「白衣の戦士!」で学ぶ癒着性腸閉塞の治療とケア|けいゆう先生の医療ドラマ解説【11】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
今回は、4月10日から始まった「白衣の戦士!」第1話を取り上げたいと思います。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.11 「白衣の戦士!」で学ぶ癒着性腸閉塞の治療とケア
四季総合病院・外科病棟に新人ナースとして赴任した立花はるか(中条あやみ)は、癒着性腸閉塞で入院中の高校生、潤也(鈴木仁)を担当します。
潤也は、病院でタバコを吸おうとしたり、医師の指示を無視して飲食しようとしたりと、問題行動が目立っていました。
そしてある日、医療スタッフの目を盗んで病院を脱走、無断で飲食したのち、激しい腹痛で倒れてしまいます。
癒着性腸閉塞とは?
今回、潤也は癒着性腸閉塞の治療中にも関わらず、医師の指示を守らず飲食し、緊急手術を受けることになってしまいました。
では、癒着性腸閉塞の管理を行う際、気をつけておくべきこととは何でしょうか?
まずは、癒着性腸閉塞がどんな病気なのか、ドラマを振り返りながら簡単におさらいしておきましょう。
癒着性腸閉塞とは、その名の通り腸管の癒着が原因となって起こる腸閉塞のことです。
多くは、腹部の手術既往がある方に起こります。
腹腔内の手術を行うと、腸管の壁同士がくっついたり、腸管の壁と腹壁や大網がくっついたりする「癒着」をほぼ必ず起こします(図1)。
これは、術後に起こる正常の反応であり、誰もに起こる現象です。
図1
特に今回登場した潤也は、半年前に胃潰瘍の穿孔で手術歴がありましたね。
消化管の穿孔では、腹腔内全体に炎症を起こす(汎発性腹膜炎)ことが多いため、癒着は腹腔内に広く及ぶ傾向があります。
腸管が広く癒着を起こしていても、正常に機能しているなら問題はありません。
ところが、自由に動けるはずの長い小腸が、癒着している部分を中心にねじれたり、癒着した部分で小腸の内腔が狭くなったりするとどうでしょう?
その部分で食べたもの(腸管内容物)の通過が悪くなってしまいますね。
この部分に内容物がつっかえて交通渋滞を起こしてしまうのが「癒着性腸閉塞」です。
では、癒着性腸閉塞に対して、どんな治療をすればよいでしょうか?
治療は減圧と厳しい絶飲食!
癒着性腸閉塞の治療として重要なのは、減圧と絶飲食です。
簡単に言えば、
減 圧=溜まった腸管内容物を外に出す
絶飲食=新しく腸管内容物を増やさない
ということですね。
まずは減圧を目的に、腸管内容物を体外に排出します。
そこで用いるのが、「胃管(ストマックチューブ)」です。
臨床現場では、「マーゲンチューブ」や「Mチューブ」「マーゲンゾンデ」などとあだ名で呼ばれたり、「セイラムサンプチューブ®︎」のように商品名で呼ばれたりしています。
こうした管を鼻から挿入して胃内に先端を留置し、内容物をドレナージするのですね。
何も飲食しなくても、胃液や腸液は毎日分泌されていますから、管を入れておかないと狭くなった部分の上流にはすぐに液体が溜まってしまうのです。
ここで、コーヒー豆を漏斗に通す状態をイメージしてみてください(図2)。
漏斗の出口は狭くなっていますが、ここに大量の豆が載っていると、漏斗をうまく通りません。
ところが、豆の量を減らすとどうでしょう。
細い部分をある程度スムーズに通るようになるはずです。
こんなイメージで、「通過障害が起こった部分の手前の減圧」が通過障害を改善するのに重要だ、と覚えておいてください。
図2
次に、もう一つの重要な治療が、絶飲食です。
当然ながら、食べ物、飲み物を口から入れることを一切禁止し、腸管内容物を増やさないことが大切です。
今回の潤也のように、医師の指示を守れずにこっそり飲食してしまい、腸閉塞を悪化させてしまう患者さんは時にいます。
患者さんの協力なくして、腸閉塞の治療は決してうまくいきません。
上記のように治療の手順を丁寧に説明し、その必要性を患者さん自身が十分に理解している必要があるでしょう。
日頃患者さんと近い距離で接する看護師も、腸閉塞の病態をしっかり理解し、患者さんの疑問に答えられるようにしておくと良いと思います。
最後に余談ですが、今回潤也は、主人公のナース・はるかの前で腹痛を起こし、吐血して倒れてしまいました。
原因は、経過から予想される「腸閉塞の増悪」ではなく、胃の穿孔でしたね。
吐血した経緯もあることから、やはり原因は前回同様、胃潰瘍と考えるべきでしょう。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍を合わせて「消化性潰瘍」と呼びますが、この二大成因はヘリコバクター・ピロリ感染とNSAIDsとされています。
逆に、日本でこれら2つの要因以外による潰瘍の頻度は、胃潰瘍全体の約1〜5%、十二指腸潰瘍全体の2%以下です。
繰り返し起こっている消化性潰瘍ですから、こうした視点で再度治療方針を練り直す必要があります。
消化性潰瘍については、また別の機会にゆっくり解説することにしましょう。
・開腹手術の既往は癒着性腸閉塞のリスク
・主な治療は減圧と絶飲食!
(参考文献)
日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン」(PDF)
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
最終更新日時 2019/6/27
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