「看護」と「看護でないこと」ってどうやってみわける?|本当に知りたいナイチンゲールの看護の話 【2】
「看護って一体何なんだろう…?」
ナースなら一度はぶち当たるこの悩みを発端に、前回の記事では、実はナイチンゲールが看護の役割を「生活を整えて、患者の自然治癒力の発動を助けること」と定義していると判明!
しかも、ナイチンゲールが書いた『看護覚え書』(現代社)を読めば、「何が看護で何が看護でないかわかる」というお話も!
看護師のお悩みを解決すべく、引き続きナイチンゲールを50年にもわたり研究している小南吉彦さんと金井一薫さんにお話を伺います。
(聞き手/看護師のかげ)
【2】「看護」と「看護でないこと」ってどうやってみわけるの?
現代社の階段、ナイチンゲールの肖像やゆかりある写真の前で(現代社は『看護覚え書』の出版元)。
左:小南吉彦さん(現代社 社主、ナイチンゲール看護研究所 顧問)
右:金井一薫さん(ナイチンゲール看護研究所 所長)
前回、看護の役割を一言でいうと「生活を整えて、患者の自然治癒力の発動を助けること」だというお話がありました。
具体的にはどのようなことなんでしょうか?
はい。ナイチンゲールが「看護」をこのように定義した意味は、体内ではたらく自然の回復のシステムを重視したうえで、
看護は「体内の回復過程を促進させること」。
看護でないことは「生命力を消耗させること」。
ということなんです。
この定義に基づいて、今自分がやっていることが看護なのか、看護でないのか、臨床で考えられるようになるとだんだん迷わなくなると思います。
「看護」…体内の回復過程を促進させること
「看護でないこと」…生命力を消耗させること
えっと…。
「体内の回復過程を促進させること」「生命力を消耗させること」の2つが具体的にどういうことなのか、よくわからないのですが…。
すごく抽象的に感じますよね。
特に「体内の回復過程を促進させる」というテーマは、とても生理学的で難しいです。
このテーマは私が今書いている『新版 ナイチンゲール看護論・入門』(現代社)に詳しく紹介していますので、時間があったら読んでください。
でも「看護でないこと」を知るのはそれほど難しくはないですよ。
『看護覚え書』を読み進めていくと、こんなふうに具体的な例示をたくさん見つけることができます。
たとえば、この一文。
(かすかな音であっても)不必要な音は、(はるかに大きな音であっても)必要な音よりも、はるかに病人に害を与える。
―中略―
またある看護師は、ドアを乱暴に開けるので、そのたびに部屋じゅうの物すべてをがたがたと震動させる。あるいは、一度に運び込めばよいものを、何かを忘れては、不必要に何度もドアを開け閉てする。
訪室して、ナース自身はケアをしているつもりかもしれないけど、不必要な物音をたてることで、患者さんの生命力を消耗させています。
つまり、「ガタガタと音を立てて訪室するのは看護ではない」とナイチンゲールは言っているのです。
たしかに…。
そういうナースも見かけますし、自分自身も急いでいるときにガタガタ音を立ててしまうことがあります。
それが患者さんにとっては害になる(生命力を消耗させている)ということなんですね。
看護師の仕事は「診療の補助」とされていますね。
「診療の補助」と言うと、看護師なら誰でもできるんじゃないかと思われがちですが、「看護であること」がわかっている看護師が「診療の補助」をするのと、そうでない場合とでは全然意味が違うと思うんですよ。
診療の補助のやり方によって、治療の成果を大きく左右することは、現場にいるみなさんが実感しているところだと思います。
そうですね。
看護のやり方によって、患者さんの回復力に差が出ることは多くの看護師が実感していると思います。
たとえば、「2時間置きに痰の吸引が必要」と指示が出ている患者さんを担当しているとき。
2時間置きに機械的に痰を引いていくナースもいます。
でも、2時間置きにアセスメントを行って、患者さんのその時の状況と照らし合わせて痰を引くかどうか決めるナースもいます。
2時間置きに機械的に痰を引いていく行為は、もしかしたら看護じゃない場合があるのかなって思いました…。
吸引は、少なからず患者さんにとっては苦痛ですから、「本当に今、必要なのか判断すること」も大切だと思います。
そうですね。
もし、2時間おきに機械的に行うことで、その時の患者さんの生命力を消耗させているなら、それは看護ではないでしょう。
でも…、忙しくて毎回キッチリ観察やアセスメントを行うのは難しく、最低限、患者さんの命を脅かさないように痰を引いていくこともあると思います。
日常の業務、ぜんぶを「看護」にするのは現実的に難しいかもしれません。
でも、1日の終わりに「これは看護としてできたな」「あのときはできなかったな」と振り返れると、次にも生かせるし、モヤモヤを引きずらないような気がします。
現場の状況、よくわかります。
自分の中で、そういった優先順位づけができていれば、モヤモヤと思い悩む場面は減ると思いますよ。
ぜんぶ完璧である必要はもちろんないのです。
ナイチンゲールも『看護覚え書』の序文で「本書はマニュアルではなく、あくまでヒントですよ」と伝えています。
だから、『看護覚え書』は抽象度が高い書き方になっているよね。
でも、現代の看護に役立つことが満載ですよ。
そうなんですね!
