こんなに進化しているソフト食! 見た目も味もおいしい「摂食回復支援食」開発秘話【前編】

咀嚼(そしゃく)機能や・嚥下(えんげ)機能が低下した高齢者や、手術後の回復期の患者さんが食べるやわらかくつぶした食事は、「ソフト食」「やわらか食」「介護食」などと呼ばれています。病院や介護施設などで、患者さんに提供する機会も多いのではないでしょうか。

 

このソフト食が今、とても進化していることをご存知ですか?

 

今回は、ソフト食を製造・販売するイーエヌ大塚製薬の北村さんに、同社が提供する摂食回復支援食「あいーと」の開発事情についてインタビューしました。

 

前編では、ソフト食の開発に踏み切ったきっかけ、開発の経緯についてお話を伺います。

 

取材に応じてくださった北村さん

 

開発のきっかけは、患者さんが食べたがらない“見た目”

イーエヌ大塚製薬は元々、食事を十分にとることができない患者向けの濃厚流動食や、医療用の経腸栄養剤を製造しているメーカーです。

 

同社の摂食回復支援食「あいーと」。見た目は普通の料理と変わりません

 

同社が新しい分野としてソフト食の開発に取り組み始めたのは、2006年11月。きっかけは、病院の医師から「病気の後遺症や高齢で普通の食事がとれない」「の手術後の患者が普通食に戻る最初のタイミングで食事を出すが、見た目が悪く、食べたがらない」「口から食事をとることが早い回復につながる」という話を聞いたこと。

 

その病院では、やわらかくつぶした「ミキサー食」や細かく刻んだ「刻み食」を出していましたが、これらは残念ながら「おいしそう」とは言い難いものでした。

 

そこで、同社が目指したのは、やわらかいだけでなく 「見た目も味もおいしいこと、栄養もしっかりとれること」。そのために、本物の食材を材料に使うことにこだわりました。

 

開発のカギとなったのは「酵素」。同社では経腸栄養剤の製造において、酵素を使い、栄養成分の分子を腸で吸収しやすいように分解するノウハウを持っていました。

 

まず、食材に酵素をしみ込ませることで食材の細胞を切り離し、食材の硬さの要因となっている繊維を分解。形がくずれない程度にやわらかくする独自の技術「酵素均質浸透法」を開発しました。

 

とはいえ、すべての食材に万能な酵素があるわけではありません。ニンジンなら酵素A、ブロッコリーなら酵素Bが最適というように、200種類ほどの酵素にどの食材が合うかを地道に調べていきました。その組み合わせは1000種類以上に及びます。

 

試行錯誤を経て、食品に合う酵素を発見

 

「当初は、そうやって、さまざまな食材をやわらかくすることには成功しましたが、1〜2時間でさらにくずれていってしまいます。形を保つためにいろいろな方法を試し、例えば食材をゼラチンなどで固めることで、和食の煮こごりのようなものを作ったこともありますが、『おいしそうに見える』にはほど遠いものでした。味に至っては全くダメでしたね」と北村さん。

 

また、「食材をやわらかくしすぎると、その食材本来の食感が感じられず、おいしく感じられない」という壁にもぶつかりました。そこで、肉なら肉らしく、ジャガイモならジャガイモらしく、それぞれの食感を残すことや、食材の栄養価を加工前とほぼ同じにすることにもこだわったといいます。

 

当初はスタートから2年後の製品化を目指していましたが、やわらかくした食材を使って、ようやくメニュー開発に着手したのが2年目でした。

 

病院からの声も取り入れ、品質を向上

「酵素を使った商品をやわらかくするのは化学の領域。でも、それを手がける研究員がおいしさまで追求するのは難しいことです。そこで、味つけについては割烹料理の料理長経験者やホテルのレストランで勤めたことのある料理人を採用し、研究員とタッグを組んで進めています」

 

また、味や見た目は社内で判断ができますが、患者や高齢者にとって本当に食べやすいものになっているかは、研究者の立場では分からないもの。そのため、開発当初から外科や緩和医療の領域で栄養管理を専門にしている医師にアドバイスをもらっているそうです。

 

化学・調理・医療スタッフのもと、開発が進められました

 

ようやく製品化が可能になった3年目には、他の医師にも協力を得て総合病院で臨床試験を実施。大腸がんや胃がんなどの手術で消化管切除をした患者に試食をしてもらいました。

 

「こうした患者さんは通常、ミキサー食や重湯をとりますが、やはり食が進まない方が多いそうです。そうした中で、当社の製品について『これはとてもいいね』というご感想をいただきました。これなら食が進み、術後の回復のために積極的にとりたいタンパク質などの栄養をとることができると。この言葉で自分たちも自信が持てました」

 

その後も見た目、味の精度をさらに上げ、開発から4年目の2010年10月にようやく15品を販売。発売前に新聞で取り上げられてから、問い合わせが殺到しました。

 

「今までは『ミキサー食や刻み食しか作れないのだから、仕方ない』と諦めていた方も多いのではないかと思います。高齢者の方をはじめ、神経麻痺の方や固いものを食べられない方、消化管の疾患で入院し、退院されてから固いものが怖くて食べられないというような方にも喜んでいただいています。思っていた以上に、患者さんや高齢者の方、そのご家族が、おいしいもの、好きなものを食べたい、食べさせたいという気持ちを持っていることを実感しました」

 

通常の食事が困難な方のために、研究や現場との協力を通じて、商品の品質向上に取り組まれているイーエヌ大塚製薬さん。

 

後編では、現状の課題や今後の取り組みについてお話を伺います。

 

【後編】「患者さんの食事を楽しいものに」見た目も味もおいしい「摂食回復支援食」開発秘話

 


<お話を伺った方>

北村 研さん (イーエヌ大塚製薬株式会社 マーケティング本部) 

「おいしさを追求する仕事をしたい」と、2005年中途入社。入社2年目に先輩と2人で「あいーと」を担当し、以来、現在まで商品開発に携わっている。

 

▼摂食回復支援食「あいーと」

http://www.ieat.jp/

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