ではその都度脱気を行う。空気の注入時には腹部膨満感やひきつる感じがないか声をかける。
- ⑤回盲部までの観察が終了したら、静かに内視鏡を抜去する。抜去の際も必要に応じ体位変換を行うよう声をかけ介助する。
- ⑥検査が終了したことを患者に伝え、衣類を整える。
下部消化管内視鏡検査前後の看護の手順
下部消化管内視鏡検査に関する患者への説明
- 肛門から大腸に内視鏡を挿入し、大腸の粘膜を肉眼的に観察する検査である。
- 途中内視鏡を進めるための体位の変換や観察のための空気の注入を行う。
- 身体の力を抜いてリラックスする。
下部消化管内視鏡検査に準備するもの
・大腸ファイバースコープと付属品・必要時鎮静剤 ・アルコール綿 ・ガーゼ ・ホルマリン入り容器 ・術衣 ・ディスポーザブルパンツ
下部消化管内視鏡検査後の管理
1)前日
- 夜9時に必要時下剤(プルゼニド2錠)を内服させる。以降禁食とするが、水分(水・お茶などのみで牛乳・粒入りのものは禁ずる)は摂取してもよい。
- 検査の目的と方法を説明し、同意を得るとともに不安の除去に努める。
2)検査前
- 検査当日の朝7時頃より腸管洗浄のため腸管洗浄液を内服させる。3時間ほどで排便が終わること、便の状態を看護師に見せることを説明する。
- カスが残っている状態の場合は医師に報告し、必要時浣腸などを行う。
- 感染症の有無・既往歴を確認する。
- 内服薬の有無を確認する。
- バイタルサインの測定を行う。
- 必要時、血管確保し、点滴を滴下する。
- ポリープ切除の場合は血管確保し、止血薬入りの点滴を滴下する。
3)検査中
- 内視鏡挿入時は患者の手を握るなどして苦痛の緩和に努める。また、口で息をするように声をかける。
- 検査の進行に合わせ、患者の体位を整えるよう介助する。
4)検査後
- 安静:1〜2時間は安静とする。大腸ポリープの切除を行った場合は、安静解除後も入浴は避ける。
- 食事:観察のみの場合は水分・食事とも摂取可能である。大腸ポリープの切除を行った場合は水分のみ1時間後から開始し、食事は医師の指示を確認し夕食以降から開始する。
- 観察:観察のみの場合は終了後、ポリープ切除の場合は終了時と1時間後にバイタルサインの測定と腹部症状の有無を観察する。また検査後の最初の排便時は便の状態を観察する。
- 検査中に出血を認めた場合は止血を確認し、検査後のバイタルサインや腹部症状の有無、排便の性状に十分注意する。
- 検査直後の車・バイクなどの運転は禁止する。
下部消化管内視鏡検査において注意すべきこと
- 高血圧・心疾患などの内服薬は医師の指示に従い、内服する。
- ポリープを切除する患者の場合、ワーファリンなどの抗凝固薬の内服は医師の指示に従う。
- 苦痛を伴う検査であるため、常に声をかけながら行うよう努める
下部消化管内視鏡検査現場での患者との問答例
明日は下部消化管内視鏡検査を行います。
どんな検査ですか。
肛門からカメラを入れて大腸粘膜を観察する検査です。
苦しいですか。
カメラが通りやすいように体の向きを変えてもらうことがあります。検査中も看護師がついていますので、つらい時はすぐに伝えてください。
何か準備をしておくことはありますか。
今日の夜9時と明日の朝7時に下剤を飲んでいただきます。腸に便が残っていないようにするためです。明日は検査が終わるまでは食べたり飲んだりしないでください。
はい。
コラム事前の説明は本当に細かいところまで必要
下部消化管内視鏡検査の場合、前日は消化のよいものを食べるように指導しています。入院中はお粥と腸に残りにくい食事を摂ります。
以前、入院中の患者さんに、「前日はお粥が出ます。おかずも病院で出るもの以外は食べないでくださいね」と説明しておき、患者さんも「その通りにしましたよ」と言ったのに、当日下剤をかけてもなかなかきれいにならず、苦労したことがあります。
「思い出してみてください。何か、ほかのものを食べましたか」と確認すると、
「おかずはダメって言われたから食べなかったわ。ご飯も病院のお粥よ。でも……そういえば、お粥が味気なかったから、ゴマ塩をいっぱいふりかけたわ」と答えられました。
腸内はそのゴマでまっ黒で、何度も浣腸をしなければなりませんでした。
細かいところまで説明しなければいけないと思った事例でした。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版