ナイチンゲールがこの本でどんなことを言っているのかもっと知りたいです!
ぜひぜひ!
ではまず、第1章の冒頭、有名な「換気と保温」からみていきましょう。
1、換気と保温(p.21)
第一章の「換気と保温」には、「看護の第一原則は屋内空気を屋外空気と同じく清浄に保つこと」(p.21)と書かれています。
これに続く文章から「看護であること」と「看護でないこと」を読み取ってみましょう!
- いかなるばあいも、空気は常に屋外から、しかも最も新鮮な空気の入る窓を通して、採り入れること。
- 他の病室の空気が流れこんでいる廊下の空気を病室に流れ込ませること。
- まったく風が通らず、ガス灯や食物の臭い、あるいは各種のカビの臭気などがいつも充満している広間からの空気を病室に流れ込ませること。
- 地下の調理場、下水溜、洗濯場、便所、糞尿が詰まって溢れ出た排水溝からの臭気を病室に流れ込ませること。
- 四方を囲まれた中庭などからの空気を採り入れること。風のほとんど吹き抜けない中庭からのばあいは、その空気は広間や廊下からのものと同じくらい汚れているに違いない。
【全文引用】(p.21-22)
良い看護が行なわれているかどうかを判定するための基準としてまず第一にあげられること、看護師が細心の注意を集中すべき最初にして最後のこと、何をさておいても患者にとって必要不可欠なこと、それを満たさなかったら、あなたが患者のためにするほかのことすべてが無に帰するほどたいせつなこと、反対に、それを満たしさえすればほかはすべて放っておいてよいとさえ私は言いたいこと、―― それは《患者が呼吸する空気を、患者の身体を冷やすことなく、屋外の空気と同じ清浄さに保つこと》なのである。ところが、このことほど注意を払われていないことが、ほかにあるだろうか?換気にはともかく配慮をしているという場所においてさえ、まったく驚くべき誤解がまかり通っている。たとえば、病室や病棟に屋外からの空気を充分に採り入れていたとしても、その空気がどこから流れこんでくるかにまで気を配っているひとは、めったにいない。その空気は廊下から入ってくるものかもしれず、その廊下には他の病室の空気が流れこんでいるかもしれないのである。またその空気は、まったく風が通らず、ガス灯や食物の臭い、あるいは各種のカビの臭気などが、いつも充満している広間からの空気かもしれない。地下の調理場、下水溜、洗濯場、便所、いやそれどころか(これは残念ながら私自身の経験であるが)なんと糞尿が詰まって溢れ出た排水溝からの臭気が直に病室に流れこんでいた例さえある。こんな空気による換気では、換気どころか、むしろ毒を流し込むようなものである。四方を囲まれた中庭などからの空気を採り入れるばあい、まして風のほとんど吹き抜けない中庭からのばあいは、その空気は広間や廊下からのものと同じくらい汚れているに違いないからである。
現代のナースが臨床にいると、「汚れた空気」なんてそんなにないよ、と思うかもしれません。
でも、閉め切った部屋での呼気や排泄物の臭気も空気を汚染するものです。
これらの汚れた空気のただ中で患者さんが療養するのは、「回復過程を妨げ」て、「生命力を消耗させる」ことなんです。
そうか…。たとえば、オムツ交換とか、すごくルーチンワークに感じてしまいますけど、「排泄物を素早く片付けることができた=“看護”ができた」と考えるとモチベーションが上がります!
