止まらない「風疹」の流行、急がれる「先天性風疹症候群」の対策

新しい命を危険にさらす風疹の流行

 

風疹の流行が止まりません。

 

国立感染症研究所によると、12月5日現在、2018年の風疹患者の累計報告数は2454人

 

関東圏を中心に全国的に流行しており、特に30~50代の男性で感染が広がっています。

 

前回、国内で風疹が流行した際には、2012年に2386人、2013年に1万4344人と一気に増えましたので、来年にかけて流行の拡大が心配されています。

 

国は、流行の中心である風疹ワクチンの定期接種の機会がなかった39~56歳の男性(1962年4月2日~1979年4月1日生まれ)を対象に、2021年度末までの約3年間、ワクチン接種を原則無料とする方針を決めるなど、対策を急いでいます。

 

しかし、風疹の流行で問題となる「先天性風疹症候群」の対策は、待ったなしの状態。

 

医療者からは、

 

「対象者は約1610万人もいると言われているが、ワクチンは足りるのか?」

「ワクチン接種による対策では今回の流行による先天性風疹症候群の阻止は間に合わないのでは?」

「いま、妊婦を守ることを最優先すべきでは?」

 

など、早急な対策を求める声が強くなっています。

 

 

先天性風疹症候群の怖さとは?

先天性風疹症候群の症状(2012~2014年に生まれた45人)/3主徴:難聴67%、先天性心疾患58%、白内障16%/3主徴以外:血小板減少症73%、紫斑47%、頭蓋内石灰化40%、肝腫大31%、脾腫大27%など/3主徴すべて認めたのは3人で、約半数は3主徴のうち1症状のみ/出典:金井瑞恵ら.IASR Vol.39 33-34 2018年3月号

 

先天性風疹症候群は、妊婦が風疹に感染すると胎児もウイルスに感染し、心臓の病気や難聴などのさまざまな障害を引き起こす可能性がある病気

 

妊娠中はワクチンの接種ができないこともあり、風疹が流行すると一定の頻度で発生してしまいます。

 

前回、風疹が国内で流行した際は、2012~2014年の間に45人の先天性風疹症候群の届け出がありました。

 

その後の追跡調査で45人のうち11人が亡くなっていることがわかっています。

 

1人だけ生後15カ月でしたが、ほかは6カ月以内で死に至っています。

 

このように、先天性風疹症候群は、新しい命が危険にさらされる感染症です。

 

 

妊婦を風疹から守るためにできることは?

妊婦が抱えるリスク/●妊娠中はワクチン接種できない●ワクチンを接種していても、抗体が低下している場合がある●症状がなくても風疹にかかっている場合がある●風疹の罹患が妊娠初期であればあるほど、胎内感染で胎児が先天性風疹症候群になる可能性が高くなる

では、妊婦を風疹から守るために、何ができるのでしょう-。

 

2018年11月25日に開かれた、行政や医療関係者を対象とした日本医療研究開発機構主催のシンポジウムでは、海外の動向も踏まえ、現在の風疹の流行に対する必要な施策について話し合われました。

 

シンポジストや参加者からは、

 

  • 妊娠の希望者やその家族に対する抗体検査やワクチン接種の積極的勧奨
  • 抗体があるかを知らない妊婦に対する抗体検査の促進
  • 「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017に基づき、HI抗体16倍以下の妊婦に対する人混みなどを避ける指導
  • 妊婦が風疹ウイルスと接する機会をなくす方策(たとえば、社会的な取り組みとして、職場内で風疹が流行したら妊婦は休ませるなど)

 

などの対策が挙げられました。

 

産科医の立場で発表したシンポジストの川名敬さん(日本大学医学部産婦人科教授)は、風疹の症状がない不顕性感染の妊婦が一定数いることや、ワクチンを接種していても抗体が下がって感染の可能性がある妊婦がいると指摘。

 

そのため、風疹に感染した可能性がある妊婦は、

 

  • かかりつけ医から専門の医療機関(地区ブロックの相談窓口)につなぐ
  • 出産後、異常を正確に診断するため、小児科、耳鼻科、眼科などの医師と連携する

 

などを徹底していく必要があるとしました。

 

 

なぜ、日本の風疹対策は遅れている?

