肛門鏡検査|消化器系の検査

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、肛門鏡検査について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

肛門鏡検査とはどんな検査か

肛門から約3cmの部分が肛門管であり、移行部を経て直腸につながる。移行部以下を解剖学的肛門管、移行部も含めると外科的肛門管と呼ぶ。

 

肛門から短い筒型の金属管を挿入し、管を抜きながら筒の中をのぞきこむことで、通常は肛門括約筋により締まっている肛門内の様子を肉眼的に観察することが可能となる。

 

肛門鏡検査の目的

肛門管および直腸下端部を観察するために作成された硬性鏡で、痔痔瘻、肛門周囲膿瘍、肛門裂孔、肛門癌などの肛門疾患の診断や処置を行う。

 

肛門鏡検査の実際

肛門鏡検査の体位

①シムス位、②膝胸位、③砕石位などで行う。

 

図1肛門鏡検査の体位

肛門鏡検査の体位

 

肛門鏡検査前後の看護の手順

肛門鏡検査に関する患者への説明

  • 肛門から筒状の器具を入れて肛門の内部を診察する。
  • 器具の挿入時には潤滑剤を用いるが、多少痛みを生じることがある。
  • 口でゆっくり呼吸をして、できるだけリラックスして体の力を抜くようにする。
  • 検査時間は3〜5分程度である。

 

肛門鏡検査の準備物品

・肛門鏡(内筒、外筒) ・肛門鏡用ライト ・潤滑剤(医療用潤滑ゼリーまたは粘滑・表面麻酔剤) ・ディスポーザブル手袋または指のう ・バスタオル ・膿盆 ・処置用シーツ ・ティッシュペーパーまたはガーゼ

 

図2肛門鏡検査の準備物品

肛門鏡検査の準備物品

 

肛門鏡検査前

  • 排便:検査前にはできるだけ排便を済ませておく。ただし強い下剤の服用や浣腸は、診察上かえって支障をきたすことがあるので行わない。
  • 室温:肌を露出するので寒さを感じない程度の室温に保つ(20℃前後)。

 

肛門鏡検査中

  1. 診察台(または床上で必要に応じ処置用シーツなどを敷く)で検査時の体位をとらせる。
  2. 下半身の下着をとる。殿部の下に処置用シーツを敷く。不要な露出部分にはバスタオルをかける。
  3. できるだけ体の力が抜けるようにリラックスし、ゆっくり口で呼吸をするように患者に説明する。
  4. 医師はゴム製のサック(指のう)またはディスポーザブル手袋を装着し、まず肛門内指診を行うため、第2指と肛門周囲に潤滑剤を塗る。
  5. 医師が指診を行う。
  6. 指診終了後、必要に応じて肛門周囲に潤滑剤を追加する。内筒を入れた肛門鏡の先端に潤滑剤を塗り、ゆっくり肛門に入れる。
  7. 肛門鏡を挿入したら、内筒だけを抜く。
  8. 観察しながら肛門鏡を抜いていく。
  9. 肛門周囲の潤滑剤をティッシュペーパーまたはガーゼで拭き取り、下着をつける。

 

肛門鏡検査後

  • 患部への、指や器具の接触による刺激で出血することがあるので、便の性状の変化や出血、痛みなどを生じることがある。

 

その他(器具の後始末)

  1. 器具に付着した粘液や血液、排泄物などは流水・洗剤でよく洗い流す。
  2. 乾燥後、オートクレーブにかけて消毒する。

 

肛門鏡検査において注意すべきこと

  • 検査中は、診察室の鍵をかける、カーテンを引く、不必要な露出部分にはバスタオルをかけるなど、プライバシーの保護に十分配慮する。
  • 女性の診察時には必ず付き添う。
  • 緊張して身体に力が入ると、かえって器具の挿入が困難になり、診察に時間がかかるので、リラックスできるようにタッチングや声かけを行う。

 

肛門鏡検査現場での患者との問答例

これから肛門鏡検査をします。

 

どのような検査ですか。

 

おしりの方から筒状の器具を入れて肛門の中を診察します。

 

痛くないですか。

 

器具を入れるときに、できるだけ痛くないように麻酔作用のあるゼリー状の潤滑剤を使います。これで器具がすっと滑って入るようにします。ただ、デリケートなところに器具を入れますので、やはり痛みを生じることがあるかもしれません。

 

どれくらいの時間がかかりますか。

 

だいたい3分から5分くらいで終わります。でも、緊張して体に力が入ってしまうと、器具を入れるのが難しくなって診察に時間がかかることがあります。検査がスムースに済むように、リラックスしてくださいね。口でゆっくり呼吸すると全身の力が抜けやすくなりますから、検査が早く終わるように、そのように心がけてください。

 

はい。あの…下着は全部脱ぐんですか。

 

いいえ。下着は少しずらして、お尻が見えるようにしていただければ大丈夫です。前とお腹の方にはタオルを掛けるようにいたします。

 

こうですか。…ではお願いします。

 

はい。ゆっくり深呼吸をしていてくださいね。痛いときは、おっしゃってください。

 

はい。

 

終わりましたよ。下着をはきましょう。お疲れさまでした。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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