『看護覚え書』ってこんなふうに読んでいくんですね。
かげさん、わかってきましたね!
では続いて、第2章の冒頭を見ていきましょう。
2、住居の健康(p.43)
住居の健康を守るためには、つぎの五つの基本的な要点がある。
1.清浄な空気
2.清浄な水
3.効果的な排水
4.清潔
5.陽光
これらのどれを欠いても住居が健康的であるはずがない。そして、これらに不備や不足があれば、それに比例して、住居は不衛生となる。
- 清浄な空気、清浄な水、効果的な排水、清潔、陽光、すべてが整った住環境で患者を療養させる。
- 清浄な空気、清浄な水、効果的な排水、清潔、陽光、を欠いた住環境で患者を療養させる。
これも、現代の臨床では当たり前になっていることだと思います。
でも、ナイチンゲールの時代、衛生状況は劣悪だったのです。
住居の環境に気を配ることで、感染症を予防できると考えたのが、ナイチンゲールの発見でした。
彼女は、感染を予防するのに理想的な病院の設計まで行いました。
病院の設計に若手看護師が携わることはないから、関係ないな、って思っちゃいがちですけど…。
たとえば、ベッド周りや療養環境を清潔に保つことは現代の看護師にも通じる大事な部分ですね。
では次に、第3章「小管理」の冒頭を見ていきましょう。
3、小管理(p.64)
小管理とは
- 「自分自身を拡大する技術」を持っている。
- 「あなたがそこにいるとき自分がすることを、あなたがそこにいないときにも行われるよう対処する方法」を知らない。
- 看護師が、自分の健康をも顧みず、ほかのあらゆる仕事をも放げうって看護に打ち込むこと。
この部分で最も大切なのは「患者がいつでも安心して看護を受けられるように整える」ということです。
現代のナースにとって、情報共有やチームナーシングは常識になっていると思いますが…。
そうですね。
でも、なんでここまで報告・連絡・相談しなきゃいけないんだろうって思うことも正直ありました…。
こんなふうに、「患者さんの安心」に照らし合わせて考えると納得できます。
情報共有や引き継ぎを「自分自身を拡大する技術」と表現しているところも興味深いですね!
それから、「看護師が、自分の健康をも顧みず、ほかのあらゆる仕事をも放げうって看護に打ち込むこと」を「看護でない」としているところにうるっときます。
はい。第1回の記事でもお伝えしましたが、ナイチンゲールは「看護は自己犠牲」などとは決して言わない人だったんです。
とても理性的に、看護師と患者さんの健康が守られることに注力していました。
このパートの全文を見てみましょう。
【全文引用】
この「覚え書」に詳しく述べている要点にそって、どんなに良い看護を充分に行なったとしても、ひとつのこと―― つまり小管理―― が欠けていれば、言い換えれば、「あなたがそこにいるとき自分がすることを、あなたがそこにいないときにも行われるよう対処する方法」を知らないならば、その結果は、すべてが台無しになったり、まるで逆効果になったりしてしまうであろう。最も献身的な家族や看護師といえども、常時その《持ち場》に詰めていられるとはかぎらないし、またそれを強制するのも望ましいことではない。そして、ある看護師が、自分の健康をも顧みず、ほかのあらゆる仕事をも放げうって看護に打ち込んだとしても、ただひとつの小さな管理が欠けているならば、その半分も打ち込んでいないが「自分自身を拡大する技術」を持っている別の看護師に比べて、その半分も充分な看護を行なえないのである。すなわち、前者に看護される患者はきっと、後者に看護される患者ほど充分には、世話を受けられないはずである。
『看護覚え書』は、看護の道しるべ
『看護覚え書』の読み方がだんだんわかってきました。
学生や後輩に指導したりして、そこで感謝されたときには、やりがいを感じることもあったのですが、これまでは自分自身の看護実践について、目的をハッキリ見出せないこともあったんです。
「看護が好きである」とか「看護はよい仕事である」と経験的に理解している看護師さんは大勢いると思います。