日本の風疹対策には幾つか課題があると言われています。

 

これまでも繰り返し指摘されてきましたが、定期接種で風疹ワクチンを1回も受けていない「未接種者」と、現在は免疫獲得に不十分とされる1回しか受けていない「1回接種者」がいます。

 

風疹ワクチンの定期予防接種(2018年12月1日時点の制度と年齢の関係)/男性:1歳~28歳7カ月は2回個別接種、28歳8カ月~31歳1カ月は幼児期に1回個別接種、31歳2カ月~39歳7カ月は中学生の時に医療機関で1回個別接種、39歳8カ月~は定期予防接種制度による接種なし/女性::1歳~28歳7カ月は2回個別接種、28歳8カ月~31歳1カ月は幼児期に1回個別接種、31歳2カ月~39歳7カ月は中学生の時に医療機関で1回個別接種、39歳8カ月~56歳7カ月は中学生の時に学校で1回集団接種、56歳8カ月~は定期予防接種制度による接種なし/出典:国立感染症研究所「風疹流行に関する緊急情報」

 

その点が大きな課題であることから、定期接種を一度も受けていない39~56歳の男性を対象に、無料で風疹ワクチン接種ができるようになりますが、なお課題があります。

 

  • 医療機関を受診する必要があるが、対象世代は忙しい現役世代
  • 抗体検査の結果、陰性だった人のみを対象としたワクチン接種の無料化(2回は受診が必要)

 

そのため、対象となる中高年の男性が医療機関に足を運びやすい体制を整えることが重要で、企業や自治体の連携など、社会全体での取り組みが必要になります。

 

 

中途半端なワクチン接種により「大人の病気」に

AMED主催シンポジウム

風疹を排除するためにどのような施策が必要か話し合われたシンポジウム

 

流行のメカニズムを数式を用いて再現する数理モデルで風疹などの感染症対策を研究しているシンポジストの西浦博さん(北海道大学大学院医学研究院教授)は、ギリシャでのワクチン接種対策の失敗を基に、中途半端な接種率による弊害があることを指摘しました。

 

西浦さんによると、基本再生産数(一人の感染者がうつす二次感染者の数)が風疹は6~8人と言われており、多少のぶれを考慮して計算すると、風疹の排除を予防接種だけで達成するために必要な接種率は85%程度になるといいます。

 

ギリシャでは、1970年代から1980年代にかけ、風疹の予防接種を行ったものの、風疹排除を達成するだけの接種率までは上がらず、50%などの中途半端な接種率にとどまった結果、感染者の年齢が押し上げられてしまったといいます。

 

ワクチン接種の実施前は、風疹は2、3歳くらいまでに感染する病気だったのが、中途半端にワクチン接種がなされたことで感染者が減り、集団内でゆっくり伝播。その結果、低い感染性の状態で流行が続き、風疹を経験する年齢が後ろ倒しになったと考えられるそうです。

 

西浦さんは、「同じようなことが日本でも起こっており、感染者の年齢が上がったことで、子どもを産む世代の風疹感染リスクが高まっている」と話しました。

 

実際、2018年に報告された感染者の96%が成人で、男性の年齢中央値は41歳、女性の年齢中央値は31歳となっています。

 

***

 

39歳から56歳の男性への抗体検査を含むワクチン接種が無料化される方針が打ち出されましたが、スタートの時期が明確に決まっていません。

 

厚生労働省は、12月13日に開かれた厚生科学審議会で、早ければ補正予算の活用で2018年度中に始めたいとしながらも、ワクチンの供給量や抗体検査結果の判断基準などの整備の状況をみながら進めていくとの考えを示しました。

 

この冬、これから誕生する新しい命が危険にさらされないよう、実効力のある施策が求められます。
 

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

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(参考)

風疹流行に関する緊急情報:2018年12月5日現在(国立感染症研究所)

 2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR)

自治体における風疹発生時対応ガイドライン〔第二版〕(国立感染症研究所)

産婦人科診療ガイドライン-産科編2017(日本産科婦人科学会)

今後の風疹対策について(厚生労働省健康局)

風しんに関する追加的対策骨子(案)(厚生労働省)

風しんに関する追加的対策に係る技術的事項について(案)(厚生労働省)

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