医師の“思い”が患者を動けなくする|患者を癒す言葉、傷つける言葉

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

山崎大作=日経メディカル

 

 

患者が望む終末期医療の実現の手段として注目を集めるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)。

 

その必要性を早くから説いてきた函館稜北病院(北海道函館市)副院長の川口篤也氏に、医師と患者のコミュニケーションのあり方について聞いた。

 

かわぐちあつや○2003年北海道大卒。勤医協中央病院、勤医協苫小牧病院、釧路協立病院、東京医療センターを経て、2016年4月より現職。「臨床倫理の4分割の表」を用いたカンファレンスの実践や普及を進めてきた他、「アドバンス・ケア・プランニング」の重要性についての発信を進めている。(写真:池内陽一)

 

 

――亜急性期から回復期、在宅医療を担当する立場として、前医の言葉で患者が動きが取れなくなってしまっているケースを経験することはありませんか。

 

多くはないがある。「食べられなくなったら終わりです」とか「瘻を入れないと餓死しますよ」とか。

 

医療者の哲学を、患者に押し付けてしまうのは問題だろう。

 

逆に、「食べられなくなったら寿命ですから」と言われて、胃瘻を造設せずにあとで家族が親戚に「餓死させたのか」と言われることもある。

 

在宅についても、熱心な医者や訪問看護師が家族の環境を顧みずに、「家が一番いいよ。我々が支えるから」と言ったりする。

 

家族が1人で介護して、最期まで自宅で持ちこたえられればよいが、限界を超えて入院して病院で亡くなると、その家族は「一番いいことをしてあげられなかった」という強い罪悪感を抱くことになる。

 

それから、急性期病院の医師で、患者の生活を顧みずに厳しい生活指導をするケース。

 

治療が必要だから、という医療側の論理、善意でやってしまいがちだ。

 

その上、「いやならいいんですよ」「何かあったらどうするんですか」などと言われたら、患者は反論できなくなる。

 

一度、そのような言葉の呪いにかかってしまった人をフォローする方法は、「その時はいろいろ考えて決めたことなので、その決断で良かったのじゃないでしょうか」と支えてあげることくらいしかない。

 

私がそのような患者を持ったとしたら、患者だけでは決めさせない。

 

もちろん私が決めるわけでもなく、一緒に決める。

 

「意思決定支援」という言葉があるが、「支援」という言葉が持つイメージから、支援者は少し離れた位置に立ちがちだ。

 

でも実際に現場で求められているのは共同の意思決定だと思う。

 

重要なのは患者の価値観を汲むこと。医学的な内容だけでは決められない。

 

 

――具体的には、一緒に決めるためにどのようなことをしていますか。

 

川口篤也氏

 

まず、本人の価値観を話してもらう。

 

医療面接は医師が最終的に7割、8割の時間話すことになる。

 

だが、同じように7割、8割の時間を医師が使うとしても、最初に患者に話してもらうと、医師と患者の距離感が変わってくる。

 

とかく医師は、疾患の鑑別のために、すぐに症状の発症時期や性状などを聞きたがる。

 

そうではなくて、「ああ、そうなんですね」などと言いながら、まず一通り患者に話したいことを話してもらう。

 

本人の病体験、解釈にきちんとを傾けるだけで、「この医者はいろんなことを聞いてくれるぞ」と思ってもらえるようになり、共同の意思決定がしやすくなる。

 

患者の意向は、一定ではなく、誰に対して語るかで変わってくる。

 

患者本人の価値観、生き方を可能な限り理解するように努めた上で、「それだったらこの状況なら、これがいいんじゃないか」と自分の意見を表出する。

 

最初に十分に時間を取っても、慣れてくると外来にかかる時間はほとんど延びない。

 

また、私は誕生日などの節目の時に「何歳くらいまで生きたいですかね」と聞いたりする。

 

「いつ死んでもいいの」と話している人も、詳しく聞いてみると「孫のためになんとか○○したい」という話が出てきたりして、患者の価値観を判断する材料になる。

 

もちろん、病気になるとまたその判断も変わる。

 

だから私は、自分の判断を記録するだけではなく、患者の言葉をそのまま記録するようにしている。

 

後々、患者本人の価値観を推し量るための材料になるからだ。

 

救急で運ばれてきた患者や、患者本人から話を聞き取れない場合は、周囲の人に「こんなときに、○○さんならばどのように話しますか」などと聞いていく。

 

答えられない場合も、どのような仕事をしてきたかなどを聞き、患者本人の人生を理解しようとする。

 

すると、価値判断がどうだったのか透けてみえてくる。そこに患者家族の要望や医学的な判断も併せて、少しずつ絞り込んでいく。

 

それでも、医師を前にしたときと看護師などの前とでは、患者の話す内容が変わってくることは往々にしてある。

 

また例えば、在宅で看取るつもりだった患者家族でも、予期せぬ痙攣のような急性症状で病院に搬送された直後などに、違う判断をすることもある。

 

だからこそ、時間があるときに少しでも情報をすりあわせるようにしている。そのときは医師だけでなくスタッフも入れて話をした方がいい。

 

 

――先生はアドバンス・ケア・プランニング(ACP)について、推進しておられると同時に、その危険性も指摘しておられます。

 

ACPという考えが出てきたときには、広める必要があると感じた。

 

90歳の親の死について、家族が一度も考えたことがないというケースがままあるからだ。

 

だが、ACPの本質が分かっていないと、「この患者とは人生の最終段階について話し合いをして心肺蘇生は希望しないと言っていた、だから今後も心肺蘇生はしない」と、ある一点で話されたことだけを切り取って、それが揺るぎない決定事項として扱われる弊害も起こっている。

 

人の気持ちが移ろい揺れることを許せなくなってしまい、ACPを行うこと自体が呪いの行為になってしまう。

 

本質を分からなければ、それこそ医療者の価値観を押し付けることになりかねない。

 

ACPを広く知ってもらう機会を作る必要はあるが、トップダウンで普及させるのではなく、草の根的に対話を繰り返しながら広まっていくのがベストだと考えている。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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