救命救急のプロだけが乗るドクターヘリの内部とは? │フライトナースインタビュー【1】
日々、急患に対応する救急医療の現場。一分一秒を争う緊急事態において、ドクターヘリに搭乗し空を飛んで患者さんのもとへ駆けつける看護師がいます。それが、フライトナースです。
今回は順天堂大学医学部附属静岡病院にて、フライトナースのお仕事についてお話を伺います。
フライトナースインタビュー【1】
消防署からの要請を受けて出動
取材にご対応いただいたのは、順天堂大学医学部附属静岡病院の救命救急センターに勤務されている、石倉美穂子さん。現在、同病院に11名いらっしゃるフライトナースのおひとりです。
フライトナースの石倉さん。この日も当番なのでフライトスーツ姿です
「フライトナースになって9年になります。ドクターヘリの担当日は月に3回。当番日には、フライトスーツを着て救命救急センターで通常の業務をしつつ、要請が入れば出動します」
出動要請を出すのは消防署。一時通報を受けた消防署の判断か、または事故等の現場における救急隊員の判断で要請が来るそうです。また、他の病院から要請が来る場合もあるといいます。
「他院から要請が来るのは、例えば2次救急の病院で対応できない重症患者を、3次救急の当院へ搬送するというような場合です。緊急手術や専門的な治療、検査などが必要な方を搬送します」
順天堂大学医学部附属静岡病院は、伊豆半島の付け根、伊豆の国市にあります。
静岡県は全国で初めてドクターヘリが2機体制になった県で、同病院のドクターヘリは、主に静岡県東部の救急医療に従事しているそうです。
「1日に飛ぶ回数は、0回のときもありますし、多いときは7回というときもあります。伊豆は観光地なので、夏の海水浴や冬場のダイビングによる事故が多いです。あとは、箱根の山道でのバイク事故がありますね」
病院のドクターヘリ運航対策室へ出動要請のホットラインが入ると、すぐに無線で連絡が入るそうです。
「当番日のフライトクルー全員が無線機を持っていて、ホットライン入電の一報が無線で流れると、全員が急いでドクターヘリ運航対策室へ集まります」
無線機はちゃんと医療機器への影響がないものを使っているとのこと
ただし、本当に急を要する事態のときは、フライトクルーそれぞれが直接ヘリポートへ向かうそうです。
「救急隊から『とにかくすぐに来てほしい』というような状況のときは、無線で『ドクターヘリエンジンスタート』が伝えられます。エンジンスタートは『行け』というゴーサインで、これがあった場合は全員、すぐに屋上のヘリポートへ向かいます」
ドクターヘリに乗るのは、ヘリコプター運航会社のパイロットと整備士、そしてフライトドクターとフライトナース。研修および体験として研修医や、フライトナース志望の看護師が同乗することもあるそうです。
左から、整備士さん、石倉さん、パイロットさん
入電からヘリの出発まで、早いときにはわずか3分。
一刻を争う状況での迅速な対応が、地域の救急医療を支えています。
ヘリの中は機器がいっぱい
事故や災害の際に要請を受けて、患者さんのもとへ直行するドクターヘリ。今回、特別にヘリの内部を撮影させていただきました。
こちらが内部の様子。機器や器具が並んでいます
後部のハッチを開いた状態。黄色いものはバックボード
左側のストレッチャー上に患者さんが乗ります
ストレッチャーを引き出した際の様子
「飛行中のヘリの機内はエンジン音で騒音が激しいので、ヘッドセットをつけて会話をします。医療器具はシリンジポンプや除細動の機能がついたモニター、吸引器など。バックボードは成人用、小児用、乳児用があります。状況によっては事故現場へ直接行くこともあるため、危険な現場に備えて人数分のヘルメットや感染防御具も常備しています」
搭乗者用のヘッドセット。飛行中はこれで会話します
医療機器はすべて、「耐空検査」で飛行に耐えるかを確認した上で載せているそうです。また、医療機器とヘリの機器が干渉する「電磁干渉」が起きないように、病院とヘリの運航会社で入念にチェックしているとのこと。
「毎日のフライトドクター・ナースのチェックに加え、週に1回、臨床工学技士がチェックします。ヘリの機体は運航会社の整備士やパイロットにお任せしています」
患者さんを救うための「ドクターバッグ」
一刻を争う救急医療の現場。ヘリの出動時には、どのような医療器具が必要かを考えて持って行く暇はありません。そのため、必要な医療器具を詰めたバッグがあらかじめヘリに積まれています。ドクターバッグ、外傷バッグ、小児バッグの3種類があり、それぞれ役割が異なります。
左から、ドクターバッグ、外傷バッグ、小児バッグ
「オレンジと黒のものがドクターバッグ。救急の現場に必要な器具や薬剤を詰めているものです」
中には医療器具がびっしり
上部の黄色い部分には、薬剤が詰められています
「外傷の患者さんの場合、必要な治療、必要な医療器具が変わってくるので、赤い外傷バッグを使用します。スネの大きい血管に刺して点滴代わりにする骨髄針や胸腔ドレーンなど、外傷特有の道具が入っています」
こちらが外傷バッグ。ドクターバッグとは器具が異なります
側面部分には注射器や注射針、縫合用の糸などが
骨髄針も常備されています
「最後が小児バッグ。小児は医療器具のサイズが異なるので、専用のバッグが必要になります」
小児用の医療器具が詰められた小児バッグ
年齢により使用する器具のサイズが決められています
「ヘリから現場に出る際は、ドクターバッグは必ず持って行き、あとは出動の要請内容によって、外傷バッグや小児バッグを併せて持って行きます」
あらかじめ3種のバッグを用意しておくことで、医療器具を選ぶ時間をなくし、また現場で余計なものを持ち出して紛失するリスクも軽減しているのだそうです。
救命救急に従事するフライトナースへのインタビュー。
第2回では、スピーディな対応を求められるドクターヘリ運用の体制についてお話を伺います。
【次の記事】救急現場で頼れるフライトスーツの七つ道具
【フライトナース インタビュー】
【1】救命救急のプロだけが乗るドクターヘリの内部とは?
【3】「診断なし、情報なし」未知の現場で処置を行うフライトナース
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