でも、「それがどうしてなのか?」という理由や、看護の目的を言葉で表現できる人は少ないんですよね。
医師であれば「手術をする」とか「薬を処方する」という目に見える形になるけれども、看護は表現がしづらい。
わかります…。
第1回でも言いましたが、私は看護のあいまいなところを言語化するのが苦手で…。
「よい看護をする」「患者さんに寄り添う」ってみんな言うけど、何が正解かわからなかったんです。
それで、医学の知識が広がるほど看護師として評価されるように思ってしまって…。
看護師として成長しようとしたときに、医学知識を身につけようと参考書を引っ張ってくる自分がいます。
治療法や検査法がすごく発達してきているので、診療の補助という仕事がどんどん増えていきますよね。
だから、看護の独自性や専門性がなくても、医師の補助者として十分に忙しく働くことはできる。
医学の知識ももちろん大事です。
でも、それにどんどん惹かれていって、看護本来の仕事には意味がないと考えると、看護師も患者さんもつらくなってしまうと思います。
特に若手の頃は、患者さんからの感謝の言葉で、自分を納得させたり、喜びに変えることはありますよね。
でも、何が看護で何が看護でないかわからないと、「感謝されなければ看護じゃない」みたいになりますし。
そうですね。
ナイチンゲールがこんなにハッキリと、「看護」と「看護でないこと」を分ける考え方を伝えてくれていたとは…。
勤務のなかで「看護」を1つでも多く行う、という目的があれば頑張れますし、やりがいにつながると思います。
自分の中で「看護」の方向性が定まると、ドスンと地に足がついた感覚が得られますよ。
私もスタートの時にもやもやしていたことがあったけどね。方向が分かれば大丈夫よ。
そのための“道しるべ”として『看護覚え書』を活用してほしいと思います。
これまでは本棚の奥にしまっていましたけど、これからは迷ったら開くバイブルとして活用していくことになりそうです。
ありがとうございます!
次回は、金井さん、小南さんがどのようにしてここまで深くナイチンゲールのことを理解していったのか、実はご夫婦でもあるお二人の歴史をお伺いします!
(第3回に続く)
取材時撮影:kuma*
イラスト/渡部伸子(rocketdesign)
文・編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
●新刊
金井一薫 著
現代社白凰選書 48
新版・ナイチンゲール看護論・入門
―『看護覚え書』を現代の視点で読む―
(2019年6月27日発行)
●ナイチンゲール研究所
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●主な経歴
1966年8月
現代社を設立
1968年4月
『看護覚え書』(第1版)を出版
1973年2月
『看護覚え書』(第2版)を出版
1974年6月~1977年3月
『ナイチンゲール著作集Ⅰ~Ⅲ』を出版
1981年5月
『フロレンス・ナイチンゲールの生涯』を出版
●主な経歴
1993年1月~2008年3月
日本社会事業大学社会福祉学部 福祉援助学科 講師・助教授を経て教授
2008年4月~2009年3月
東京有明医療大学設立準備室
2009年4月~2013年3月
東京有明医療大学 看護学部看護学科 教授・看護学部長
2013年4月~2015年3月
東京有明医療大学 看護学部 看護学科 特任教授
2015年4月~
東京有明医療大学 名誉教授
2017年10月~
徳島文理大学大学院 看護学研究科 教授
2019年6月
『新版 ナイチンゲール看護論・入門』出版予定(現代社)
著書・論文多数
【聞き手:かげ】Twitter
総合病院で働き、絵を描く看護師です。医療の勉強に役立つ(てほしい)絵や仕事でのほっこり話などを発信しています。
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