看護職員より介護福祉士の給料が高くなる?

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永井 学=日経ヘルスケア

 

「このまま介護職員の賃金が上がり続ければ、介護事業所で働く介護福祉士などの給与が看護職員より高くなることもあり得るのでは?」――

 

昨年末、総合的な介護人材確保策の一つとして「勤続10年以上の介護福祉士に月額8万円相当の賃金改善を行う」と閣議決定された際、筆者はこう思いました。

 

この施策は2019年10月に予定される消費税率の10%への引き上げに伴い、その財源を用いて実施するものです。

 

実際、先日取材したある介護事業所の経営者が「ウチでは既に介護福祉士の給料が准看護師よりも高くなっている」と教えてくれました。

 

その会社は都市部で高齢者住宅を経営し、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所を併設。介護福祉士が月給26万2500円、准看護師が25万5000円、看護師が月28万5000円で求人を出しています(表1)。

 

介護福祉士の給与は准看護師より7500円高く、看護師より2万2500円低い水準。介護福祉士の給与の内訳で大きいのが、介護職員処遇改善加算の収入を充てた6万7000円です。

 

今般の介護福祉士の処遇改善が実現すれば、将来、看護師との給与水準が逆転しても不思議ではありません。ちなみに同事業所の管理者は31歳の女性の介護福祉士で、管理職手当がつくので月給は約39万円とのことでした。

 

表1 ある介護事業所の求人内容

 

日本看護協会の調査では、介護施設等に勤務する看護師は病院で働く看護師よりも賃金水準が低く、病院から介護分野への労働移動が進みにくい一因になっていると指摘しています(図1)。

 

例えば30~34歳の看護師(正規職員・非管理職)の平均賃金は病院勤務の場合で33万422円、介護施設等の勤務の場合で28万8960円で、4万円強の違いがあります。

 

これを受けて、日本看護協会は今年4月、厚生労働省に対して2019年10月の消費税増税時に、介護職員だけでなく介護事業所で働く看護職員などの処遇改善ができるように現行制度を変更するべきだという要望書を提出しました。

 

図1 看護師の平均賃金(日本看護協会の厚労省への要望書(PDF)より)

 

一方、厚労省の2017年度介護従事者処遇状況等調査では、介護職員の平均給与額(介護職員処遇改善加算(I)~(V)を算定している事業所)は全体で月29万3450円(平均勤続年数7.3年)です(図2)。

 

今後、勤続10年以上の介護福祉士に対してプラス月8万円程度が上乗せされると仮定すると、日本看護協会の調査における介護施設等に勤務する看護師の給与を全ての年齢帯で上回り、病院勤務の40歳以上の看護師に匹敵する給与水準になります。

 

図2 介護職員の平均給与額(2017年度介護従事者処遇状況等調査、介護職員処遇改善加算(I)~(V)を算定している事業所の場合)

 

 

看護職員等の処遇を改善できる新しい加算が創設か

深刻な介護人材不足を背景に、国はこの10年間ほど、介護職員の賃金の底上げを図ってきました。

 

2009年に現制度の前身の「介護職員処遇改善交付金」が創設。キャリアパス制度などを整備した事業所を対象に、介護職員の賃金アップなどの処遇改善に充当できるお金を支給する制度で、2012年には「介護職員処遇改善加算」として介護報酬本体に組み込まれました。

 

以来、同加算の最上位ランクの「介護職員処遇改善加算(I)」を算定する事業所では、平均で月額4万7000円相当(2012年の処遇改善加算からは月額3万7000円相当)の賃金改善が行われてきました。

 

今回の「勤続10年以上の介護福祉士を対象にした月8万円程度の処遇改善」は、介護現場のリーダー層、管理者層の役割が期待されるベテラン介護福祉士の確保を進める狙いがあります。

 

しかし、介護職員処遇改善加算で当初から問題視されていたことの一つに、「処遇改善に充てることができるのは介護職のみ」という点がありました。

 

介護事業所に勤務する看護職員や理学療法士作業療法士言語聴覚士(PT・OT・ST)、ケアマネジャーなどは賃金改善の対象外。とにかく人材が不足している介護職員の賃金を引き上げる、というのが制度の趣旨でした。

 

介護現場では看護職員などに還元できない仕組みであることへの不満も少なくありません。経営者にしてみると、「なぜ介護職員の給料だけが上がるのか」という他職種の不平不満は無視できません。そこで看護職員やPT等への昇給・手当拡大を独自に行ってきた事業所もありました。

 

しかし、この状況がついに変わりそうです。2018年10月15日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、2019年10月の消費税増税に伴う介護職員等の処遇改善に向けた議論が行われました。

 

 

ここで、「趣旨を損なわない程度で、事業所内の配分に当たり、事業所の判断でその他の職員の処遇改善にも充てられるように検討を進める」として、介護職員以外の看護職員、PT等などにも配分できるようにする案が提出され、大筋で了承されました。

 

現行の介護職員処遇改善加算が介護職員のみを対象としていることから、別の加算で対応する方針が示されています。

 

具体的な中身が検討されるのはこれからです。

 

これまで言われてきた介護福祉士への「月8万円相当の賃金改善」についても、新たにプラス8万円の純増なのか、これまで既に4万7000円相当の賃金改善が行われてきたため、差額の3万3000円分の改善なのか現段階でも判然としていません。

 

いずれにしても、新しい加算の導入により、得た原資を介護福祉士や看護職員、PT等などにどの程度配分するのか、そのさじ加減が各事業所の判断に任されることになります。

 

これまでの介護職・看護職といった職種別の賃金相場から変容し、組織に求められる役割や職務内容など、各事業所のキャリアパスに応じて職種によらず賃金の額が大きく異なる形へと多様化することになりそうです。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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